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行けなかったね rw+2,845-0220

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小学校のころからの友人がいる。

少し変わったやつだった。人と同じことを嫌い、急に黙り込み、突然まじめな口調で説教じみたことを言い出す。中学に上がってから、同じ趣味をきっかけに一気に距離が縮まった。

ある日、放課後の教室で、彼が言った。

「行きたい場所に行く方法、知りたくないか」

冗談だと思った。だが彼は笑わなかった。

「紙を四つに分ける。四隅に貼る。それだけでいい」

それ以上は教えてくれなかった。
「やるなら、一人でやれ」とだけ言った。

夏休みが始まった。

何も起きなかった。少なくとも、私はそう思っていた。

休み明け、彼は学校に来なかった。もともと不登校気味だったから、深く考えなかった。一週間後、心配になって家を訪ねた。

玄関を開けたのは彼だった。

普通に立っていた。普通に笑った。
ただ、目が合った瞬間、知らない人間を見ている気がした。

「久しぶりだね」

口調が違った。ゆっくりで、丁寧で、慎重だった。
あいつはもっと雑だった。もっと乱暴に笑うやつだった。

部屋に通されたとき、違和感の正体がわかった。

壁の四隅に、小さな紙が貼ってあった。

白い、何の変哲もない紙。
何も書いていない。

「片づけ忘れててさ」と彼は言った。

私はなぜか、その紙を直視できなかった。視界の端で、黒い滲みのようなものが見えた気がした。

帰り際、彼は玄関まで見送ってくれた。

「行けなかったね」

唐突にそう言った。

「どこに」

と聞き返したが、彼は首を傾げただけだった。

その日から、彼は毎日学校に来るようになった。
成績も上がり、教師の受けもいい。以前の衝動的な言動は消え、穏やかな優等生になった。

周囲は「よかったな」と言った。

私だけが、落ち着かなかった。

ある晩、自室のドアを閉めようとしたとき、指先に違和感があった。

四隅のうち、一か所だけ、わずかに浮いている。

薄い紙だった。

私はそんなものを貼った覚えがない。

はがそうとした瞬間、背後から声がした。

「やるなら、一人でやれ」

振り向いたが、誰もいない。

紙は、はがれていなかった。
最初から何もなかったように、壁はまっさらだった。

それでも、その日から、部屋の隅が暗く見える。

あのとき、彼が言った。

「行けなかったね」

あれは、私に向けた言葉だったのかもしれない。

今、これを書いている机の上にも、四つの角がある。

さっきから、ひとつだけ、視界の端で揺れている気がする。

見ないほうがいいのは分かっている。

でも、確認しないと、もう行ってしまったことになる。

[出典:70 :本当にあった怖い名無し:2021/08/04(水) 17:53:54.23 ID:/vvQh2LC0.net 2BP(1000)]

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