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死の予兆 r+1357

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これは、幼少期に祖父から聞いた物語である。

祖父の故郷は、神話や伝承が数多く残る地域であり、その話もまたその一部である可能性が高い。遥か古代、この地域の国津神はある特異な誓約を立てたと言われる。それは、死期が迫った者にそのことを知らせるというものである。この誓いの起源や背景については、記録も語り継ぎも残されていない。ただ、そのお告げが与えられるのは、その土地の血筋を受け継ぐ本家の家長だけであるとされる。祖父の語るところによれば、この告げを受けた家長たちは、生前の財産分配や後処理を終え、穏やかに死を迎えるのが常であった。

この死の予兆は時代と共にその形式を変えながらも、少なくとも戦前までは続いていたという。その具体例をいくつか祖父は話してくれた。

たとえば、嵐の吹き荒れる夜、まだ電話が普及していなかった頃のことである。真夜中、家の扉が激しく叩かれる音が聞こえる。「電報です」という声がするのだが、それは家長にのみ聞こえるという。戸を開けると、黒いゴム引きのレインコートをまとい、帽子を深く被った郵便配達員が立っている。彼は無言で電報を差し出し、その後、何も言わずに去る。その姿を目で追おうとするが、自転車ごと忽然と姿を消しているのだ。

その電報には、現在から一週間以内の日付が記されている。それを読んだ瞬間、電報は手の中で霧のように消えてしまう。その時点で家長は悟る。「自分の死期が近い」と。

別の事例もある。山の持ち山を巡回していた際、普段は何の問題もなく通り慣れた道で、急に方向感覚を失うことがある。迷い歩き続けた末に、突然見覚えのない大寺院の前に出るのだ。その山門をくぐり、本堂に足を踏み入れると、中には誰もいない。ただ、蝋燭が揺らめき、線香の香りが漂っている。まるで、つい先ほどまで誰かがいたかのような気配がする。不安に駆られつつもさらに奥へ進むと、位牌堂が目に入る。

その入り口には新しい卒塔婆が立てかけられており、一番上のものに刻まれた文字を見ると、自分の名前と法要の日付が記されているではないか。驚愕して目をそらした瞬間、気が付けば寺は跡形もなく消え去り、自分は再び見覚えのある山道の辻に立っているのだ。

また、別の例では、特に理由もなく氏神の神社に足が向くことがあるという。手水を取ろうと水盤を覗き込むと、その水底に文字が揺らめき、やがて自分の命日の数字が浮かび上がるのである。

さらに奇妙な話もある。冬の晴天の日、家長が孫を背負っていると、赤ん坊が「へくっ」とくしゃみをする。何気なくその顔を覗き込むと、赤ん坊がぺろりと舌を出す。その舌が異様に長く伸び、その表面に墨で濃く命日が記されているのを目撃するというのだ。

こうした死の兆候を受け取った家長たちは、その内容を家族や親族、あるいは檀家寺の住職に伝え、死に向けた準備を始める。自身の身辺を整理し、静かにその時を迎えるのだ。祖父によれば、これらの現象は特別なものではなく、地域社会の中では当たり前に受け入れられていたという。

また、興味深いのは、こうした現象が単に恐怖や迷信として語られていただけではなく、しばしば地域社会の中で神秘的な秩序の一部として捉えられていた点である。たとえば、これらの現象を目撃した人々がその後、地域の伝統行事や儀式において特別な役割を担うことが少なくなかったとされる。死期を知るということが、単なる個人の終焉を超え、家族や地域全体の調和を維持するための重要な契機とみなされていたのである。

また、祖父はある家長が死の予兆を受けた後、村の人々と共有したエピソードを話してくれた。その家長は、自分の命日が近いことを知りつつも、村の若者たちに向けて何度も繰り返し語ったという。「自分のように死を受け入れることで、後に続く者たちが恐れずに生きていけるのだ」と。その言葉は、ただの教訓ではなく、地域全体を結びつける強い精神的な支柱となったそうだ。

こうした例を挙げながら、祖父は語り続けた。これらの伝承が現在も残っているのか、それとも時間の経過と共に消え去ってしまったのかは不明である。しかし、これらの話には、単なる作り話とは異なる深い意味があったように思える。死に向き合い、それを通じて生の価値を見出すという視点が、これらの物語を通して語られていたのかもしれない。

また、祖父の話を聞きながら、私自身もその土地に特有の風景や空気感をありありと思い浮かべたものだ。例えば、祖父が語った嵐の夜の話では、雨音や風の音、そして扉を叩く音がまるで耳元で響くかのような生々しさを感じた。あるいは、見知らぬ寺に迷い込んだときの不気味な静けさや、位牌堂での緊張感が、まるで自分がその場にいるかのように想像できたのである。

しかし、この話が本当に起こった出来事なのか、それとも祖父が幼い私を楽しませるために作り話をしたのかは、今となっては知るすべもない。祖父は既に亡くなり、その地域の伝承も時と共に薄れつつある。現在、その地で同じような現象が続いているかどうかを確認する術もない。

ただ一つ確かなことは、祖父が語ったこれらの話が現実の出来事か否かを超えて、どこか現実を離れた不気味な響きを持っていたということである。その感覚は今も記憶に鮮明に残っている。そしてそれは、単なる物語以上の何かを私に伝えようとしていたのかもしれない。

(了)

[出典:16 本当にあった怖い名無し 2012/12/05(水) 16:09:49.12 ID:y5lAHRl70]

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