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怖い話ネット【厳選まとめ】

長編

邪悪な呪いの連鎖

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昔田舎で起こったこと。

俺が小学五年の頃の話だ。東京で生まれ育った一人っ子の俺は、ほぼ毎年夏休みを利用して一ヶ月程母方の祖父母家へ行っていた。

両親共働きの鍵っ子だったので、祖父母家に行くのはたいてい俺一人だったが、初孫だった俺を祖父母はいつも笑顔で歓迎してくれた。

山あいにある小さな集落で、集落の北端は切り立った山になってて、その山のすぐ下を県道が走ってる。

県道沿いに商店が数軒並んでて、その中に祖父母家があった。

山を背にすると猫の額程の平地があり、真ん中に川が流れてて、川を渡って数分歩くとすぐ山になる。

山に挟まれた県道と川がしばらく坂を上っていくと、険しい峠になっていて、この集落は峠までの道で最後の集落になってる。

この峠は名前も何だか不気味だったこともあって、昔ながらの怪談話をよく大人たちに聞かされたものだった。

そんな寒村の小さな集落、全部合わせて五十人も住んでないような場所だから、遊び仲間になる子供も5~六人ぐらいしか居なかった。

よく遊んでいたのが、子供たちの年長者である卓也(中1)

卓也の弟の雅也(小6)

仲間内で唯一俺より年下だった魚屋の慎吾(小4)

川で泳いだりカブトムシを取りに行ったり、東京のコンクリートジャングルで生まれ育った俺にとって、ファミコンが無くても楽しい田舎での暮らしは新鮮で、天国のようだった。

小5の夏休み。

2011/04/09(土) 16:40:44.58 ID:mwfbU+CM0

俺は例年通り新幹線とローカル線、さらにバスを乗り継ぎ六~七時間掛けて祖父母家に行った。

翌日から遊び仲間たちに挨拶回りをして、早速あちこち走り回って遊びまくった。

集落の大人たちから「行ってはいけない」と言われていた、集落南端の山中にあるお稲荷さんで肝試しもした。

カンカン照りの昼間だけど、鬱蒼とした森の中で、北向きなせいもあって薄暗くて怖かったな。

それとは別に、もう一ヶ所「行ってはいけない」と言われてた場所がある。

場所、と言うか、俺が聞いてたのは漠然としたエリアで、県道伝いに峠方面に行くと県道沿いに製材工場と墓地がある。

「その墓地から先には絶対に行くな」と。

今でこそ県道は道幅が拡張されたり、トンネルがいくつもできたりしてるらしいが、当時は集落から数キロ先の峠まで、道幅も狭くて交通量も多かったので、危ないからだと説明されていた。

確かに両親と車で行ったとき、車で峠を越えたことがあったけど、崖にへばりつくような道で、車線内に収まりきらない大型トラックが、センターラインを跨ぎながらビュンビュン走ってたのを覚えている。

肝試しの翌日、昨日の肝試しはたいしたこと無かったなと、皆で強がりながら話しているとき、雅也がニヤニヤしながら話はじめた。

「峠の方に行った墓の先、鎖がしてある道あるじゃん? あの先にすっげぇ不気味な家があるらしいよ!」

卓也「家? 鎖の奥に行ったことあるけどそんなの無かったぞ」

慎吾「えぇ? 卓也君行ったことあるの!? あの鎖の先は絶対行っちゃいけないって……」

卓也「おう、内緒だぞ」

どうやら本当に行ってはいけない場所というのは、鎖のある道小道だったようだ。

卓也「あの道の先って、川にぶつかって行き止まりだぞ」

雅也「それがな、昔はあの先に橋があったらしいんだよ。でも、俺たちが生まれた頃に洪水で流されたんだって。で、あの道とは別に、川の手前から斜めに入ってく旧道があるらしいんだよ。そこに古い橋がまだ残ってるって話だぜ。旧道は藪だらけだし、周りは林だから、あの道から橋も見えないけどな」

