短編 洒落にならない怖い話

平家の隠れ洞窟【ゆっくり朗読】

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これは、山陽の某洞窟で体験した話です。

60: 本当にあった怖い名無し:2012/07/25(水) 22:21:41.56 ID:zjpVYgud0

いわゆる、秋のオートキャンプだった。

大学の寮内バカメンバーだった広島のヤツらと三人で、山陽にあるオートキャンプ場で、久しぶりに集まって一杯やろうか!という話になった。

テントやらコンロやらをワゴンに詰め込んで、車内で昔話で盛り上がってるうちに、山奥のすばらしいキャンプ場に着いた。

テントを張って、晩飯の仕込みをし、その間にも昔話で盛り上がってた。

そうこうしているうち準備も終わり、まだ時間があるんで、ちょっと周辺を観光しようか、という話になった。

ドライバーのヤツは、寝とくわと言ったので、二人で散策することにした。

キャンプ場からものの五分のところに、大きな洞窟が口をあけていた。

古びた看板を読むと、こんなことが書かれていた。

《ここは、源平合戦のおりに、平家一門が隠れ住んでいたという伝説がある洞窟です》

そして看板のそばには、ちいさな祠がまつってあった。

へぇ~、こんな薄気味わるいとこに、よう隠れとったなぁ。

そうじゃの~。なんて会話してて、ふとそいつに話したくなった。

「オレのご先祖に、平家の落人がいるらしいで」

そいつは、ふ~ん、と流した。

本当のことなのになぁ。

そのときだ。オレの頭の中に言葉がささやくようにひらめき、つい口をついて出てしまった。

「……おごれる平家は、久からずや。おごれる源氏もまた、久からずや……世は、なべて諸行無常なり……」

低い声だった。自分でもびっくりするぐらい。

でも、ヤツは聞いてなかったかのようだった。

じゃ、洞窟の奥に入る前に写真を撮るか、と、ほこらと看板の前に立ち、入れ替わるようにして二枚撮った。

写真を撮りながら奥に進むと、いっそう不気味さは増した。

洞内のランプが途切れたその先は、飲み込まれそうな暗黒だった。

さすがに、これは進めないと、オレ達は引き返し、テントに戻った。

楽しい宴だった。ただ、ものすごい冷たい風に、みんな毛布にくるまってたが……

そうこうしているうちに、眠くなり、テントに潜り込んで爆睡してしまった。

そして翌朝、気持ちのいい朝だった。

みな早く起きたので、きのう残っていたヤツに、洞窟に行こうと誘ったのだが、めんどくさいとぬかしたので、また昨日のヤツと行ってみた。

二度目なので、今度は怖くはなかった。

二十分ほどでテントに戻ると、残ってたそいつがニヤニヤしていた。

「なんや?」

「おまえらのー、中でエッチなことしとらんかったか?」

「おいおいホモじゃねーよ!」

「いや、おまえらのすぐ後ろに、女がくっついて歩いとったぞ」

「……どんな女?」

「そーじゃのー、髪の長い美人じゃった」

またこいつ、昔の悪いクセが出たな(笑)と、オレ達は軽く流してやった。

「うんうん、いっぱいしてもらったよ(笑)」

「えーのぉ(笑)」

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数日後、できあがった写真を見て、我が目をうたがった。

ほこらの前の、同じ場所で撮った二枚の写真だった。

最初に写ったオレのまわりは、ただの洞窟の岩肌だ。でも、同じ場所に立った友人の写真は、なんとも言いがたいモノが写っていた。

友人の右ひざに、一五センチくらいの男の顔。

右斜め前に、烏帽子のようなものをがぶった二メートルくらいの男の首が横たわっている。

そして、友人の背後には、四~五メートルくらいの、女官のような長い髪の、巨大な女の顔。

源平合戦絵巻に出てくるような、武士や女官にそっくりだった。

その他、いろんなものがぐちゃぐちゃに混ざって、白いもやと共に写っていた。

……これは心霊写真か?

冷静だった。

人間、本当に恐怖を感じると、感覚がマヒしてしまうことが、わかった。

すぐに電話した。いっしょに洞窟に入った友人は、「そんなのいらん」と言って、怒ってしまった。

もう一人の残ってたヤツに電話したら、「ぜひくれ!」というので、そっちで処分してくれ!と、速達でネガごと写真を送ってしまった。

数週間して、そいつから電話があった。

ヤツはそれを会社に持って行き、大反響だったそうだ。

おいおい知らんぞ……

そして、あのあと気になっていた事を、思い切って聞いてみた。

「あのな、オレ達のあとに女がついて来たって言ってたな」

「うん、おったで(笑)……あ」

その後、彼はネガごと写真を紛失してしまった。

そのあとに、我々に起きたことは、書きたくない。

ただ、オレは数年後ひとりで、再びあの洞窟に行き、ほこらにお酒をそなえて「ごめんなさい!ごめんなさい!」と、謝ったおかげか、今のオレ達には、とりあえずは不幸は来ていない。

おそらく、オレは平家の血を、本当に引いているのだろう、そう実感した、出来事でした。

(了)

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