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消えゆく山寺 r+905

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これは、中学校時代の同級生が話してくれた奇妙な言い伝えだ。

夏休みの剣道部合宿で町のお寺に泊まったとき、夜更けに住職が語った話が元になっている。

その住職、五十代半ばの落ち着いた風貌で、夜の本堂に集まった部員たちに独特の抑揚で語り始めた。
話は、かつてこの地方で語り継がれた「山寺」の伝説についてだった。

昔、村の百姓たちは山には滅多に足を踏み入れなかった。炭や木工品は山住みの者と物々交換で手に入れ、普段の生活には事足りていた。
だが、山菜やキノコを採るためにやむなく山に入ることもあった。そんなとき、村人は必ず何人かで行動し、決して踏み跡の薄い道には足を踏み入れないようにしていた。迷ってしまえば、「山寺」に行き着く恐れがあるからだという。

その山寺は、普段は決して姿を現さない。だが、道に迷い疲れ果てた者の前に突然、大きな山門が立ちはだかる。
山門をくぐると、境内が広がり、その奥に佇む本堂の戸が開け放たれている。だが、寺には誰もいない。
灯されたろうそくや香る線香があるだけで、呼びかけても返事はない。

本堂の釈迦像の背後には地下への狭い洞窟が口を開けている。そこが唯一、村への帰路だという。
ただし、洞窟は完全な闇で、目を閉じたまま手探りで進むことが求められる。目を開けてしまうと、洞窟は果てしなく続き、二度と出口にたどり着けない。

もう一つ重要なことがある。寺の中のものには決して手を触れてはいけない。
もし欲に駆られ何かを持ち出せば、村には戻れても「名前をなくす」と言われている。
「名前をなくす」とは、家族や村の誰一人として、その人を覚えていない、まるでその存在自体が消えてしまうかのような状態だとされる。

住職の話に、部員たちは恐怖と好奇心を抱えながら聞き入った。
奇妙な話だったが、実際にそんな寺を見た者がいたのだろうか。その方法をどうして知り得たのか。

後に、その話を調べた部員の一人が町史や郷土誌に目を通してみたが、山寺に関する記述は見つからなかった。
結局、住職が中学生を驚かせようと作り上げた作り話だったのかもしれない。だが、それにしては語り口があまりに真に迫っていた。

住職は既に他界しており、真相を確かめる術はない。
ただ、部員たちが時折思い出して語り合うとき、その話にはどこか現実味を帯びた不気味さが残っているのだ。

[出典:152 :本当にあった怖い名無し:2012/12/31(月) 02:36:51.19 ID:trb9nl9d0]

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