短編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間 カルト宗教

帰還葬(きかんそう)~カルト宗教の恐怖【ゆっくり朗読】6000

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先日婆ちゃんが亡くなったときの話。

247 本当にあった怖い名無し sage New! 2011/08/04(木) 11:34:53.37 ID:0bHHOZmU0

住んでる地方は戦時中から妙にカルト宗教率が高くて、婆ちゃんは思いっきりそういう宗教に入っていた。

婆ちゃん貧乏なくせに結構な額のお金も納めるくらい熱心な信者。

婆ちゃんはものすごい苦労人で、貧乏で子だくさんなのに旦那が全然働かない人だったらしく、一度家を手に入れても数カ月で手放さなきゃいけなくなったり、住むところがなくてよくわからない人と同居生活しなきゃ行けなくなったり、壮絶な人生を送っていたようだ。

幸せな老後なんてものもなくて、あちこちで借金しまくりの長男夫婦のせいで、結局最後の最後まで苦労とは切っても切れない縁だったようだ。

この夫婦には自分の家族も借金肩代わりさせられそうになったりしている。

そんなもんだから、そういう宗教に頼っちゃうのもしょうがないよな、と考えていた。

婆ちゃんが痴呆ののちあっけなく逝ってしまったので葬儀を行うことになったのだが、その葬儀が怖かった話。

親兄弟も私も父ちゃんも母ちゃんも無宗教です。

婆ちゃんが死んだとどこから聞きつけたのか、全然知らないこの地方の宗教取り仕切ってるお偉いさんがささーっときて、ぱぱーっと何でもかんでも決めて行ってしまった。

見舞いにもいっさい来なかったのに、いきなりやってきて遺族の意見も聞かずに他人の家の葬式セッティングするのか……と、この時点で薄気味悪く感じたものの、婆ちゃんの信じた宗教だからとそのまま葬式は行うことになった。

そして葬式当日。

会場からして奇妙で普通の葬式とは違っていた。

なんていうかこう、何が変っていうのがわからないんだけど、間違い探しみたいに微妙なものがあちこち違う。

普通の葬式にあるものがなくて、ないものがあるみたいな。

その微妙な違いが気持ち悪かった。葬式会場で受付からしてなんだか怖い。

「あの〇〇家の葬式会場は…」

「帰還葬!帰還葬!はこちらになります」

「いえ。葬式です」

「帰還葬!はこちらになっております」

葬式の事をかたくなに「葬式」って言おうとしないの。

その後も来た人に「祖母の葬儀に来てくださり……」とあいさつしたら「帰還葬!」と半ギレぎみに何度も言いなおされた。

会場はほぼ三分の二が宗教関係者席。

それも知らない顔ばかりだ。

彼らも婆ちゃんは知らない方が圧倒的多数みたいだった。

入り口でのあいさつがほとんど「素晴らしい方だったとお聞きしており……」と、また聞きだったのだ。

なんで婆ちゃんの葬式で婆ちゃん知らない奴が圧倒的多数なんだよ、勝手に呼ばないでよ。

そして知らないくせに飲み食いしすぎじゃないかー、と思いながらも三分の一の非宗教関係者の婆ちゃんの親族や友人は、小さなスペースに収まってその葬儀を見守ることになった。

そして始まった式の進行がなんかおかしい。

「我が宗の帰還葬ではお経のたぐいは読み上げません。というのも歴史的にはお経をあげるというのは、後世に勝手に追加されたものであり、本来の仏教では……我が宗の様式が最も正しいものであり……」

まず何をするにも私たちの宗教が正しい。今の仏教は全部邪道で間違っているというような説明つき。

すごく嬉しそうに、いかに自分たちは正しいか読み上げる女の人怖すぎる。

葬式なのにここの部分だけ私たちの方を見ながらめちゃくちゃ嬉しそう。

私たち非教徒席に向かって「お前らがいかにダメなもん信じてるか説明してあげてる」って感じの超ドヤ顔。

そして始まった大合唱に非教徒席一同唖然。

「ナムミョオホオレンゲエキョ ナムミョオー!!!」

「ホオレンゲエキョ ナムミョオー!!!」

「ホオレンゲエキョ ナムミョオー!!!」

「ううッ、ううぅ~!!」

……泣いてる。

お前ら婆ちゃん知らん、って入り口で言ってたじゃないか、なぜ泣いた。

それからはもうやりたい放題。

自分たちが正しいという説明の後に、よく分からない儀式があって、もう後半は聞き流しモードに入っていた。

故人をしのぶよりも宗教の正当性の説明の方が長くて、一番悲しんでるはずの親族一同も涙なんか出す余裕もなかった。

宗教の勧誘セミナーと大合唱だけの奇妙な葬式にぼうぜんとするしかなかった。

やっと解放された時には心神喪失状態で遺族全員くたくた。

帰り際渡された、引き出物みたいなのの中にもまた宗教関係のものが入ってた。

パンフレットみたいな、いかに信じてない人間がクソ野郎で、堕落していて見放されてて、信じなかったばっかりにこれから汚れて不幸な人生を歩んでいくかということと、いかに自分たちが清らかで神の恩恵を承っているかみたいな内容だった。

速攻捨てたけど、人の葬式で勧誘までするのか……と疲れがどっと出た。

ちなみに香典は勝手に「上納」として持って行ったとか。

お葬式代出してくれたわけでも何でもないのに……

婆ちゃん知らない人が大量に押し寄せて、散々飲み食いした揚句に奇妙なパフォーマンスでこんなひどい葬式にしておいて……

……とこんな話を知人達にしたら、その中の一人に

「ばっかじゃないの!うちの宗は香典は正式に禁止してるし!知らないの!?嘘つきだね!最低!そういう嘘でしか自分に注目させられないんだね~」

的なことを一方的に言われてブチキレられました。

本当にあったことなのに悲しかった。

生きてる人間って怖いなと思った葬式でした。

(了)

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