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短編 r+

林道へ向かう声 r+3,212

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これは、いまだに説明のつかない、自分が直接体験した出来事だ。

四六歳、菓子工場で副工場長をしている。仕事柄、毎朝五時には出社しなければならず、四時には目を覚ます習慣がついている。眠気を誤魔化すため、起きてすぐ煙草を吸う。家の中では禁煙なので、寒かろうが暗かろうが庭に出る。

その時間、必ずと言っていいほど、うちに新聞を配りに来る青年に会う。背は低く、やけに若い。ある朝、顔を覗き込み「中学生か?」と訊いたことがあった。
「いいえ、高校生です。おハよーごザいマす!!!」
まだ空の色が青とも黒ともつかぬ時間帯に、全力で声を張り上げるその挨拶が妙に清々しくて、思わず笑ってしまった。

自分も高校時代、新聞配達をしていたことがある。そのせいか親近感があった。仕事柄、工場で余った菓子を家に持ち帰る癖があり、それを時々、彼に渡してやった。「アリガトーゴザイマス!!!」と、やはり大声で、少し滑稽なくらいの笑顔で受け取っていた。

あの日も、そうやって始まるはずの朝だった。クリスマスの朝だ。庭に出ると、いつもの高校生がこちらへ向かってくる。だが、その顔は陰鬱で、挨拶もない。無言で新聞を突き出し、こちらが受け取る前に踵を返して去っていった。胸の奥に、ちくりとした不快感が残る。
「いつもお菓子をやってるのに……」そんな気持ちが頭をよぎったが、すぐに「彼女に振られでもしたんだろう」と自分を納得させた。

部屋に戻って新聞を開くと、一面の大見出しが目に飛び込んできた。
『高校生惨殺』
なぜか、その文字を読む気になれず、いつも通りテレビ欄やスポーツ欄へと視線を移し、支度を始めた。

出勤時、門を出ると見慣れぬ太った中年男が新聞を差し出してきた。
「おはようございます」
「うちは○○新聞しか取ってないぞ」
「ええ、○○新聞です」
「いや、今もう配達されたけど」
「はあ……? 本日担当の子は休んでますが」

半信半疑で受け取った新聞は確かに○○新聞。だが、一面の見出しは政治の話題で、さっき見たものとはまるで違う。慌てて家に戻り、先ほどテーブルに置いたはずの新聞を探したが、どこにもない。妻に訊ねても「そんな新聞なかった」と言う。遅刻が迫り、そのまま家を飛び出した。

翌朝、また庭で煙草を吸っていると、高校生が現れた。やはり無言で、乱暴に新聞を押し付けてくる。
「その態度、なんだ? もう菓子やらんぞ」
返事もせず、林道の方へと歩いていく。

新聞を開くと、再び『高校生惨殺』の文字。今度は目を通した。
――配達途中の高校生、遺体で発見。死後約一週間経過。全身に十六か所の刺し傷。指の損傷。打撲による頭部損壊……顔面は判別不能、歯形により身元特定。○○県○○町林道脇にて発見。

○○町は、自宅からほど近い。高校生がいつも曲がる角を、その日も昨日もまっすぐ行った先に、その林道がある。ぞくりと背筋が冷えた。

出勤時、再びあの中年男が新聞を差し出す。
「今日もあの子、休み?」
「ええ……無断欠勤です。家にも帰ってないそうで」
冗談めかして「死んでんじゃないの?」と言うと、男は苦笑して去った。

三日目も、彼は現れた。無言で新聞を渡し、林道の方へ歩き去る。
「きみ、死んでるんじゃないのか?」
それでも振り向かない。

新聞は、同じ見出し、同じ記事。もしや、本当に死んでいて、自分に発見してほしいのか――そう思った瞬間、会社を休む決意をした。昼過ぎ、林道に入り、脇の茂みを探し回った。しかし何も見つからなかった。

四日目、寝坊して顔も洗わず家を出ると、あの中年男が立っていた。
「死んでましたよ。自宅裏のドラム缶の中で凍死です。イブの日だそうです。……ご主人、なんで死んでるってわかったんです? 預言者ですか?」
何を言われているのか理解できず、黙って通り過ぎた。

後日、彼の家がうちの近所だと知った。狐のようにつり上がった目を思い出し、油揚げと工場から持ち帰った菓子を紙袋に入れ、家の裏へそっと投げ入れた。それが供養になると信じて。

あの『高校生惨殺』の新聞は、今も手元にはない。あの挨拶の声も、もう二度と聞こえない。だが、林道を通るたび、冬の冷たい空気の中に、あの足音だけが確かに蘇る気がする。

(了)

[出典:839 :本当にあった怖い名無し:2005/08/26(金) 09:48:21 ID:o/5UZ+Z/0]

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