卓也「誰に聞いたんだ……?」

雅也「川端(別地域)の奴に。いわくつきの家らしいよ」

卓也「面白そうだな」

雅也「だろ? 今から行ってみようぜ!」

卓也と雅也兄弟はノリノリだったが、年少者で臆病な慎吾は尻込みしていた。

雅也「慎吾はビビリだなお前夜小便行けなくて、寝小便が直らないらしいな」

慎吾「そんなことないよ!」

雅也「やーいビビリ おい、慎吾はビビリだから置いてこうぜ」

慎吾「俺も行くよ!」

俺たち四人はわいわい騒ぎながら、県道を峠方向に歩いていった。

集落から歩いて十分。

製材所や牛舎を抜けると、山側に大きな墓地がある。

そこからさらに五分程歩くと、雅也が言う『鎖の道』が右手にあった。

車に乗ってたらまず気付かないであろう、幅2m程藪が薄くなっているところを覗くと、5m先に小さな鉄柱が二本あり、ダランとした鎖が道を塞いでいる。

鎖を跨ぎ、轍が消えかけ苔と雑草だらけの砂利道を少し歩くと、道は徐々に右へとカーブしていく。

鬱蒼とした木々に囲まれて薄暗いカーブを曲がっていくと、緑のトンネルの先から、ひときわ明るい光がさしこんでいた。

そこで川にぶつかり、道は途切れた。

今居る道の対岸にも、森の中にポツンと緑のトンネルのような道が見える。

対岸まではせいぜい10~15mぐらい。川幅ギリギリまで木々が生えてるため左右の見通しは利かない。

足元には橋台の跡と思われるコンクリートの塊があった。

卓也「やっぱ行き止まりじゃねーか」

雅也「まぁ待ってよ。ほら、コレ橋の跡でしょ?あっち(対岸)にも道があるし」

卓也「ほんとだ」

雅也「戻ろうぜ。旧道の目印も聞いてあるからさ」

そこから引き返してカーブを曲がっていくと、カーブの付け根あたりで雅也が道の脇を指差した。

雅也「ほらこの石。これが旧道の分岐だ」

人の頭ぐらいの大きさの、平べったい石が二つ並んで落ちていた。

ひとつは中心がすこし窪んでいて、雅也曰く昔はここに地蔵があったんだとか。

県道方面から見て、カーブの入り口を左側。

濃い藪が広がってるなかで、確かに藪が薄い一本のラインが見える。

藪の中は緩い土がヌタヌタと不快な感触だが、このライン上は心なしか踏み固められているように思えた。

藪を掻き分け、笹で手を切りながら進んでいくと、川に出た。

雅也「ほれ、橋だ」

雅也がニヤケながら指差したのは、古びた吊り橋だった。

卓也「橋ってこれかよ行けるか?これ」

雅也「ホラ、結構丈夫だし行けるだろ」

まずは、雅也が先陣を切って吊り橋を渡りはじめた。

ギギギギと嫌な音はするけど、見た目よりは丈夫そうだ。

慎吾は泣きそうな顔をしていた。

いっぺんに吊り橋を渡って橋が落ちたら洒落にならないので、一人ずつ順番に対岸まで渡ることになった。

一番ノリノリの雅也が渡り終えると、次に卓也、そして俺が渡り終えて、最後に残った慎吾を呼ぶが、モジモジしてなかなか渡ろうとしない。

雅也「おい慎吾! 何怖がってんだよ! 大丈夫だよ。俺らが渡れたんだから、一番チビなお前が渡っても橋が落ちることはねーよ!」

対岸からあーだこーだとけしかけて、五分近く掛かってようやく慎吾も渡ってきた。

涙で顔をグショグショにした慎吾の頭を、笑いながら雅也がグシャグシャと撫でていた。

橋までの道と同じような藪が少し薄いだけという、獣道にも劣る旧道を2~三分程歩くと、右手から苔と雑草だらけの砂利道が合流してきた。

流された橋の先にあった車道だろう。

そこから100m程だろうか、クネクネとS字カーブを曲がっていくと、広場のような場所に出て二軒の家があった。

