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夜の交差点でSingを r+3,079
2025/09/29 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
僕が黒田に出会ったのは、高校一年の春だった。 政令指定都市ではあるが、華やかな都心から外れた、どこか時間が余ったまま固まったような街。家から歩いて三分もすればローソンが三軒、どれも似たような光の色で夜 ...
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紐を引く爺さん n+
2025/09/28 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
小学生の頃に見たことだから、思い違いかもしれない…… けれど、今になっても、あの夜の光景は頭から離れない。家族と出かけた帰り、夜の九時を少し回った頃だった。人気の薄い駅のホームで電車を待っていた。母は ...
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グレートの最後の怪談 r+4,996
2025/09/28 -中編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, 定番・名作怖い話
★人気ベスト300, ネットで有名な怖い話, 時空の歪み小学校五年から六年の夏休み明けまで、田所というやつと同じクラスだった。 あだ名は「グレート」。怪談先生グレート。俺たちがそう呼んでいた。 学校の図書館を根城と呼び、推理小説を片っ端から読んで、目を悪く ...
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ドッペルの街 n+
2025/09/27 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
近所のスーパーFに通うのは、会社帰りのほんの気晴らしだった。 安くてそこそこ品揃えも良く、アイスでも摘んで帰ろうか……そんな程度の場所だったのに、ある日を境にどうにも居心地の悪い場所になってしまった。 ...
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光の抜け殻 r+4,029
2025/09/27 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
両親は、俺が母の腹に宿った夜と、この世に生まれ落ちた夜に、同じ夢を見たらしい。 腹に、淡い金色の光がすうっと吸い込まれていく夢だ。光は小さくもなく、大きくもなく、けれど温かさと冷たさを同時に放ち、脈打 ...
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本気の蕎麦 n+
2025/09/26 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
あのときの記憶は今も舌に、いや、もっと奥に――骨の髄にまで焼き付いている。 きっかけは、一本のメールだった。大学時代の友人から、題名も本文も妙にぞんざいな一文だけのメールが届いた。「今日、本気で蕎麦打 ...
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夕暮れの鳥居 r+3,204
2025/09/26 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
俺には霊感なんてものはないと思っている。 少なくとも、自分が何かを見た記憶は一度もない。だが両親は、俺が二歳のときにそのおかげで命拾いしたと、今でも親戚中に吹聴して回っている。 その日、俺たちは内陸の ...
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お姉ちゃんと鬼ごっこ n+
2025/09/25 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
あれは小学校一年の夏休みのことだった。 思い出すたびに胸の奥がざわつき、体の芯から冷えていくような感覚に襲われる。今ではもう誰に話しても「子供の妄想だったんじゃないか」と笑われるだけだが、あの体験が作 ...
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背に刻まれた主 n+
2025/09/24 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
高校三年の頃、古典を担当していた年配の先生がいた。 白髪をきっちり撫でつけ、動作はゆったりしているのに、妙にこちらの気を引く人だった。普段、授業なんてほとんど聞き流していた俺だが、その先生の言葉だけは ...
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偶然の一致 n+
2025/09/23 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
人は死んでしまえば、あらゆる出来事が一本の線に収束していくのだろうか。 ばらばらに散らばっていた点が、亡き後に結ばれて、運命のように見える。 そう考えるようになったのは、身近な死をいくつも目にしてか ...
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赤い潮の部屋 r+4,009
2025/09/23 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
これは、俺が大学生になってから知り合った友人の話だ。 俺は仮に田口としよう。そいつの名前は佐藤。あくまで仮名だ。 佐藤は三年半ほど前、海の近くのマンションに引っ越した。波打ち際まで歩けば五分もかからな ...
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釘打たれた窓 r+2,723
2025/09/23 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
小さな木造の家だった。外から見れば、ただの古びた一軒家。 けれど中に足を踏み入れたら、そこは空気が濃く、息苦しいほどの閉じられた世界だった。父と母は、いつも同じようなことを繰り返し口にする。「学校は悪 ...
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タイムカプセルの手紙 n+
2025/09/22 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
これは、忘れたくても忘れられない、わたし自身の体験である。 中学三年の卒業を目前に控えた冬のことだった。校舎の窓から差し込む光はどこか鈍く、吐く息ばかりが白く濃かった。クラス全員で集められたわたしたち ...
