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タロットを燃やした後の話 rw+3,136-0217

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部屋に鍵をかけると、いつも背中で扉を押した。

閉まっているはずなのに、誰かが外から開けようとしている気がして、体重をかけて確かめる。

靴も脱がずに床に座り込む。コンクリートの冷たさが膝から上がってくる。泣いているのかどうか、自分でもわからない。ただ、目の奥が痛い。

何も始まっていない恋だった。同じフロアで働いている。ただそれだけだ。話しかけられたこともない。たまに視線が合うと、すぐに逸らされる。

諦める理由は十分すぎるほどあった。
けれど「決定的な一言」がなければ終わらせてはいけない気がした。

ある夜、古本屋の奥でタロットカードを見つけた。埃をかぶった箱。説明書も薄く折れていた。千円で買った。

最初は軽い気持ちだった。
一日一回まで。そう書いてあった。
でも、どうしても同じ問いを何度も繰り返した。

――この恋は叶いますか。

出るのは、塔。
死神。
悪魔。
逆位置の恋人。

良いカードは一枚も出なかった。

毎晩、部屋に戻ると机にクロスを敷いた。シャッフルの音が心を落ち着かせる。カードを並べる。めくる。結果を見る。息を吐く。

やっぱり。

その「やっぱり」が、だんだん心地よくなった。
悪い結果が出ると、安心した。期待しなくていい。努力しなくていい。失敗も、拒絶も、起きない。全部、カードが決めたことになる。

一年半。
一度も、星も太陽も出なかった。

途中から、恋の行方よりも、カードの結果に従うことのほうが大事になっていた。連絡を取りたい衝動も、「今ではない」と出れば止めた。朝のカードで、その日の顔つきを決めた。悪魔が出れば、目を伏せて過ごした。

水曜日の深夜、夢を見た。

あの人が結婚していた。
白い光の中で、拍手が響いていた。
私は会場の隅に立っていた。
花嫁の顔は見えなかった。
ただ、こちらを見ていた。

目が覚めた瞬間、胸が痛んだ。
嫌な夢だと思った。

金曜日、飲み会に誘われた。
店の奥の個室。飾られた花。照明の色。湿った空気。

夢と同じだった。

彼が立ち上がった。

「実は、入籍しました」

拍手が起きた。
私は動けなかった。

その夜、帰ってカードを燃やした。
一枚ずつ千切って、灰皿の中で火をつけた。
黒い灰になったのを見届けた。

それで終わるはずだった。

けれど、数日後から奇妙なことが起きた。

朝、目が覚めると、その日の「結果」がわかっている。
カードはない。
占っていない。
それでも、今日は塔だ、今日は悪魔だ、と頭に浮かぶ。

そして、その通りになる。

悪魔の日は、会社で小さなミスをする。
塔の日は、突然予定が崩れる。
死神の日は、何かが終わる。

星や太陽は、相変わらず出ない。

私はもう占っていない。
なのに、結果だけが毎日続く。

ある日、ふと思った。
一年半、良いカードが一度も出なかったのは、本当に偶然だったのだろうか。

もしかすると、私は最初から、
「叶わない」と出る未来だけを引き続けていたのではないか。

あの夢も、予知ではなく、
最後に配られたカードだったのではないか。

夜、ふと背中が冷える。
扉は閉まっている。

それでも、誰かが外で待っている気がする。
シャッフルの音が聞こえないのに、
結果だけが、静かにめくられていく。

私はもう、カードを持っていない。
それでも、毎日、引いている。

――今日も、悪魔だった。

[出典:275 :可愛い奥様:2019/10/27(日) 02:20:53 ID:ntrrLql00.net]

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