第22話:ドライブ
私はドライブに行く時、大抵誰かを誘って行きます。
やはり、ああいうものは一人ではイマイチ面白くないものです。
しかし、その日は皆都合が悪くて、誰も一緒に行く人がいなかったのです。
それで私もどうしようかなと迷ったんですが、家にいてもしょうがいないと思い、結局一人でドライブすることにしました。
それから、行先を考えたのですが、たまに一人で運転するんだから、ちょっとカーブのキツいコースでレース気分を味わってみようと考えました。
他の人が乗っているときは安全運転を心がけなくてはならず、無茶な走りはできません。
いろいろ考えた末、一人で行くんだから私はカーブがキツいことで有名な六甲山ハイウェイを走ることにしました。
そこはカーブがとても激しいために、道路をレース場に見立ててタイムを競う走り屋にとっては、実に走り甲斐のあるうってつけのレースコースとなります。
思い立った私はもう、いてもたってもおられず、すぐに準備を済ませると、すぐさま車に飛び乗って出発しました。
数時間後、私は六甲山の道を軽快に走っていました。
キツいカーブ、緩いカーブ、一つ一つハンドルを切って行きます。
すれ違う車もそれほど多くはないのです。
「今日は来て良かった。ここへ来て良かった」
と私がそう思っていた時です。
後ろからけたたましいエンジンの音をあげて一台のバイクが近づいてきました。
長い下り坂で、バイクはあっという間に私の車に追いつき、蛇行を繰り返します。
そして、あれは何というのだろうか。
よく暴走族がパララララッパララララッと鳴らしているあのラッパを鳴らし始めたのです。
「厄介な奴に目をつけられたなぁ」
と私は思いました。
スピードを上げれば振り切ることも出来たでしょうが、カーブの多いこの道で、私はそこまで運転の腕に自信はなかったのです。
それで私はスピードを落として車を脇に寄せ、バイクの男がそのまま先に行ってくれることを期待しました。
男は私の車にバイクを横付けにし、並んで走りました。
そして、ヘルメットのシールドを上げ
「邪魔じゃいっっ!!ヴォケぇ!!!!」
と私に向かって叫び、そのままグンと加速して私の車を追い抜いていきました。
この道であのスピードはかなり危険なはずですが、男は気にも留めていなかったようです。
私はバイクの男と距離を開けたかったので、そのまま速度を上げずにゆっくりと走りました。
それでカーブを三つ四つ超えた時にはもうバイクの姿は見えなくなっていました。
ホッとしていると、どういうワケかたった今私の車を追い抜いていったはずのあのバイクが、また後ろから追いついてきて蛇行を繰り返しているのです。
そしてさっきと同じように『パララララッパララララッ』とラッパを鳴らして、私の車に横付けするのです。
運転していた男は、またヘルメットのシールドを上げて
「邪魔じゃいっっ!!ヴォケぇ!!!!」
と叫んで、私の車を追い抜こうとしました。
しかし、今度はバイクの後ろにもう一人乗っている……
そんな姿が見えました。
それは白髪の老人でした。
私はその老人を見た瞬間「マズいぃっっ」と思って目を逸らしました。
バイクは私の車を、さっきと同じように追い抜いて行き、そして今度は、そのまま次のカーブでガードレールを飛び越えて、谷へと真っ逆さま落ちていったのです。
私はもう声が出ませんでした。
その後警察の話では、死体は男のもの一つだけだったそうです。
私は今断言できます。
あのバイクの後ろに乗っていた白髪の老人は……
あれは確かに死神だったのです。
[出典:大幽霊屋敷~浜村淳の実話怪談~]