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封印された廃屋と呪縛 r+7,008

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禁断の記憶

これは、私が少年時代に足を踏み入れた、呪われた土地の物語だ。

私が小学五年生だった夏。東京で生まれ育った鍵っ子の私は、毎年恒例となっていた母方の祖父母の家で、一ヶ月ほどの日々を過ごしていた。山あいにひっそりと佇むその集落は、五十人にも満たない人々が暮らす静かな場所だった。

都会のコンクリートジャングルとは無縁の暮らしは、ファミコンがなくとも刺激的で、私にとっては天国そのものだった。年長の卓也(中1)、その弟の雅也(小6)、そして私より一つ年下の慎吾(小4)。私たちはいつも四人で、川で泳ぎ、山でカブトムシを追いかける毎日を送っていた。

その集落には、大人たちから固く禁じられた場所が二つあった。一つは、集落の南端にある薄暗い森のお稲荷さん。私たちは度胸試しと称して、この禁忌をあっさりと破った。

そして、もう一つが「墓地の先には絶対に行くな」と言われていた、峠へと続く県道沿いのエリアだった。

誘い

肝試しを終えた翌日、雅也が不気味な笑みを浮かべて口を開いた。
「墓地の先にある鎖が張られた道の奥に、ものすごく不気味な家があるらしいぞ」
年長の卓也ですら、その道の先は川で行き止まりになっているはずだと訝しむ。しかし雅也は、洪水で流された古い橋の代わりに、藪に隠れた旧道とその先に残る吊り橋の存在を、別の集落の者から聞き出したと語った。

「いわくつきの家らしい。面白そうじゃないか?」

雅也と卓也は乗り気だったが、臆病な慎吾は尻込みしていた。しかし、仲間外れにされることを恐れた慎吾も、結局は我々と行動を共にすることになった。

廃屋

集落から歩くこと十数分。製材所と墓地を抜け、雅也が指さす藪の切れ間に入ると、錆びた鎖が道を塞いでいた。鎖をまたぎ、苔むした砂利道を進むと、木々に囲まれた薄暗い道の先に川が見え、道は途切れていた。対岸にも同じように道が続いている。

雅也の言葉通り、近くの藪の中に旧道への入り口があった。笹で手を切りながら進むと、古びた吊り橋が姿を現す。軋む橋を一人ずつ慎重に渡りきり、獣道のような旧道を進むと、不意に視界が開けた。

そこには、二軒の廃屋が道を挟んで向かい合うように建っていた。かつては他にも家があったであろう空き地が広がり、森閑とした中に不気味な空虚さが漂う。広場の入り口には、風化して顔の判別もつかない地蔵が赤茶けて佇んでいた。

廃屋はどちらも窓や玄関が板で×印に打ち付けられ、固く閉ざされていた。しかし、一軒の家の裏手に回ると、鍵が掛かっているだけのドアが見つかった。卓也と雅也が力を込めてドアをこじ開けると、バコンという大きな音と共に、カビと埃の臭気が立ち込めた。

呪いの目覚め

家の中は異様だった。家財道具は何もないのに、畳の部屋には大きな葛篭(つづら)と壁に立てかけられた姿見が一つ。カレンダーは二十年近く前の日付で時が止まっていた。葛篭には黄色く変色した和紙の封筒が貼られ、中にはミミズが這ったような文字と、赤黒いシミのある紙が入っていた。

別の和室にも姿見があり、その向かいには小さな木箱が置かれていた。木箱にも同じような封筒が貼られている。そして玄関には、ガラスケースに入った日本人形。そのケースにもまた、同じ封筒があった。

その時だった。誰も触れていないはずの小箱の蓋が、ひとりでに開いていた。続いて、葛篭の蓋も。恐怖に顔が引きつる中、玄関に目をやった私は絶句した。

ガラスケースから、日本人形が消えていた。
そして、玄関の土間に、その人形が立っていた。

私の声にならない叫びと同時に、家中の鏡が一斉に倒れる。鏡の裏には、黒々とした墨でびっしりと小さな文字が書きつけられていた。

雅也が「ウオォォォ」と獣のような雄叫びを上げ、葛篭にしがみつく。その肩越しに葛篭の中を覗き込んだ卓也が「うぎゃあああ!」と絶叫し、腰を抜かした。雅也はもはや意味不明な言葉を叫び続け、卓也もパニックに陥り、もう一軒の廃屋の戸を狂ったように叩き始めた。

雅也がいる廃屋の玄関に、ゆらりと人影が現れる。顔の印象が全くない、のっぺらぼうのような「それ」は、ゆっくりと雅也のいる部屋へ向かっていった。目が合った、と私は確信した。恐怖が限界を超え、私は慎吾の手を引いて無我夢中でその場から逃げ出した。