元々は他にも数軒家があった形跡があり、奥にはすぐ山肌が迫っていた。

家があったと思われる場所は空き地になってる為、鬱蒼とした森の中でかなり広いスカスカな空間が不気味だった。

二軒の家は平屋建てで、道を挟んで向かい合うように建っている。

どちらも明らかに廃屋で、左手の家には小さな物置があった。

広場の入り口には、風化して顔の凹凸がなくなりつつある古い地蔵があったが、何故か赤茶けていた。

卓也雅也兄弟はすげーすげーと興奮してたが、俺と慎吾は怖くなってしまい、黙り込んでいた。

慎吾はキョロキョロしながら怯えている。

どちらの家も玄関の引き戸や窓は、木の板を×印の形に打ち付けて封鎖されていた。

雅也「どっかから入れないかな」

卓也雅也兄弟は家の周りをグルグル眺め回していた。

とても帰ろうなんて言える雰囲気ではないが、慎吾は小声で「もう帰りたい……」と呟いていた。

物置がある家の裏手から雅也がオーイ!と声をあげた。

皆で雅也の声のする方に行ってみると、裏手のドアは鍵が閉めてあるだけで、木の板は打ち付けられていなかった。

雅也「兄貴、一緒にコイツを引っ張ってくれよ」

卓也はニヤリと笑って、雅也と二人でドアノブを引っ張りはじめた。

慎吾「ダメだよ、壊れちゃうよ!」

雅也「誰も住んでないんだから、いいだろ」

せーの!と掛け声をかけながら、卓也雅也兄弟は力いっぱいドアノブを引っ張った。

何度目かのせーの!で、バコン!カシャン!という音と共に、ドアが勢い良く開いた。

卓也雅也兄弟は勢い余って、二人とも地面にぶっ飛んだ。

卓也の左肘に出来た擦り傷が痛々しい。

ドアの向こうはかなり暗かったので、懐中電灯を持ってこなかったことを後悔した。

まず雅也が、次に卓也が、勝手口から土足のまま入っていく。

雅也「くせー、なんだこりゃー」

卓也「カビくせーなー」

すっかり怯えきってる慎吾と顔を見合わせたけど、俺は恐怖より好奇心が勝っていたので、卓也雅也兄弟のあとに続いて家に入った。

それを見た慎吾が、鼻声で「待ってよ!」と言いながらドタドタと家に入る。

勝手口を入ると、そこは台所になっていた。

土間を改築したのか、台所部分は土の床が広がっている。

とにかくかび臭く、歩くたびに土っぽい誇りがぶわっと舞うようだった。

台所には何も無く、奥に入ると畳の部屋があった。

台所と畳部屋の境目あたりの畳は特に損傷が酷く、黒っぽく変色しグチャグチャに腐っていた。

その上にある鴨居は、何かでガリガリ削ったような跡がついていた。

部屋には壁に立てかけられた大きな鏡があり、鏡と反対の壁には昭和四十年代のカレンダーがぶら下がっていて、当時ですら二十年近くも誰も住んでいなかったようだ。

カレンダーの下には幅1m、高さ50cm、奥行き50cmぐらいの木製の重厚な葛篭のようなものがあり、蓋の部分には、黄色く変色した和紙の封筒のようなものが貼り付けてあった。

慎吾「もう帰ろうよ、怖いよ……」

雅也「弱虫だなぁ慎吾は」

卓也「折角ここまで来たんだから、なっ!」

卓也雅也は笑いながら葛篭を開けようとしていたが、しっかりと閉じられていてビクともしないようだった。

数分葛篭と格闘した卓也雅也だったが、一向に開く気配が無いので一旦諦め、室内の散策を続行することにした。

葛篭の部屋からは細くて暗い廊下が伸びており、汲み取り式の和式便所と狭苦しい風呂が並んでいて、特に風呂は、グレーがかった黒い液体が固まったようなものがあって汚かった。

