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作業灯の灯るはずのない場所 r+1,404

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うちから歩いて十分ほどのところに、もう使われなくなった鉄道用の古いトンネルがある。

名は伏せるが、地元では少しばかり名の知れた心霊スポットで、地元の人間であれば誰もが「そういう場所」として認識している。

事故で何人も死んだ。
建設中にコンクリの崩落があり、列車開通後も数件の不審な死亡事故が続いた末、廃止されたのだという。
人間というものは、死人の多い場所に自然と怯え、そして惹かれる。
今では封鎖されて立ち入り禁止になっているけれど、私の父が子どもだった頃にはそんなものもなく、ただぽっかりと口を開けて、だれでも出入りできたそうだ。

父が話してくれたのは、小学生の夏の夜のこと。
あの時期特有の、蒸し返すような湿気と騒がしい蝉の声のなか、近所の友人たちと肝試しに行ったらしい。
懐中電灯を持ち寄って、トンネルの口へ向かう。
慰霊の鳥居が横に立っていることなど、興味本位の子どもたちにとってはちょうどいいスパイスでしかなかったのだろう。

トンネルのなかは、真っ黒だった。
時間は夜の八時過ぎ。
さすがに通行人などおらず、足元を照らす灯りの輪が進むたび、濡れたようなコンクリの壁に光がぼんやりとにじんだ。
奥へ、さらに奥へ。
父は別段、何か異様な気配を感じることもなかったという。
ただひたすらに、古いトンネルの中を進んでいくだけ。

ところが、途中で誰かが叫んだ。
「逃げろ!」と。

何があったのかは、そのとき父には分からなかった。
けれど、誰か一人が走り出すと、集団というものは容易くつられて動く。
父も例外ではなく、懐中電灯を握りしめたまま、わけもわからずトンネルの出口へと駆け出したそうだ。
息を切らしながら離れた場所まで逃げたとき、ようやく、後方の友人が口を開いた。
「トンネルの中に、何か……いた」
「最後尾のやつが、背中を……撫でられたって……氷みたいに冷たかったって……」

でも、それだけだった。
特に霊障らしいこともなければ、変な物音もなかった。
だから、父は少し残念がっていた。
何もなかった。
ただの肝試し。
拍子抜けだったと。

――しかし。

翌日、祖父が夜中に帰ってきていたことを父は知る。
仕事ではなかった。
職場の飲み会で終電を逃したのだという。
しかも驚いたことに、祖父はあのトンネルを通って帰ってきたのだ、と言う。

トンネルを、だ。

父は祖父に聞いた。
「怖くないの?」と。
すると祖父はけろりと笑って言った。

「怖いわけないだろ。あそこ、明かりついてるし、人がいるよ。いつも作業してるから、顔なじみのやつらばっかりだよ」

父は、そこでおかしいと気づいた。
だって、昨夜、自分が肝試しに行ったときには、明かりなんてどこにもなかった。
それどころか、誰一人、作業員などいなかった。
トンネルは完全に無人で、真っ暗だったのに。

「いや、あそこは今、もう使ってないんだよ?」と父は重ねたが、祖父は首を傾げたままだった。

「使ってない? 何言ってんだ、お前。昨日も中にいたぞ。作業服着て、顔が真っ黒なやつらが……ほら、俺が『お疲れさまです』って言ったら、ちゃんとみんな返事してくれるしな」

父が顔をこわばらせると、祖父は声を出して笑った。
「お前、幽霊が挨拶返すと思ってるのか?」と。

祖父は信じなかった。
あそこにいるのは生きてる人間だと、そう思っていたらしい。
けれど父は思ったという。
あの人たちは、「人間だったもの」なんじゃないか、と。

いや、そもそも……幽霊というものは、「幽霊らしく」してくれるのなら、まだマシだ。
透けていたり、姿が見えなかったり、地縛霊だったりと、分かりやすくいかにもな感じなら。
だが、きちんと作業をして、挨拶まで返してくれる霊だったとしたら、それはもう……どこからどこまでがこの世の者なのか、分からなくなる。

私は、生まれてからそのトンネルに近づいたことがない。
極度の怖がりというのもあるが、父の話を聞いてからは、もう行く気にもならなかった。

だって、父はその日、自分の目では何も見ていない。
けれど祖父は、ちゃんと「見て」、さらに「声まで交わしている」からだ。
より、深く関わっているのは、祖父のほうだ。

そして、こんなことも言っていた。
「行くたびに、作業員の顔ぶれがちょっとずつ変わる」と。

新しい人が、少しずつ加わっているのだという。
だけど、その「新しい人」が、どこから来たのか、祖父は知らない。
作業の内容も、祖父には分からない。
何をしているのか、何のためにそこにいるのか……。

今では、そのトンネルは完全に封鎖されている。
コンクリの塊で入り口は閉じられ、もう二度と人が入ることはできない。
なのに、夜になると、ごくたまに、光が漏れているときがある。
湿気を含んだ空気が、封鎖されたはずの構造物から、ふっと滲む。

私は近づかない。
でも、どうしても考えてしまうのだ。
今も、あの中で、誰かが作業をしているのではないかと。
顔を汚し、額に汗をにじませて、淡々と。

終わりのない工事を。

人の目に触れない場所で、誰に頼まれたわけでもなく。

──ただ、そこにいることが、彼らの仕事なのだと、信じて。

[出典:308 :本当にあった怖い名無し:2022/01/23(日) 17:24:38.71 ID:uhA1MO9x0.net]

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