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短編 r+ カルト宗教 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

数字で測れぬ悪魔 r+5,597

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中学時代の同級生から久々に連絡が来たのは、梅雨が長引いて空気がぐずぐず腐っていた頃だ。

電話口の声は湿っていて、息が重たかった。妹が変な宗教に入ってしまった、と切り出された。

最初は笑ってしまった。今どき、壺やら印鑑やらで救われる魂があるものか、と。
けれど笑えたのはほんの数秒で、彼の声色に漂う濁りは、そんな安直な話ではないことを悟らせた。

妹は教団に入ってから、親戚中に金を無心し、あっという間に多額の借金を作った。
「貴女の信仰を数字で表してください」
そういう触れ込みで、寄付の額を信仰心の指標にされたらしい。
最初は数万円、やがて「その程度の思いなのですか」と嘲るように額が跳ね上がり、気付けば天井も見えない数字になっていた。

親戚一同が心配したのは、次に妹が消費者金融へ手を出すだろうということだった。
そんなことになれば、もう終わりだ。人生ごと飲み込まれる。

彼は何度も説得したが、そのたびに教団の人間が割り込み、言葉をねじ曲げられた。
ある時は、目の前でこう言われたという。
「貴方に付いている悪魔を祓わせてください。妹さんも取り憑かれていましたが、御本尊様の御力で救われました。次は貴方です」
聞いた瞬間、俺は笑い出したくなったが、同時にうっすら背筋が冷えた。
壺や印鑑で魂を救うなど、鼻で笑える話のはずだったのに。

彼はそこで、妙な提案をした。
「じゃあ俺の持ち物で、悪魔に害されている物件がある。まずそれを救ってくれないか」

その物件は、彼が昔付き合っていた女と住むために買ったマンションの一室だった。
女はある日突然、荷物も持たずに逃げ出した。理由を尋ねても「変なものを見た」としか言わなかった。
それ以来、彼はそこに足を踏み入れていない。

狂信者は自信満々に「任せてください」と胸を叩いた。
彼はそれを半分は嫌がらせ、半分は様子見として鍵を渡した。

数日後、「終わりました」と連絡が来た。
部屋へ向かうと、そこには狂信者と妹がいた。二人は祓いのために泊まり込んでいたらしい。
「こいつら、もうできてやがるな」
彼は心の中で吐き捨てたという。

ところが、狂信者が「確かに強力な悪魔がいました」と言いかけた瞬間、居間の扉の覗き窓が派手に割れた。
次の瞬間、ドアベルが狂ったように鳴り響く。
玄関に走ったが、外には誰もいない。

元彼女の言葉を、初めて本気で信じた、と彼は言った。
居間に戻ると、狂信者は蒼白な顔で呟き続けていた。妹も同じ色の顔で黙り込んでいる。

「悪魔はまだいますね」
彼はそう言った。ゆっくりと、嚙んで聞かせるように。
返事の途中、電気ポットが机の上を滑るように動き、落下して割れた。
「悪魔はいつもこうなんです。俺をからかうように、最悪のタイミングでやる」
狂信者は泣きそうな顔で「もう一日くれ」と懇願した。
彼は心の中で、何日でもくれてやると笑った。

翌日、妹から支離滅裂な電話が来た。
迎えに行くと、妹は駐車場から動こうとしなかった。
部屋の中はガラスが割れ、ドアは外れ、物が散乱していた。
その場で狂信者から電話があり、「貴方に憑く悪魔は私には落とせません」と繰り返すばかり。
「悪魔は俺の妹にも気付いたはずだ。お前の後にも憑いていくかもしれない」
そう告げると、「無理です、さようなら」と電話は切られた。

それ以来、教団からは一切連絡がなかった。
妹は憑き物が落ちたように正気に戻ったが、時折「信仰って、無力だよね」と呟く。
そして彼は最後に、あの日のことをこう締めくくった。
「あの晩、妹はあの部屋で何を見たんだろうな」
その笑いは、まるで自分の喉を絞めるような、乾いた音がした。

[出典:925 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2007/12/30(日) 00:43:29 ID:217YPuJe0]

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