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焼け跡の温もり r+17,956
2025/09/22 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
★人気ベスト300あの地震のあと、サイレンが町じゅうを貫いて鳴り響いたらしい。 俺は遠くの下宿で授業を受けていて、その音を直接は聞いていない。けれど、電話越しに母が慌ただしく叫んでいた声が、耳の奥にずっと焼き付いている ...
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五億年の闇を知らぬ者 r+6,022
2025/09/22 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, 後味の悪い話
中学生の頃の話だ。 あれが本当にあったことなのか、それとも夢の中の出来事だったのか、いまだに判別がつかない。だが、感触だけは今も皮膚に残っている。あの微かな電流の、骨の奥をなぞるような嫌な感覚が。 俺 ...
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展望台の視線 r+4,507
2025/09/22 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
中学一年の春、祖父が死んだ。 あまりに唐突な、何の前触れもない死だった。 亡くなったのは、祖母と二人で行った温泉旅行から帰ってきたその日の夜だったらしい。心筋梗塞、というのが医者の診断だった。朝まで元 ...
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シューベルトの口 r+1,616
2025/09/22 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
愛媛県小学校三年生の秋、あの教室で見たものを、いまだに忘れられない。 四十年以上経った今も、シューベルトの顔を正面から見られないのは、そのせいだ。 当時、愛媛県の某市に住んでいた。通っていた小学校は、第二次 ...
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奥座敷までの道 r+1,341
2025/09/22 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
子どもの頃のことを思い返すと、必ずあの夕暮れが胸の奥にねっとりと張り付いてくる。 実家は、地方の古い日本家屋だった。間口は広く、奥行きはやたらと長い。廊下は板が痩せ、踏むとぎい、と鳴る。障子は茶色くく ...
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いつまでも四階 r+2,410
2025/09/22 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
怖いってほどじゃないけど、今でもふとした瞬間に思い出して、ぞわっと背中が冷える。 某県のS市で働いていた頃の話だ。 当時俺が勤めていた会社は、S市の中心から少し外れた雑居ビルの四階に入っていた。古くか ...
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三十分前の声 r+2,020
2025/09/22 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
今年になって、ずっと胸の奥に沈めていた記憶が、形を持って蘇った。 複雑で、気味の悪い出来事だ。誰かに話しておかないと、夜がやけに長くなる。 小学三年の春、無口で整った顔立ちの転校生がやってきた。この町 ...
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口入の扉 n+
2025/09/21 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
小学生の頃の体験を、今でも鮮やかに覚えている。 四年か五年の頃だったと思う。鍵っ子で、学校が終わると自分で団地の部屋に帰っていた。住んでいたのは七階建ての古い公団住宅で、灰色のコンクリートがいつも湿気 ...
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2㎜大きい実印 r+3,793
2025/09/21 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
二十五になったばかりの春、数年ぶりに実家へ帰った。 薄曇りの空の下、田んぼの水面が風で細かく震えていて、ああ、やっぱり帰ってきたな、と息をついた。茶の間では母がちゃぶ台に新聞を広げ、膝の上で湯呑を転が ...
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山の神と師の声 r+1,894
2025/09/21 -中編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
射撃場で出会ったあの日から、あの人はずっと私の「師匠」だった。 実の父とほぼ同じ年齢で、子どもはいるけれど、どうやらアウトドアには全く興味がなかったらしい。だからなのか、私のことをやけに気に入り、懐に ...
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父の日記に残されたもの n+
2025/09/20 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
父が亡くなった時、私はただ呆然と葬儀の準備をしていた。 悲しみや後悔よりも、ひとつの事務的な流れの中で身体を動かしているだけだったと思う。火葬を終え、四十九日の法要までの間、私の役目は遺品の整理だった ...
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一代限りの恩恵 r+2,782
2025/09/20 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
父の若い頃の話を、私は何度も聞かされてきた。 港の匂いを思い出すたびに、あの奇妙な話が頭をよぎる。 父は二十代の半ば、遠洋航路の船に乗っていた。港に着けば、船員たちはみな上陸して酒や女や飯にありつく。 ...