そして便所と風呂から廊下を挟んで反対側に、もう一部屋和室があった。

和室には全身を写せる鏡と、その鏡の反対側の壁に小さな木箱が置かれていて、木箱には、さっきの葛篭と同じく和紙の封筒のようなものが貼り付けてあった。

卓也「うわ、まただよ。なんなんだ?これ」

雅也「中身、見てみようぜ」

雅也はまず木箱が開くのか試してみたが、開かなかった。

そしてビリッと和紙の封筒を剥がして、中に入っている紙を取り出した。

雅也「なんて書いてあるんだ? これ」

卓也「達筆過ぎて読めないな……」

そこには、ミミズが這ったような文字が黒々と一行だけ書いてあり、左下には、何かをこすったような赤黒いシミが付いていた。

雅也「あっちの紙も同じようなもんなのかな?」

卓也と雅也がドタドタと先ほどの葛篭の場所へ移動する後ろを、俺と慎吾もついて行った。

卓也「ちょっと違うけど、似たようなもんだな」

葛篭の文字も書いてある文字こそ違いそうだが、一行だけ書かれた文字の左下に赤黒いシミが付いている。

首をかしげながら、さらに家を調べる為廊下を歩き、小箱の部屋を通り過ぎるとすぐ玄関に辿り着いた。

慎吾「わっ!」

雅也「なんだよ?」

慎吾「あそこに!人が!」

慎吾は顔を伏せて震えていた。

見てみると、鏡越しに人のような姿が見える。

恐る恐る玄関に行ってみると、玄関横の壁にも全身を映せる大きな鏡があり、その正面にガラスの箱に入った日本人形が飾られていた。

廊下からは壁の裏なので、人形は死角になっていたのだ。

雅也「鏡に映った人形じゃねーか」

慎吾「……」

雅也「ほんと、慎吾は怖がりだな」

慎吾はベソをかきながら真っ赤になっていたが、この状況だ。

突然鏡に人形が映ってるのを見たら、怖がりの慎吾じゃなくてもビビるだろう。

俺も少し肝を冷やした。

そして、この日本人形が入ったガラスの箱にも和紙の封筒があり、その中に一行の文字と赤黒いシミがあった。

それにしても、家財道具など一切無いのに、箱や葛篭、日本人形があり、そして鏡が置いてある。

ただでさえ薄気味悪い場所なのに、その状況は輪をかけて不気味だった。

雅也「何もねーなー、もう一軒の方行ってみるか!」

卓也「そーだなー」

裏口に向かって廊下を歩いていく時、何気なしに玄関を振り返ってみた。

さっき鏡越しに人形が見えた場所だったが、おかしい。

そうだ、おかしい。

見えるわけが無い。

この位置から人形は壁の死角になってて、俺たちは斜め前から鏡を見てる。

鏡は人形に向かって正面に向いてるわけだから、鏡に人形は映らない。

今も、人形ではなく何も無い靴棚が見えてるだけだ。

俺は鏡から目が離せなくなっていた。

その時、前を歩いていた慎吾が声を上げた。

慎吾「開いてる!」

和室にあった小箱の蓋が開いて、蓋は箱に立てかけられていた。

卓也「え? 何で?」

雅也「ちょ、誰だよ開けたの」

卓也雅也兄弟はヘラヘラしていたが、額には脂汗がにじんでいた。

卓也「おい雅也、隣の葛篭見て来い」

慎吾「何で、雅也が悪戯したの? 何で開いてるの!」

雅也「あ、開いてる! こっちも! 開いてるよ!」

卓也「なんだよそれ! 何で開いてんだよ!?」

今でも何でこんなことしたのか分からないが、卓也雅也兄弟が叫んだのを聞いて急いで玄関に向かった。

ガラスの箱に人形は無かった。

人形は……玄関に立っていた。

俺は叫び声を上げたつもりだったが、声がかすれてゼーゼー音がするだけだった。

口の中がカラカラで、ぎこちなくみんながいる方に歩いて行くと、卓也と雅也がもみあってる声が聞こえた。

卓也「雅也! やめとけ! やばいって!」

雅也「畜生! こんなのたいしたことねえよ! 離せよ兄貴!」

卓也「おいやめとけ! 早くココ出るぞ! おい手伝え!」

卓也は雅也を羽交い絞めにして、俺に「手を貸せ」と声を上げた。

その時、卓也雅也兄弟の後ろに立てかけてあった鏡が突然倒れた。

卓也雅也兄弟にぶつかりはしなかったが、他の部屋の鏡も倒れたようで、あちこちからガシャンと大きな音がした。

鏡の裏には……黒々とした墨汁で書かれた小さな文字が、びっしりと書かれていた。

鏡が倒れたことに驚いた卓也が、雅也の拘束を緩めてしまったのだろう。

雅也は「ウオォォォォォ」と叫び声を上げ激しく暴れ、卓也を吹っ飛ばして葛篭にしがみ付いた。

雅也「ウオオオオォォォォォォォォォ!」

卓也「おい!雅也!おい!おっ…うぎゃああああああああ!!!!」

雅也の肩越しに葛篭を見た卓也が突然叫び声をあげ、ペタンと尻を突いたまま、手と足をバタバタ動かしながら後ずさりした。

雅也「んぐあぐはぁぬぉー」

もはや雅也が叫んでいる言葉が分からなかった。

一部聞き取れたのは、繰り返し雅也の口から発せられた「○○(人名)」だけだった。
腰を抜かしてた卓也が、叫びながら勝手口から逃げ出した。

パニック状態だった俺と慎吾も、卓也の後を追った。

廃屋の中からは、相変わらず雅也の何語かも分からない怒号が聞こえていた。

卓也は叫びながらもう、一軒の廃屋の戸をバンバンバンバン叩いていた。

俺と慎吾は、卓也に「雅也を助けて逃げよう」と必死で声を掛け続けたが、卓也は涙と涎を垂らしながら、バンバン戸を叩き続けた。

雅也「おい4くぉ30fbklq:zぢ」

雅也は相変わらず葛篭の部屋で叫んでいる。

×印に打ち込まれた木の板の隙間から、雅也が葛篭から何かを取り出しては暴れている姿がチラチラと見える。

そして、雅也の居る廃屋の玄関には、明らかに雅也では無い人影が、雅也の居る部屋の方に向かって、ゆっくりゆっくり移動してるのが見えた。

バンバンバンバンバンバン
カタカタカタカタガタガタガタガタガシャンガシャンガシャンガシャンガシャン

卓也が戸を叩いてるもう一軒の廃屋は、卓也がバンバン叩いているのとは別の振動と音がしはじめていた。

そして卓也も、雅也同様「○○!」とある人名を叫んでいた。

雅也のいる部屋を見ると、雅也のそばに誰かが居た。

顔が無い。いや、顔ははっきりと見た。

でも、印象にまるで残らない、のっぺらぼうのようだった。

ただ、目が合っている、俺のことを見ていることだけはわかった。

目なんてあったのか無かったのかすらもよくわからない顔。

俺はそいつを見ながら失禁していた。

限界だった。

俺は慎吾の手を引き、頭にもやが掛かったような状態で廃屋を背に走り、次に記憶に残ってるのは、空を見ながら製材所あたりの県道を、集落に向けてフラフラ歩いているところだ。

