第28話:むさぼる者
大学時代に私がコンビニの夜勤アルバイトをしてた時の話だ。
夜の10時から明日の朝の6時まで8時間。
夜になっても結構客は多い方でね、決して楽じゃなかったけど、まぁ実は密かな楽しみがあった。
一人の女の子なんだけどね、年は大体当時の私と同じ位かなぁ?
けっこう地味な印象だったんだけど、純朴そうな表情でね、結構気に入ってた。
可愛いなーと思ってたよ。
その子は毎日、夜の12時位になると店に来る。
で、惣菜を一つだけ買ってく。
水道とか電気とか、ガスの払込とかも、その店でやってたな。
ようするに一人暮らしなんだろうね。
で、一人でやって来て、でまぁヤラしい話なんだけどさ、彼女の姿が見えなくなるとさ、防犯用のモニターがあって、そのモニターで彼女の姿を見てた。
惣菜の棚行って、で、こっちへ戻ってくるのが見える。
個人的に会話したことっていうのは一回もなかったけどね。
でも、けっこう彼女のことが気になってた。
ところがだ。
そんな日々が何ヶ月か続いたんだけど、ちょっと様子が怪しくなってくるんだよな……
長いこと彼女のためにレジ打ってないなっていうのに気が付いた。
おかしいな……
モニターに彼女の姿が映るのは毎日見てるんだよ。
ところが、彼女が店に来てるのは確かなのに、レジを打ってないの……
他のお客さんの相手をしてるうちに帰っちゃうみたいでね……
で、よく考えてみると、彼女が店に入ってくるところも長いこと見てなかったんだ。
そのことに気付いて……その気付いた丁度その日だよ。
ずーっと注意して入口を見てたんだけどさ。
で、客のレジ打ちをしてる間もチラチラと見ててさ……でも来ない。
ところが、釣り銭の補充をしようと思って、ちょっと目ぇ離した隙にもう一度モニターの前を通ったら、モニターに彼女が映ってるんだよ。
惣菜の棚の前に、いつもみたいにさ。
「え!?いつ来たんだろう??」
と思って、とりあえず慌てて行ってみたんだけどね。
そしたら、いないんだよ。
「見間違いかなぁ?」と思ったけどね。
でもそんな事はないよ。彼女見間違えるはずないからさ。
で、まぁ結局は、私がその棚の所へ行く時に、その反対側から店出ちゃったんだろうと。
そう考えたんだけどね、そう考えるしかなかったからさ。
もう結局、暗い気持ちでねぇ。
何か彼女に裏切られた、みたいな気になっちゃってさ。
だって、店に来てんのは確かなの。
でも、私に気付かないように、こっそり逃げてくわけでしょ?
だから、ひょっとしたら私が彼女のことを意識してさ、で見てるのに気付いて……
で、私が店に居る時は、こっそり出て行くようにしてるのかなぁ?
ってそんな風に思っちゃって。
で、その日も店番してたんだよ。暗ーい気持ちでさ。
表は土砂降りの雨なんだよ、その日は。
ものすごい雨でね、客なんか一人も来ないんだよ。
うわー、鬱陶しいなー、憂鬱だなーっと思って……
で、12時になって、要するにいつも彼女が来る時間だよね……
何気なくモニター見て、見た瞬間に本当に息止まるかと思ったよ。
彼女いるんだもん!いるはずないのに!
だって、その日はずーっと雨降ってるから、その土砂降りの雨をボーッと眺めてたんだよ。
入口の方見て……
なのに、彼女いるんだよ。
一人も客入って来てないんだよ?。
ところが、異常なのはそれだけじゃないの……
彼女が、とんでもないことやってるの……モニターの中で……
床にしゃがみ込んで、目の前が惣菜の棚でしょ?
で、その惣菜の棚の物を片っ端からむさぼり食ってんの……
しゃがみこんでさ……
周りに、開けたパッケージが一杯散乱してんの……
「なぁにやってるんだぁ!?」と思ってさ、
何かあの、地獄にいる「餓鬼」っているでしょ?食っても食っても腹一杯にならないっていう。
アレみたいだったよ……まるで……
で俺ゾォっとしてさ。でも、行かなきゃ仕方ないじゃない。
走って行ったんだよ。レジ飛び出して、惣菜売り場へ……
誰もいないんだよ。
パッケージあれだけ散乱して見えたのに、一つもないんだよ。
彼女の姿も無いし。
整然としたいつもの売り場があるだけ。
で、なんか嫌なもん見ちゃったなーと思ってさ。
それでも朝が来て、夜勤終わるよね。
交代の手続きして、家帰ったの。
で、学校の時間になるまで仮眠取るんだよね。それが日課で……
ところが、その日は目覚まし時計が鳴るより先に、電話で起こされちゃったの。
店長なんだよ。
何だろう?と思ったら、
「お前なぁ、昨夜停電でもあったか?」っつうわけ。
聞いたら……何件もクレームがあったと、朝のうちにね。
何かっていうと、惣菜を買ってった客からみんなクレームがくると……
味が変だ、味が変だっていうんだって。
「だから、夜中に停電でもあって、冷蔵が止まったのかな?と思ったんだ」って彼は言うんだけどね。
でも、停電なんかないからさ。
「いや、なかったですよ」
「うん、そうかーそうだよなー。変だよなー、傷んだにしたって、味が薄くなるなんて変だよなー?」
って言うの。
お客さんが皆「惣菜の味が異様に薄い」って言ってクレーム付けてくるんだって。
そのモニターに映った彼女のこともあるじゃない?何か気持ち悪ーくなったんだけど……
実は後日談があるんだよ。
近所の安いアパートで、女子大生が一人死んだっていう噂がね、流れてきて……
雨が降ってて、それで靴が滑ったか何かで、ひっくり返ったんだろうね。
玄関で転んで、首を骨折してたと。
でもそれが死因じゃない。
首を骨折しても生きてたの。
でも、体が麻痺して動けないで、何週間も発見されずに結局、餓死しちゃったんだって……
その女の子が、あのモニターの女の子と同じかどうかっていうのは、分からないんだけどね……
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]