神主の宣告

次に記憶がはっきりしたのは、夕闇が迫る県道を、泣きじゃくる慎吾の手を引きながら、集落に向かって歩いている場面だった。昼前に出たはずが、既に日は落ちかけていた。

集落に戻ると、大人たちに囲まれ、私たちは途切れ途切れに事の経緯を話した。大人たちの顔から血の気が引き、卓也と雅也の母親は泣き叫びながら私を打ちのめした。

そこへ、別の集落から神主が現れた。神主は私たちを見るなり厳しい顔で「何をした?」と問い詰める。お祓いのため裏山のお稲荷さんに連れて行かれ、塩と酒、そして酢を頭から浴びせられた。無理やり酒と酢を飲まされると、激しい嘔吐が襲う。私たちが吐き出した吐瀉物は、ねずみ色がかった黒色をしていた。

その夜、神社の本殿で神主から全ての真相が語られた。

あの家は、かつてFという男が住んでいた場所で、向かいの家に住む一家を呪い殺すために強力な呪術が使われた。

結果、向かいの一家だけでなく、Fの一家も全員が怪死を遂げた。呪術は術者の手に負えるものではなかったのだ。

葛篭には呪いの元凶が、鏡は呪いの力を反射させ、札で押さえ込むことで封印していた。

私たちはその封印を解いてしまった。祓うことはできず、呪いはお前たちに災いをもたらし続けるだろう。

神主は塩と酒と酢、そして水の入った小瓶を渡し、「この水が熱くなったら災いが来る合図だ。向こう三十年は続くだろう」と告げた。

そして、「二度とこの集落に来るな。慎吾とは会うな。この話は誰にもするな」と固く口止めされた。

十八年後の悪夢

翌日、私は東京へ帰された。
後日、祖父母から聞いた話によると、雅也はあの場所で遺体で発見された。卓也は精神を病んでしまい、彼らを助けに行った青年団の者にも死者や精神を病む者が出たという。そして、卓也と雅也の両親も、相次いで自ら命を絶ったり、急死したりした。

私たち家族も、慎吾の家族も、程なくしてあの集落を離れた。

それから十八年。
私は、神主の言葉通り、呪いと共に生きてきた。大学時代、神主にもらった水の瓶が破裂した。直後、その神主一家が事故で亡くなったと知らされた。それからだ。祖父母が、両親が、そして親友が、次々と不審な死を遂げていった。必ず、彼らが死ぬ直前、私は雅也の夢を見ていた。

一昨日の夜、新宿の駅で、私は慎吾と再会した。十八年ぶりでも、一目でわかった。彼の家族もまた、全員亡くなっていた。

私たちが生きているのは、死ぬよりも辛い「近しい者を失い続ける」という呪いを、雅也が望んでいるからではないか。私たちは、この呪いを終わらせるため、あの場所へ行くことを決めた。

追記

週末、私は一人であの集落へ向かった。慎吾は恐怖に耐えきれず、来なかった。彼を責めることはできない。

廃屋へ続く吊り橋は朽ち落ち、渡ることは叶わなかった。集落で聞き込みをしても、人々は私を恐れ、門前払いするばかりだった。ただ一人、昔馴染みのおばちゃんが、先代の神主が亡くなった後、集落に新しい神主が来て厄災を鎮めていると教えてくれた。

神社へ向かうと、新しい神主は全てを察したように私を迎えてくれた。彼は、私と慎吾の行方が知れず、守ることができなかったと語った。そして、私が結婚し、もうすぐ子供が生まれることに酷く驚いていた。

神主は言う。「子供ができたことが、幸いしたのかもしれない。だが、君の呪いは子供に受け継がれるだろう。君が死んだ後も、その子の過酷な人生は続いていく」

頭が真っ白になった。しかし、神主は続けた。「君がここに来てくれて良かった。もう大丈夫だ。東京にいる私の知人を紹介しよう。奥さんと息子さんを連れて行ってはいけないが、その人が必ず力になってくれる」

涙が出るほど安堵した。しかし、私の心にはまだ「雅也に会わなければ」という思いが渦巻いている。神主はそれを「行けば君も化け物になるだけだ」と強く止めた。

この話を不特定多数の人が見る場所に書けば、呪いが分散され、妻や子への厄災が弱まるのではないか。そんな考えも、神主は「より大きな影響を及ぼす可能性もある」と諌めた。

それでも、私はここに全てを記す。
これを読んだことで、万が一あなたに良くないことが起きたのなら、本当に申し訳ない。

私は、私の子を宿した妻を守りたい。その一心で、この禁断の記憶をここに解き放つ。

(了)

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