泣きじゃくる慎吾の手を引き、フラフラと。

集落を出たのは昼前だった。

あの廃屋への往復や廃屋内の散策を含めても、せいぜい一時間半程度だったろうと思ったが、太陽は沈み、山々を夜の帳が包もうとしている頃だった。

集落に着いた頃には空は濃い藍色になっていて、こんな時間まで戻らない子供を心配していた集落の大人たちに怒られた。

失禁したズボンやパンツは、すっかり乾いていたように記憶している。

周りの大人たちは当然、仲の良かった卓也雅也兄弟が帰ってきてない事にすぐに気付き、俺たちを問い詰めた。

俺も慎吾も呆然自失となってたので、うまく説明できなかった。

四人で探検をしたこと。

墓の向こうの鎖の道へ行ったこと。

そこに廃屋があったこと。

廃屋で妙な現象が起こったこと。

卓也と雅也がおかしくなったこと。

俺と慎吾だけで逃げ帰ってきたこと。

俺がとぎれとぎれに話をすると、大人たちは静かになった。

青い顔をして押し黙る大人たちの中で、一人だけ真っ赤な顔で俺たちをにらむ人がいた。
卓也雅也兄弟の母親だった。

卓也雅也母は叫びながら、俺を何発か平手打ちした。

そして慎吾に飛び掛ろうとしたところを、我に返った大人たちに抑えられた。

卓也雅也母は口から泡を吹きながら俺と慎吾を罵倒し、叫んでいた。

卓也雅也父はひざから崩れ落ち、小声で「何てことを……」と呟いた。

その時、○○(別地域)集落にある神社の神主が、カブに乗って現れた。

神主は事情を聞いていたわけではなかったようだが、俺と慎吾を見て厳しい顔で言った。

神主「嫌なモノを感じて来てみたが……お前さんたち、何をした?」

激しく責められ咎められているような厳しい視線に、突き刺されるような痛さを感じたが、同時に何か助かったというような安堵感もあった。

それでもまだ頭の中がモヤモヤしていて、どこか現実感が無かった。

もうまともに喋れなかった俺たちに代わり、大人たちが神主に説明すると、神主はすぐに大人に何かを指示し、俺と慎吾を連れて裏山のお稲荷さんまで走った。

俺と慎吾は背中に指で「ハッ!ハッ!」と文字を書かれ、頭から塩と酒、そして酢を掛けられた。

神主に「飲め!」と言われ、まず酒を、そして酢を飲まされた。

そして神主が「ぬおおお!」と叫びながら、俺と慎吾の背中を力いっぱい叩くと、俺も慎吾も嘔吐した。

嘔吐しながら神主が持っている蝋燭を見ると、蝋燭の火が渦を巻いていた。

胃の中身が何も無くなるぐらい延々と吐き続け、服も吐瀉物にまみれた。

もう吐くものがなくなると、頭の中のモヤモヤも晴れた。

集落に戻り水銀灯の光を浴びると、俺と慎吾の服についた吐瀉物の異様さに気が付いた。

黒かった。

真っ黒ではなかったが、ねずみ色掛かった黒だった。

それを見てまたえずいたが、もう胃の中に吐くものが残っていないようで、ゲーゲー言うだけで何も出てこなかった。

その足で◯◯集落の神社へ、俺と慎吾は連れて行かれた。

服も肌着も剥ぎ取られ、境内の井戸の水を頭から掛けられ、着物を着させられた。

そして着物の上から、また塩と酒、酢をまぶされてから本殿に通された。

神主

「今お前らのとこと◯◯集落の青年団が卓也と雅也を探しに行っている。卓也と雅也のことは……忘れるんだ。知らなかった事とは言え、お前たちは大変なことをしてしまった。あそこで何を見た?封印してあったものは、見てしまったか?俺も実際には見ていない。先代の頃の災いだ。だが、何があるかは知っている。何が起こったのかも知っている。大きな葛篭があったろう。あれは禍々しいものだ。鏡が三枚あったろう。それは全て、隣家の反対を向いていたはずだ。
札が貼ってあったあれな、強すぎて祓えないんだ。だからな、札で押さえ込んで、鏡で力を反射させて、効力が弱まるまでああしていたんだ。あの鏡の先にはな、井戸があってな。そこで溢れ出た禍々しい力を浄化していたんだ」

「うちの神社が代々面倒見るってことで、年に一度は様子を見に行ってたんだがな。前回行ったのは春先だったが、まだ強すぎて、運び出すことも出来ない状態だ。俺は明日、あの家自体を封印してくる。だが、完全に封印は出来ないだろう。あれはな、平たく言うと呪術のようなもんだ。人を呪い殺す為のものだ。それが災いをもたらした。誰に教わったのだか定かではないが、恐ろしいほどに強い呪術でな。お前らが忍び込んだ向かいの家はな、○○と言うんだが、家族が相次いで怪死して全滅した。他にも数軒家があったが、死人こそ出てないが、事故に遭うものや体調を崩す者が多くなってな」

「お前らが忍び込んだ家には、昔Fという人間が住んで居た。Fは若い頃は快活で、人の良い青年だったようだが、ある時向いに住む○○と諍いを起こしてな。それからおかしくなっちまったんだ。他の家とも度々トラブルを起こしていたんだが、特に○○家を心底憎んでたようだ。周囲の家は、ポツリポツリと引っ越していった。原因不明の事故や病人がドンドン出て、それがFのせいじゃないかと噂がたってな。結局、○○とFの家だけが残った。昭和四十七年の話だ。その頃から○○家の者は、毎月のように厄災に見舞われ、一年後には五人家族全員が亡くなった。Fが呪い殺したんだと近所では噂した。ますますFに関わる者はいなくなった。そして翌年、今度はFの家族が一晩で全滅した。あの家はFと奥さんの二人暮しだった。Fは家で首を括り、奥さんは理由はわからんが風呂釜を炊き続けて、熱湯でな……」

「それだけじゃない。東京に働きに出ていた息子と娘も、同じ日に事故と自殺で亡くなってる。F家族が死んで、捜査に来た警察関係者の中にも、自殺や事故で命を落としたり、病に倒れた人間が居るらしいが、このあたりはどこまで本当かわからんがな。Fが使った呪術は、使った人間の手に負えるものじゃないんだよ。当時先代の神主、俺の父親だが、とても祓うことは出来ないと嘆いてた。F一家が全滅して、あの集落は無人になった。あの二軒はな、禍々しい気が強すぎて、取り壊しもできない程だった。そして先代の神主は、まず災いの元になったものを封印し霊力を弱め、十分弱めることができてから祓うことにした。祓えるのはまだまだ何十年も先だろう」

