ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ カルト宗教 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

帰ってきたと言われた日 rw+7,908-0105

更新日:

Sponsord Link

先日、祖母が亡くなった。

眠るように、あっけなく。
長く患っていた痴呆が、最後の数か月で急に深まり、そのまま何かが切れるように終わった。悲しみが来るより先に、胸の奥に空洞ができた感覚だけが残った。

この土地は、昔から妙に宗教の濃度が高い。戦時中から続く土着の信仰と、新興宗教が幾層にも重なり、どこまでが慣習でどこからが教義なのか、住んでいる者ですら判別できない。祖母は、その中のひとつに深く関わっていた。

貧しい暮らしの中でも、祖母は欠かさず金を納め、集会に通い、教えを守った。家族の誰もその宗教に入ってはいなかったが、止めることもできなかった。止める理由が、はっきり言葉にならなかったからだ。

葬儀を出すことになった。
父も母も、兄弟も、誰一人として信仰は持っていない。ただ、祖母が長年そこに属していたという事実だけがあり、だから形式もそれに従うべきだろう、という曖昧な合意があった。

異変は、葬儀の前日だった。

祖母が亡くなったことを、どこから知ったのか、見知らぬ男女が突然家を訪ねてきた。名刺には、宗教団体の肩書きが並んでいた。見舞いに来た記憶はない。病院にも、施設にも、顔を出したことのない人間たちだった。

彼らは遺族の意向を聞かなかった。
「こちらで全て手配していますから」
そう言って、会場、進行、役割分担を次々に決めていった。話が早いというより、速すぎた。拒否する隙がない。

祖母が信じていた宗教だ。
その一点だけを理由に、私たちは頷いた。

葬式当日。
会場に足を踏み入れた瞬間、言葉にならない違和感に包まれた。

普通の葬儀と、何かが違う。
だが何が違うのかは、すぐには掴めない。あるはずのものが見当たらず、見慣れないものが、当たり前の顔で置かれている。間違い探しのようで、正解を見つけたくない種類の感覚だった。

受付で名字を告げると、男が明るすぎる声で言った。
「帰還葬ですね。こちらになります」

「葬儀です」と言い直した。
男は笑顔のまま、少し強く言い切った。
「帰還葬です」

その後も同じだった。
参列者に挨拶をするたび、「祖母の葬儀にお越しいただき」と言うと、決まって「帰還葬!」と訂正される。冗談ではなかった。訂正されるたび、こちらが間違っているような空気が積み重なっていく。

会場の三分の二は、宗教関係者で埋まっていた。
だが、彼らの多くは祖母を知らない。入口でそう言っていた。
「素晴らしい信心の方だったと聞いています」
「立派な方だったそうですね」
すべて又聞きだった。

親族と、祖母の古い知人は、会場の端にまとめられた。椅子は狭く、互いに肩が触れる距離だった。

式が始まると、司会の女が私たちを見据えて言った。
「我が宗の帰還葬では、経文を読みません」

理由の説明が始まった。
経とは後世に付け加えられたもので、本来の仏教はどうこう。
他宗派はいかに誤っているか。
正しいのは自分たちだけだという話。

その目は笑っていた。
非信者の席を、値踏みするように見ていた。

やがて、合唱が始まった。

「ナムミョオホオレンゲエキョ ナムミョオー」
「ホオレンゲエキョ ナムミョオー」
「ホオレンゲエキョ ナムミョオー」

泣き叫ぶ者もいた。嗚咽を漏らす者もいた。
だが彼らは、祖母を知らない。

音の塊が、逃げ場なく降り注いだ。
意味は分からなくても、熱だけは伝わってくる。
気がつくと、私は指を強く握りしめていた。声は出なかった。出せなかった。

後半は、儀式が続いた。
故人を偲ぶ時間より、教義を説明する時間の方が長かった。
祖母の名前が呼ばれる回数より、宗派の名前が多かった。

式が終わり、外に出たとき、全員が疲れ切っていた。
引き出物の袋を開けると、食器は入っていなかった。冊子が一冊。
信じない者はいかに堕落し、見放され、不幸になるか。
信者はいかに清らかで、選ばれているか。

私はそのまま、会場のゴミ箱に入れた。

後で聞いた話では、香典は「上納金」として持って行かれたらしい。
葬儀代を出したわけでもないのに。

数日後、この話を知人にした。
最後まで聞かないうちに、その中の一人が怒鳴った。
「うちの宗は香典を禁止してる!嘘つくな!」

事実を話しただけだった。
だが、その場の空気は一瞬で変わり、なぜか私が責められる側になった。

今でも、あの会場の光景がふいに蘇る。
見知らぬ者たちが、祖母の遺影の前で笑い、泣き、叫び、歌っていた。

あの声の熱の中に、確かに何かがあった。
祖母が信じ続けたものの正体は、たぶん、あれだ。

それが何なのかは分からない。
ただ、帰ってきたと言われたものが、本当に祖母だったのかどうかも、分からない。

関わってしまった、という感覚だけが、今も残っている。

[出典:247 本当にあった怖い名無し sage New! 2011/08/04(木) 11:34:53.37 ID:0bHHOZmU0]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, カルト宗教, ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間
-

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.