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柔術の達人 r+3,035
2025/09/20 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
子供の頃、通っていた柔道場は、近隣ではかなり名の通った場所だった。 市内の大会で上位入賞は当たり前、日本代表経験者まで指導に来ることがあり、当時の自分にとっては、それが普通の世界だと思っていた。けれど ...
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いかんといかんのでな n+
2025/09/19 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
中学の夏休みの記憶が、どういうわけか今でも生々しく残っている。 暑さに負けて、昼過ぎからは扇風機の風に身をさらしてうだうだと過ごすのが習慣だった。テレビも飽きて、ぼんやりしているときにふと喉が渇き、台 ...
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かえるのうた r+4,789
2025/09/19 -中編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, 定番・名作怖い話
★人気ベスト300年末の寒気が、オフィスの窓ガラスを震わせていた。 先輩が、あの調子で肩を叩いてきたのは、仕事納めの一週間ほど前のことだった。 「うちの町の年越し、見てみない? おもしろい行事があるんだ。今年は特に、見 ...
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ローズマリー下宿 r+2,801
2025/09/19 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
大学に入ってすぐ、最初から完全な一人暮らしはきついと考えて、下宿に決めた時のことを思い出すたび、必ず脳裏をよぎるのは亡くなった祖父の顔だ。 まだ生きていた頃、祖父は私の下宿探しを率先して手伝ってくれた ...
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五人目の座席 n+
2025/09/18 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
あれは十年以上前のことだ。 いまも時おり、どうしても忘れられず、夢の中にまで入りこんでくる夜がある。自分の口で語っておきながら、まるで他人の体験を借りているような奇妙な感覚もある。それほどまでに、あの ...
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晴れ間に現れた狩衣 n+
2025/09/17 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
ネットで見つけた話。 京都の上賀茂神社へ出かけたという女性の投稿だった。理由は単純で、雑誌に載っていた八咫烏のおみくじが格好よかったからだという。神の由来などは知らぬまま、軽い気持ちで足を運んだらしい ...
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イトウを知っているか r+1,176
2025/09/17 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
高校一年の夏休み明けだった。 その日、教室の空気はまだ蝉の死骸みたいにじっとりしていて、机の木目からは古い汗の匂いがした。席に着いて間もなく、前の席の男が唐突に振り向き、妙に湿った声で言った。 「イト ...
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練馬二時の足音 n+
2025/09/16 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
あれは、五年前のことだった。 東京の練馬にあるロフト付きのワンルームアパートに住み始めた頃の話だ。 前の会社を辞めたとき、会社が借り上げてくれていた住まいも同時に失うことになった。上司と大喧嘩して辞め ...
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もう一人の俺 n+
2025/09/15 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
あれはまだ中学生の頃だった。 学年もようやく落ち着いてきて、クラスの人間関係も固まってきた頃。ある朝、教室に入った途端、女子のひとりに声をかけられた。 「ねぇ、A学院通ってるんだぁ」 言われた瞬間、意 ...
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見返りの神さま r+3,817
2025/09/15 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
初めてここに書き込みます。これは作り話ではありません。事実をそのまま書きます。 ただ、どう説明していいのか分からない。怖い、というより、ずっと頭の中で澱のように沈んでいる、不思議な出来事です。 母方の ...
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沈黙の予言 n+
2025/09/14 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
小学校の記憶なんて、曖昧で穴だらけになっているはずなのに、不思議とあの名前だけは忘れない。 陽三。小柄で、声はか細く、目はやけに落ち着いていて、いつも妙に静かに立っていた。クラスの誰ともうまく馴染んで ...
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黒衣の読経 n+
2025/09/14 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
血の気が引くような出来事が、あの日立て続けに起きた。 季節は梅雨の始まり、湿った空気がじっとりと肌にまとわりつく日だった。 その日の午後、俺はとある案件で郊外の貸家へ向かった。古びた屋敷……ではない。 ...
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幕が下りない町 #和解劇場 n+
2025/09/14 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
昔、町外れに「和解劇場」と呼ばれる小さな芝居小屋があった。 舞台では、互いに争っていた人々が最後には必ず手を取り合い、抱き合って幕を下ろす。観客は涙を流し、劇場はいつも満員だった。 ある夜、一人の青年 ...