「そして、溢れ出た呪術の力は、お前たちに災いをもたらすだろう。おおかたさっき吐き出させたが、これでは済まん。あの家の呪術の力と、雅也のこともあるからな。呪術の強さはともかく、お前たちを見逃しはせんだろうな、雅也のこともあるから……塩と酒と酢、これは如何なるときも肌身離さず持っていろ。それとこれだ。この瓶の水が煮えるように熱くなったら、お前の周りに災いが降りかかる時だ。その時は塩を体にふりかけ、酒を少し飲み、酢で口をゆすげ。向こう二十年、いや三十年か。それぐらいは続くと思っていい」

「今夜はゆっくり休め。慎吾、もう近寄る気はないだろうが、あそこには二度と行くな。あとでお前の両親にも言って聞かせる。出来ることなら引っ越せとな。卓也と雅也の名も口にするな。声に出すな。お前は東京モンだ、もうこの集落には来るな。お前ら二人は今後会ってはならん。特に二人きりで会うなどもってのほかだ。この話は禁忌だ。集落の者や関係者は、誰しもがこの話を避ける。お前らも今日以降、この話はするな」

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その日は神社に泊まり、翌日、俺は東京に帰った。

雅也はあの場所で死んでいたそうだ。

卓也は外で狂っていたらしい。

そして、雅也の遺体を廃屋から連れて帰った青年団の中で、一人が翌日事故で死亡。

二人が精神を病んで病院送りになったそうだ。

雅也の死因はハッキリしていないが、外傷も無く病死ということでカタがついたそうだ。

あの家を、警察に捜索されるわけにはいかない。

神主や町の有力者たちを巻き込み、事件にしなかったのだろう。

そして卓也雅也母は、あの事件以来精神を病んでしまい半年後に自殺。

卓也雅也父は、卓也雅也母の自殺後すぐに心筋梗塞か何か、よくある心臓疾患で急死したそうだ。

あの年の秋、これは元々決まっていたことだが、祖父母家は隣町に引っ越した。

隣町とは言っても、40~50kmは離れている。

これであの集落との縁も切れた。

慎吾一家も、翌年には県内の別地域へと引っ越して行ったそうだ。

そしてこれは一昨日の話だ。

夜七時過ぎ、新宿で乗り換えの為ホームを歩いてる時、向かいのホームから視線を感じ見てみると、一人の小柄なサラリーマンがこっちを見ていた。

十八年振りだというのにひと目でわかった。慎吾だ。

慎吾も俺に気付いていたようで、目が合うと怯んだような顔をして、スタスタと逃げるように歩き始めた。

人ごみをかきわけ俺は走った。

「慎吾!」

慎吾の腕を掴むと、怯えたような顔で俺を見た。

「あぁ、やっぱり……」

観念した慎吾と二人、出来るだけ賑やかな場所へと思い、歌舞伎町の居酒屋チェーンに入った。

後日談はこの時慎吾から聞いた。

俺は急遽三日程有給を取った。

「この忙しい時に」と上司には散々どやされたが、無理矢理もぎ取ってきた。

今日は身の回りの準備をしてからコレを一気に書いた。

心の準備みたいなもんだ。

慎吾は辞表を提出してきたそうだ。

何もそこまで……と思ったが、無理も無い。

俺と慎吾は明日あの集落に行く。

本来なら卓也も連れて行きたいところだが、内陸だったので先日の地震では大きな被害は出てない地域だと思うが、道路状況はわからないので、スムーズに現地入りできるかが心配だ。

通常なら、高速を飛ばせば三~四時間の距離だ。

俺はここ最近、ずっと雅也に呼ばれていた。

雅也の夢を頻繁に見るようになったのは三ヶ月程前から。

それが徐々に増えていき、毎晩になった。

そしてこの一ヶ月程は、どこに居ても雅也の視線を感じるようになった。

人ごみの中、夜道の電柱の影、マンションの窓の外。

いつも雅也が見ている。

俺が視線を感じて振り向くと、影がサッと隠れる。

雅也が呼んでいる。

あの家に行けば、何かがある。

恐ろしいけど行かなければならない。

慎吾も同じことを考えていたらしいが、慎吾はこのまま逃げたかったらようだ。

だが俺と出会ってしまい、逃げることはできないと覚悟を決めたようだった。

逃げられるわけがないんだ。

大学三年の時、神主からもらった瓶詰めの水、あれが破裂した。

ジャケットの胸ポケットに入れていたので、ガラス片で出来た傷がいまだにミミズ腫れのように残っている。

すぐ祖母に電話をし、そのことを話すと、あの神主一家が事故で亡くなったらしく、後継の息子たちも亡くなってしまったので『神主一家の家系も絶えることになるだろう』と、静かに話していた。

