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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

魔界遊びの手順書 nw+

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小学生の頃、ふざけてやったことが大事になった経験が一度だけある。

十二歳。ランドセルの重さよりも、自分の影の長さが気になり始める年頃だった。

あの頃の男子は、なぜか「向こう側」に触れたがる。心霊写真、こっくりさん、立入禁止の裏山。理由はない。ただ、境界を踏み越える瞬間を試したくなる。

あの日の朝、渡り廊下の隅で数人が輪になっていた。笑っているのに、声だけが沈んでいる。何かを共有している空気だった。自分は眠気を理由に近づかなかった。

放課後、Aが声をかけてきた。

「面白い遊びがある」

そう言って、あの輪にいた連中が、こちらを見る。逃げ道を塞ぐ視線だった。

“魔界へ行く遊び”。

断ろうとした瞬間、Aが言った。

「これ、聞いたら最後までやらないと駄目なんだって。途中でやめると、大変なことになるらしい。終わったら、誰かに伝えないといけない」

感染する仕組みだと直感した。だが、すでに聞いてしまっていた。

Aは、兄が拾ったという古い本の話をした。本屋の裏手に積まれていた、値札のない本。そこに、手順が書いてあったという。

目を覚ますと、目の前にドアがある。

ドア以外を見るな。

右手で開け、閉めるときは左手に持ち替える。

薄暗い砂漠に出る。

振り返るな。

足元にスコップがある。拾え。歩け。走るな。

盛り上がった砂地を掘る。砂を後ろに飛ばすな。

三十センチ掘ると、女のきれいな左手が出てくる。

それを持って前に進め。

気づくと、元の世界に戻っている。

Aは最後に、意味の分からない呪文を低く唱えた。そして言った。

「深呼吸、三回」

吸って、吐いて、吸って、吐いて、吸った瞬間、Aの両手が胸に強く押し当てられた。

心臓が止まった気がした。

教室だった。Aは笑っていた。

「冗談だよ」

それで終わったはずだった。

一ヶ月後、担任が言った。

「最近、危険な遊びが広まっている。心臓発作で亡くなった子がいる」

その説明は、あまりにも具体的だった。ドア。砂漠。振り返るな。スコップ。左手。

教室が急に遠くなった。

帰り道、Aが隣を歩いた。

「兄、本当にあの本を読んだらしい」

「亡くなった子も?」

「……あの本にはね、“約束を完璧に記憶した者だけが行ける”って書いてあった」

「戻れなかったってこと?」

Aは首を横に振らなかった。

「もしかしたら、覚えすぎたんだよ」

その目は、どこも見ていなかった。

それ以来、誰もその遊びを口にしない。

けれど、ときどき夢を見る。

目の前にドアがある。

右手で開け、左手で閉める。

砂漠を歩く。

振り返らない。

スコップは、なぜかもう握っている。

砂を掘る。後ろに飛ばさないように。

三十センチ。

指先に触れる。

きれいな左手。

目が覚める直前、いつも思う。

あれは、掘り出したのか。それとも、こちらが掘り当てられたのか。

——もし今、手順を全部思い出せているなら。

それは、もう一度行けるということだ。

そして、最後に誰かへ伝えなければならない。

(了)

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