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#誤解陸上 n+
2025/09/14 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
今でも、あの走り出す直前の風の音を思い出すと、背中がじっとりと汗ばむ。 耳の奥で、あの奇妙な声がまだ囁いているような気がするのだ――「おまえの番だよ」と。 高校二年の秋、部活をやめてからしばらく無気力 ...
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二十三分間の祈り r+2,461
2025/09/14 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
……あの日の教室の匂いを、いまでも思い出せる。 窓から吹き込む、八月の朝の空気は生温く、どこか鉄の匂いがしていた。鉛筆と汗と……あと、血のような。いや、本当に血があったわけじゃない。けれど、あれはもう ...
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さいま n+
2025/09/13 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
訳がわからない出来事がある。 誰かに説明しても、どうせ信じてもらえないだろう。けれど、ここに書いておかないと、自分の存在そのものまで溶けていきそうで恐ろしい。 俺の友人、さいまの話だ。 田舎から上京し ...
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耳鳴りの正体 r+1,697
2025/09/13 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
数か月前、俺が体験した話をさせてくれ。 場所は、うちの会社が持ってる某県の山奥にある研修施設。ガテン系の職種で、社員数もけっこう多い会社なんだが、研修のたびに使われるこの施設、どうにも妙な噂が絶えない ...
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供え物を蹴った夜 n+
2025/09/12 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
中学の頃の話だ。 いや、正確に言えば、俺の弟のまわりで起きた出来事を、後から断片的に聞かされ、そしてなぜか俺自身も巻き込まれるように記憶の底に焼き付いてしまった……そんな話だ。 あの頃、弟は高校に上が ...
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ゆうくんのでんわ r+4,709-5,012
2025/09/12 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
学生時代、吉岡くんから打ち明けられた話が、今も耳の奥でこだましている。 ありふれた家庭の光景に紛れ込み、決して拭い去れない影のようにまとわりついて離れない話だ。 彼は高校に入学して間もなく、不器用な立 ...
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十六センチの境界線 r+3,424
2025/09/12 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
三年前の正月、赤坂の日枝神社へ初詣に行った。 あの日は空が澄んで、陽が柔らかくて、風もないのに頬が少しだけ冷たかった。都心とは思えないほど静かで、まるで神様に会いに行くためだけに用意された朝のようだっ ...
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寒いって、あの人が言った夜 r+2,422
2025/09/12 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
病院の怪談夜勤が好き、なんて言うとだいたい驚かれる。 でも、人と関わるのが苦手な自分にとっては、静かな夜の病棟で淡々と仕事をこなすほうが性に合っていた。とはいえ、何も感じないわけじゃない。霊感があるかって訊かれ ...
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白い教室 r+2,230
2025/09/12 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
病院の怪談あれが何だったのか、いまだに説明がつかない。 夢だったと思いたい気持ちもあるけれど、夢にしては、あの時の湿った空気の匂いや、自分の靴の音、天井の染みの形まで、妙に鮮明すぎる。 小学三年の、確か秋口のこ ...
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ダム湖に立つ声 n+
2025/09/11 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
山奥の村で育った。 地図にもろくに載らないような小さな集落で、冬は雪に閉ざされ、夏は山の闇に抱かれるような土地だった。今ではもうダムの底に沈んでしまったけれど、あの場所で過ごした記憶は、土に染み込んだ ...
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五百回目の悪魔 r+2,665
2025/09/11 -短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
部屋に鍵をかけると、無意識に背中で扉を押し返すようにして、その場にしゃがみ込んでしまった。 靴も脱がずに、コンクリートのにおいのする床に座り込んでいた。気づけばまた、泣いていた。 こんなことを、もう何 ...
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祠の裂け目 n+
2025/09/10 -短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+2025
これは、あの夏に友人から聞いた話ではなく、私自身の身に起きた出来事として語らざるを得ない。 実家のある町は、電車も一時間に一本しか通らないような田舎で、周囲は見渡す限りの田んぼだった。空は広く、風の音 ...