そして、『お前も気をつけろ』と。

俺を護ってくれた神主が死に、神主が持たせてくれた大切な水が無くなってしまったことは、俺にとっては死刑宣告のようなものだった。

そしてその翌日、祖父が死に、数日して後を追うように祖母が死んだ。

両親も死んだ。

必ず、大事な人の死の直前に、俺は嫌な夢を見た。

翌日か翌々日には、誰かが急に死ぬ。

そして嫌な夢の内容は、誰かが死んだ後に雅也の夢だったと思い出すのだ。

1ヶ月前、親友が急死した。

死の直前、親友から電話が掛かってきた。

久しぶりに話をした親友は、精神を病んで居た。

そして親友の口から、雅也の名前が出た。

あの事件以降、あの話は誰にもしていない。

雅也の名前など知るはずもない親友は、『雅也が怖い。雅也がやってくる』と怯えていた。

詳しい話を聞く間もなく電話は切れ、その直後、親友は電車に飛び込んだ。

これで俺の近しい人間は、一人を除いて誰も居なくなった。

会社では、友人など作らないことに決めている。

俺と親しくなると災いが降りかかり、呪術によって死に至る。

慎吾の家族も、全滅していた。

やはりあの瓶詰めの水は破裂したそうだ。

だが慎吾は、その時まで何も無かったので、もう大丈夫だろうとタカをくくっていたらしい。

しかし、慎吾の家族は全滅してしまった。

そして、慎吾が一度抑えきれずにこの話をしてしまった大学時代の友人は、話をした翌日に自殺をしたらしい。

俺と慎吾が何故生きているのか。

簡単なことだ。

あの家に行くまで、俺たちの周りの誰かが死に続けるんだ。

何が起こるかはわからない。

でも、このまま俺たちが生き続けるわけにはいかない。

長くなったが、まともに読んでる人間はいないだろう。

目に止めてしまったことがきっかけになって、Fの呪術が災いをもたらす結果になってしまったら、それは申し訳ないと思う。

俺は俺の子を宿した妻を守りたい。

俺と慎吾が犠牲になり、誰かに話すことで呪術の災いが分散され、弱まるのだとしたら、これは意味のあることだと思いスレをたてた。

 

追記

日曜昼過ぎに東京を出発し、現地に行ってきました。

帰ってきたのは昨夜、現地へ行ったのは俺一人です。

慎吾は……バックレました。

無理も無いです。

恐怖で号泣してわびる慎吾を責めるつもりは毛頭無いです。

集落は県道拡張の影響で、集落内だけ新道が出来てたので、多少印象が変わってて驚いた。

元祖父母家があった場所は、話に聞いてた通り駐車場になってた。

二軒隣の魚屋だった慎吾の家は、空き地のままで、むなしい気分になってしまった。

結果から言うと、廃屋には行けなかった。

橋が落ちていて、橋を吊ってる綱が残ってるだけだった。

あの当時ですら使われなくなって20~三十年以上は経過してただろうし、あれから十八年だから無理も無い。

廃屋の裏手にある山から入ることはできるだろうけど、相応の装備も必要だろうし、今回は諦めた。

石を投げられることを覚悟の上で、近隣住民に聞き込みをしようと思い集落に戻った。

俺と慎吾は、集落からしたら村八分以上、というか大罪を犯した罪人のようなものだ。

何をされても不思議じゃないし。

隣の八百屋に行ってみたが、やはり話も聞いてもらえなかった。

「何しに来た。あんたと関わるのはごめんだ。帰ってくれ」と。

祖父母家と慎吾家の間にあった雑貨屋にも行ってみたが、当時の女将さんではなく見知らぬ中年女性が居たが、こちらも門前払いされてしまった。

その後も数軒まわったが、いずれも門前払いされてしまうか、若い人で話が通じなかったりで収穫は無かった。

話が通じる人はどちらかというと、俺の訪問に対してビクビクしてるようだった。

俺と慎吾だけじゃなく、この集落でもあの事件はまだ続いてるんだと実感した。

そして集落内の美容室へ行ってみたとき、昔可愛がってくれたおばちゃんが、ビクビクしながらも少しだけ話をしてくれた。

おばちゃんの話によると、当時の神主が亡くなたあと、集落内でも良くないことが立て続けに起こったようだ。

集落の人たちは厄災を鎮めてもらう為、近隣の神社を尋ね懇願したらしい。

しかし、どの神社でも何かと理由をつけて断られてしまい、絶望した住民数世帯が集落を離れたという。

そして神主が亡くなってから半年ぐらいしたある日、あの神社に新しい神主がやってきた。

そして、集落内に厄災が起こらないよう鎮めているらしい。

おばちゃんに礼を言い謝罪すると「死ぬんじゃないよ」と複雑な笑顔で言ってくれた。

再度深々と頭を下げて、□□地区の神社へ向かった。

神社の鳥居をくぐると、神主が一直線にこちらへ歩いてきた。

それを見て、あぁこの人も先代同様本物なんだなと思い、少し体が軽くなった。

神主に頭を下げると、「あなたのことは存じ上げないが、何か非常に大きなものを抱えているようだね」とやさしい口調で語りかけてきた。

俺は「十八年前、廃屋に忍び込んだものです」と言うと、その言葉で全て理解したようで、本殿へ招き入れてくれた。

神主は先代から「こんな話があって、今鎮めている」という話は聞いていたようだ。

そして、集落住民からもおよその内容は聞いて居たので、集落へ力が向かないよう、そして呪術そのものを弱めるため、先代神主がやっていたように、あの家を封印してるという。

だが、俺や慎吾は集落と完全に縁を切ってしまっているので、生死すらもわからずどうにもしようが無かったと。

何故あの家の封印をしているのに、俺や慎吾の周りに厄災が起こり続けていたのか疑問に思っていたが、先代神主にもらった水が無くなってしまったことにより、俺と慎吾が無防備になってしまったことが主な原因ではないか、とのことだった。

