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た・り・な・い r+3,454

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あれは、たしか小学四年の夏休みだった。十五年経った今でも、忘れられない。

本当にあったんだ。全部。

当時、俺は山中ってやつとよくつるんでた。クラス替えで同じになったのがきっかけだったけど、そいつ、ちょっと変わってたんだ。
ゲームは親に禁じられてるって言って持ってなかったけど、代わりに妙に外遊びに詳しかった。

拾った棒で石を打って小川の向こう岸まで飛ばしたり、学校に見つかったら怒られそうな場所――例えば、下水の出口とか、鉄塔の真下――そういうとこばかり案内してきやがった。
それが逆に新鮮でさ、退屈知らずだったんだ。

山中は無神経なことは言わなかったし、いつも気を遣ってくれてた。
ただ、小遣いは持ってなかったから、飲み物やアイスはいつも俺の奢りだったけど、嫌な感じじゃなかった。

あの日もそうだった。

夏休みの中ごろ、いつもより遠出して、町外れの小さな神社まで行ったんだ。
人気のない、寂れた神社だった。社殿の扉は閉まったままで、神主の姿もない。

目当てはアリジゴクだった。山中が「社殿の下の砂にいる」って言い出して、二人で潜り込んだんだよ。
褐色の細かい砂にくぼみがいくつもあって、中央に指を突っ込むと、小さなアリジゴクが手のひらにくっついてくる。

アリを穴に落とすと、砂の中からハサミが伸びて、ガジッと捕まえる。
その光景に、しばらく夢中になった。

けど、さすがに飽きて、神社の裏手に回ったんだ。

そこは湿った雑木林になっていて、日も差さず、不気味なくらい静かだった。
社殿の柱に立てかけるように、大小バラバラの板が何十枚も積んであった。

山中がその一枚を手に取って言った。

「神社、作らないか?」

一瞬意味が分からなかったが、ああ、ああいう参道沿いにある小さなお社――摂社っていうのか、あれのことかって気づいた。

妙にワクワクしてな。

二人で板を土に埋めて、屋根を乗せて、即席の社を作った。
俺たちの背丈より少し小さいくらい。釘もテープもないけど、それっぽい形になった。

山中は次に「鳥居もいる」って言って、枝を拾ってきて立てた。
横木はつるで結んだ。できたときは、思わず「おおっ」て声が出た。

でも、山中は満足しなかった。

「御本尊、入れなきゃダメだろ」

言葉は間違ってるかもしれないけど、気持ちはわかった。

探しても、神様っぽいものなんて落ちてるわけがない。
諦めかけたとき、林の外れ――田んぼとの境目に、風化した地蔵様を見つけた。

顔もよくわからない、頭巾もボロボロ、雨ざらしの石像。
それを見た山中が「これにしようぜ」って言って、俺も頷いた。

重かった。息を切らせて、二人で担いで戻った。

社の中央に立てると、不思議とピタリと収まった。空気が変わったように感じた。

「お供えもしなきゃな」

そう山中が言って、手水舎の水で砂をこね、団子を作り始めた。

俺も真似して、泥団子を五つか六つ。仕上げに、アリジゴクを中に埋め込んだ。

地蔵様の前に積み上げて、パンパンと手を打って祈った。

何を願ったかは覚えてない。多分、テストの点とか、そんなもんだ。

そのときは、すごく充実してた。秘密基地を作ったような、妙な誇らしさがあった。

「鈴、つけたいな」

山中がそう言ったから、「家に小さいのがある」と答えた。

次の日。

例の神社に行くと、泥団子が崩れて、中に小指を突っ込んだような穴が開いてた。

「地蔵様が中身、食ったんじゃね?」

山中が笑ったけど、俺はアリジゴクが自力で逃げたんだと思った。

鈴をつけてヒモで鳴らした瞬間、どこからか声が聞こえた。

「た・り・な・い」

子どものような、でも冷たい声だった。

俺と山中は目を合わせて、「聞こえたか?」とお互いに言い合った。

冗談じゃなかった。怖かった。

お供えが足りないんだろう、ってことになって、駄菓子屋でお菓子を買って供えた。
でも山中、あからさまに不満そうだったな。

その日の帰り、家の前で婆ちゃんに呼び止められた。

「お前、どこぞで悪いもん背負ってきたな。肩に黒いのがのっとる」

「虫とりしてただけだよ」って虫かごを見せても、婆ちゃんは納得せず、仏壇の前に連れてかれて、一時間拝まされた。

次の日。

また神社に行くと、地蔵様の前に、猫の死骸があった。

小さな体中に、細い棒で突いたような穴が、無数に開いていた。

「お前がやったのか?」

俺がそう聞くと、山中は「拾ってきたけど、こんな穴開けてねえ」と言った。

お菓子の袋がそのままだったから、「猫を神様が選んだんだ」とか、山中は言ったけど、俺は気持ち悪くて、もう関わりたくなかった。

「なあ、プール行かね?」と誘って、山中も「たまにはいいか」って笑った。

そのとき、また――聞こえた。

「た・り・な・い」

俺たち、黙って顔を見合わせた。まわりに誰もいないのは分かってた。

自転車に乗って、逃げるようにその場を離れた。

家に戻って水着を取って、集合場所のバス停に向かったとき、パトカーと救急車が停まってて、サイレンが鳴ってた。

担架に乗せられた足が見えて、履いてたボロいズックが、山中のだった。

そのまま家に戻った。テレビも頭に入らなかった。

夜になって母親が帰ってきて、「近くで子どもが事故にあったって」と聞いても、俺は首を振った。

山中は、トラックの後ろを走ってて、積んでた鉄筋が落ちて、頭に突き刺さったらしい。即死だったそうだ。

婆ちゃんは帰ってくるなり、俺の顔を見るなり、「やっぱりな」と言って、また仏壇の前に座らせた。

二時間、正座。

それ以降、婆ちゃんは俺をひとりにしなくなった。宿題をさせて、小遣いを与えて、見張るようについて回った。

新学期までに宿題が終わったのは、あの夏だけだ。

山中の葬式には呼ばれなかった。宗教が違ったんだって。
誰も、本当のことは知らない。

……この話を人にするのは、今が初めてなんだ。

あの神社、どうしても気になって、夏休みが終わってしばらくしてから、ひとりで見に行ったんだ。

裏に回ると、鳥居も社もきれいに消えてて、板もなかった。

でも、地蔵様だけは残されてた。

そして、以前は風化していたその顔が……ほんの少し、笑っているように見えた。

そのとき、不意に思ったんだ。

――ああ、「足りた」んだな、って。

[出典:66 :1/12:2020/08/15(土) 01:18:52.34 ID:y3BXYe+r0.net]

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