当時、俺は精神的に荒んでいて、よく大型バイクをかっ飛ばしたりしていた。
その日もバイクで走っていたのだが、広めの幹線道路は渋滞してた。
そこで、道の左端をすり抜けて進んだ。
それなりに運転技術もあったし、どうなってもいいやという気持ちもあり、危険だはと知りながらそれなりのスピードを出していた。
そして、渋滞している車が途切れている所へ来た時、対向車線からファミレスに右折する車に、右側から当てられたんだ。
車も急いで右折してスピードがあった為、かなりの衝撃だった。
今にして思えば一瞬のことだったが、妙なスローモーションを見ている様な感じで、バイクに乗ったまま、俺は電柱が正面に迫ってくるのが見えた。
その時、何か白いものが横から飛びかかってきて、俺はそれに抱きつかれる様な感じでバイクから落ちて、道の脇にある歩道に転がった。
転がるのが止まって、歩道に仰向けになっていると、その白いものは俺の体から離れた。
……それは白い服を着た女の子だった。
その女の子は「ふぅ」とため息を一つつくと、「あぶなかったね」と微笑んだ。
そしてスッと消えた……
俺があまりの事に呆然としていると肩を軽く叩かれ、耳元で「あまり無茶をしちゃダメよ」という声がした。
でも振り返っても姿はなく……
そうしているうちにぶつかった車の人が降りてきて、救急車が来て、病院に運ばれて……と。
俺は足に軽い打撲があっただけで、ほとんど無傷だった。
事故の大きさと比べると、奇跡的といっていいぐらいに。
俺のバイクは電信柱にぶつかり、グチャグチャに壊れていた。
後に警察に事情聴取に行った時、警官から言われた。
「よくバイクから飛び降りられたな。そのまま突っ込んで、悲惨なことが多いんだが……」と。
実は俺は飛びついてきた白い服の女の子を知っていた。
その事故の三年ぐらい前に交通事故で亡くなった、俺の婚約者だった……
病院で息を引き取る時の最後の言葉。
「愛している、ずっと見守ってる」
その事が鮮明に思い出された。
実際のところ、俺が見たのは幻覚なのかもしれない。
でも、事故の時に着ていた皮のジャケットが警察から戻ってきた時、歩道と擦れて傷だらけになった背中の部分に、細い腕と小さい手の形で、無傷の部分がくっきりと残っていた。
彼女を失って、自暴自棄になっていたのが続いていたのだが、その事故があってから、ちゃんと前向きに生きなければ、と思った。
(了)