神主は話していてとても心が開ける。

初対面の俺にも、この人は信頼でき、力がある人だとわかった。

神主には色々と質問をした。

何故、俺と慎吾は生きているのか。

神主は「憶測だが」と前置きをした上で、「恐らく雅也の力がそうさせるのだろう」と。

元の呪術に雅也の意向が合わさっているようなかたちになり、俺と慎吾に降りかかる厄災は、自らが死ぬよりも辛いことが起こり続ける、という内容だったのではないかと。

それが結果的に、俺と慎吾の命を護ることに繋がっているのではないかと。

確かに、俺は立て続けに近しい人間が命を落とし続ける状況に、いっそ殺してくれと思い続けていた。

今回も、殺されに来たぐらいの腹づもりだった。

そしてそれは今後も、俺が寿命を迎えるまで続くのか。

絶望的な気持ちで俺は「俺が死ぬまで、続くんですね」と呟いた。

そしてもうひとつ、どうしても聞いておきたかったこと。

妻と子供は、やはり呪術によって命を落とすことになるのか。

それを防ぐにはどうすればいいのか。

もう久しく親しい友人すら作らなかった俺が、まさか嫁をもらうことになるとは、一年前の俺には想像もできなかった。

妻にはこの話をしていない。

ただ、しつこいぐらい「俺と一緒になっては命だって危ない」と警告した。

理由を話してくれと何度も言われたが、巻き込みたく無いので話せなかった。

話すことで恐ろしいことに、それこそ自分が死ぬよりはるかに恐ろしいことが起こるとわかっていたから。

だが妻は受け入れてくれた。

妻は幼い頃、両親と妹を自動車事故で失っている。

同乗していた妻も瀕死の重傷だったが、一命を取り留めている。

「一度無くなってたはずの命だし、ちょっとのことじゃ死なないから、安心して」と。

彼女と知り合ったのが去年の夏。正式に付き合うことになったのが半年前。

妊娠発覚が一月で、今は妊娠六ヶ月だ。

妻と付き合うことになってから、俺は幸せだった。

幸せだった故に恐ろしかった。

いつ妻が死んでしまうか。

いつ我が子が死んでしまうか。

毎日怯えていた。

一番近い、そして唯一の近しい人間。

いまや家族となった妻と我が子、すぐにでも厄災が降り注ぐのではないかと気が気ではなかった。

だが、妻もお腹の子も今はまだ無事だ。

神主は結婚していることにたいそう驚いていた。

俺は上の経緯を神主に話した。

「これも憶測だが。さっき話した『君の厄災は死ぬまで続く』という話だが、撤回しなければいけないかもしれない。子供ができたこと、今回はこれが幸いしたんだろうな。恐らく男の子だろう」

その通り、男の子だ。

「子供が産まれた後、奥さんに厄災が降りかかる可能性が高い。君同様、息子さんは無事に生きるだろう。だが息子さんにとって、とても過酷な人生になるだろう。君が死んだ後も、続くだろう。君の子供に君と同じ厄災が」

頭が真っ白になった。

「心配するな。君とその周りに厄災が降りかからないようにするから。君がここに来てくれて良かった。行方知れずだから、私は何もしてあげられなかった。奥さんには、帰ったらちゃんと話しなさい。奥さんと息子さんは、ここに連れてきてはいけない。その代わり、東京にいる私の知り合いを紹介しよう。とても優秀な人だ。東京に帰ったらできるだけ早く尋ねてみなさい。慎吾君は改めて一度、ここに連れてきなさい。このままでは、慎吾君が厄災を一手に引き受けることになってしまい兼ねない」

涙が出るほど安心した。

が、俺の中にはまだモヤモヤしたものがあり続けた。

雅也に呼ばれている。

必ず雅也に会わなければいけない。

そうすれば少しは状況が良くなると思う。

そう神主に伝えると、神主は厳しい表情で否定した。

「さすがにあそこに行ったら、君も死ぬかもしれない。しかも、その結果は最悪のものになるだろうね、多分。雅也は簡単に言うと、化け物になってしまったんだ。君や慎吾君があそこに行き、死んでしまったら、君らも化け物になるだろうね。余計に厄災が大きくなるだけだ、止めておきなさい」

後ろ髪を引かれる思いはあったが、この神主の言うことなら信用しようと思った。

あともうひとつ。

2ちゃんねるにスレを立てたことを、オブラートに包みながら神主に聞いてみた。

不特定多数の人間が見れる場所で、インターネット上でこの話をした場合、どうなるか。これも神主の憶測だが、何か起こる可能性は低いようだ。

ただ、特別感受性が強い人や、何か良からぬものを抱えている人には影響が出ることも有り得ると。

そして、俺が考えたように『受け皿』を広めることによって、俺の周囲への厄災が弱まる可能性もあると。

ただ、広めることによってさらに大きな影響が出る可能性もあるから、止めておけと言われた。

もしかしたら読んだことによって、何か良くないことが起こっている人もいるかもしれない。

それについては、申し訳ないと思う。

その後、今日妻たちを神主が紹介してくれた神社へ挨拶に行って、ひと段落したので報告でした。

家族可愛さに話してはいけない話をしてしまった。

不安に思っている人、何か良くないことが起こってしまった人、本当に申し訳ない。

(完)

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