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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

クローゼットr+6222

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これは、大学時代の知人から聞いた話だ。

彼が大学三年生になり、一人暮らしを始めて半年が経った頃のこと。生活にも慣れ、気が緩んでいたのか、外出する際に鍵をかけ忘れるようになったという。最初は「貴重品もないし、盗られるものもない」と高をくくっていたが、そのうち、鍵そのものを部屋に置いたまま外出するのが日常になってしまった。

そんなある日、外出先から戻ると、玄関の扉に鍵がかかっていた。自分では鍵を持っていないはずだ。焦りながら隣家に住む大家のもとを訪ね、マスターキーを借りようとしたが、大家はそれを紛失したと言う。残る鍵は実家で保管している一本だけ。仕方なく彼は夜道を一時間かけて実家まで取りに戻り、ようやく自室に入ることができた。

しかし、ここで奇妙な謎が残る。鍵をかけたのは一体誰なのか。大家は誓って鍵をかけていないと言うし、彼の鍵は部屋の中に落ちていた。つまり、彼の不在中に誰かが部屋に入り、鍵をかけたことになるのだ。

考えたくない可能性が頭をよぎる。誰かが今も部屋の中にいるのではないかと。

狭い部屋に隠れる場所は限られている。彼は震える手でクローゼットの扉を開けた。すると――いた。そこには若い女が身を縮めて座っていた。

「……誰だ……?」声を絞り出すと、女はうつむいたまま何も答えない。どこかで見覚えのある顔だった。記憶を探るうちに思い出した。半年前、突然告白してきた見知らぬ女だ。断ったはずだった。丁重に断ってもなお、彼女は執拗に繰り返し告白し、それから姿を消したはずだった。

「……なぜここに……?」

彼の問いかけにも答えず、女はただ黙っていた。その不気味さに耐えられなくなり、彼は警察を呼んだ。女は連行され、深夜の事件はひとまず収束を迎えた。しかし、安心できるはずの部屋に戻った彼の胸には、言いようのない恐怖と嫌悪感が残った。

翌日から彼は外出時に必ず鍵をかけるようになった。それでも、不安は拭えない。事件の翌夜、部屋でふと奇妙な気配を感じた。どこかから微かに声が聞こえるのだ。

耳を澄ますと、それは人の声のようだった。しかも、あの女の声だ。隣室の住人が騒いでいるのだろうかと壁に耳を当てても、どうも違う。声は部屋の中から聞こえてくる。

次第にその声ははっきりしてきた。「航太……」「航太……」。彼の名前を呼ぶ女の声。もはや幻聴ではないと確信した彼は、友人に助けを求めた。友人が駆けつけ、一緒にクローゼットを確認しようという話になった。

刃物を持っているかもしれないと警戒しつつ、二人で部屋の中を慎重に進む。クローゼットに近づくと、確かに声が聞こえる。友人が啖呵を切り、思い切ってクローゼットの扉を開けた。

だが――誰もいなかった。

それでも声は続いている。明らかに部屋の中で響いているのに、発信源が見当たらない。途方に暮れる中、友人がクローゼットの底に何かを見つけた。小さな黒い物体――ICレコーダーだった。

録音された声が、微かに流れ続けている。女の声だった。「航太、好き」「航太と一緒がいい」「航太、帰ってきて」。繰り返し繰り返し、狂気じみた愛の言葉が記録されていた。

友人はレコーダーを床に叩きつけ、無言で部屋を去った。彼もまた、これ以上その部屋に留まることができなかったという。

それ以来、彼は大学の近くに新しい部屋を借りた。あの女と再び顔を合わせることはなかったが、ふと夜になるとあの声が聞こえてくるような気がするのだと言う。たとえ実際に音がしなくても、耳元に囁くような「航太……」の響きが、頭から離れないのだそうだ。

それ以来、彼は独りで眠ることができなくなった。

(了)

[出典:823 : 本当にあった怖い名無し : 2013/12/01(日) 00:38:14.05 ID:Btpm3SeY0]

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