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出生の秘密【ゆっくり朗読】1100

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自慢じゃないが、私は憑かれやすい。

312 :出生の秘密1/4:2006/06/02(金) 02:30:08 ID:lNrs+kHJ0

または『良くないモノ』を寄せつけやすい体質らしい。
昔から婆さんにお守りを持たされ続けてきた。
何でお守りなんか持たされるのか、子供心に不思議でならなかったが、
14歳の誕生日、祖父母両親から初めてこんな話を聞かされた。
(見てるワケ無いですが、見たかのように書きます)

私が生まれてくる前、母親の胎ん中に居た時の話だ。
跡継ぎになる男の子を授かったと、親戚一同集まってお祝いがあった。
妊娠8ヶ月を迎えていた身重に大事があってはいけないと、
祖母は母を連れて奥の間、仏壇のある部屋で休んでいたそうだ。

夜も更け、殆どの親類が帰った頃、奥の間から真っ青な顔をした祖母が飛び出してきて、
「ヒロ子さんが(母の名前)、ヒロ子さんがおかしい」と言った。
続けて襖の間から母がフラフラっと現れた。
しわがれた声で『敏行ぃ―敏行ぃ――』と、しきりに呼ぶ。
いつものヒロ子とは思えない老人の声だった。
祖父には――敏行には声の主が誰か分ったのだろう。
ボロボロ涙を流しながら、「カツゴロウ爺、カツゴロウ爺か!」といった。
母は老人の声で正座をする祖父に言い聞かせ始めた。
(方言と昔言葉が頻出するので訳略します)

「ウチの一族は、死んでもまともに成仏できない」という事、
「『タツミ』の代に作った恨み、神罰が未だに消えていない」という事、
「その恨み・災厄は、生まれてくる子に降りかかる」という事、
「この子は今後大変な苦労をするかもしれんが、どうか守ってやって欲しい」
という事を告げた。
ひとしきり話した後、最後に、
「がんぐらぎぃなかん きぃふごあるげえ、ごっだらにもたせぇ」
と言い、母はフッと力が抜けたようにその場に倒れた。

眼覚めた母は、自分が喋った事は一切覚えていなかった、との事だった。

祖父は言った。
母に降りてきたのは勝吾郎。祖父の祖父、つまり私の曾曾爺さん。
禍根の主『タツミ』は、祖父の6代目の先祖。私のひいひいひいひいひい曾爺さんに当たる人物だそうだ。

地元では昔から土着神を崇めていて、私の先祖は代々神事をまとめる司祭だったが、
件の『タツミ』という男は相当の外道で、司任してからは権力と金で女性を食い物にし、
反抗する者は村八分にしたり、供物と称して殺してしまった。
その上、信仰心など全く無く、神事もおろそかにする有様だった。

さて、その土着神は女の神様なわけで、神罰かどうかは分からないが、
しばらくして、地域で凶作が続いたり、女子が全然生まれなくなったりした。

ある年の収穫祭の日。怒った村人は寄って集って、司祭を――『タツミ』を殴り殺してしまった。
無論、供物としてだ。

その後、一族は勿論、地域の者も、誰一人として司祭を継ごうという者は現れず、
管理する者もおらず、ヤシロは荒れ果てた。
大正に入って、国家政策で国津神系の神社が建つまで200年間、地元で神事は行われなかった。

どういうワケか分からないが、先祖のツケが私に降りかかるというのだ。迷惑な話である。

話は戻って、母がカツゴロウが最後に言った事について、祖父は語った。

「がんぐらぎぃなかん、きぃふごあるげえ、ごっだらにもたせぇ」
地元の方言で、「岩倉の中に木の札があるから、生まれてくる子供に持たせろ」という意味との事だ。

家には、長い間使われていない岩壁をくりぬいて作られた蔵がある。
後日、祖父が南京錠を外して中を調べたところ、神棚に襤褸切れを見つけた。
油紙に包まれたそれは、木片、札のようにも見える。それには2つの文字が刻まれていた。

『△□』(伏字)……私の名前だ。
両親はそれまで決めていた名前を諦め、札に書かれていた2文字を私の名にしたのだ。

私は始めて知った。同年代の子供と比べて、明らかに自分の名前が古臭い理由を。
地元の大人が、私を見ると顔をしかめるワケを。

その木片を祖父が削り出し、祖母が祝詞(のりと)を書いたモノが、
私が子供の頃から持たされ続け、今もこうして持っているお守りなのだと。

祖父は言った。
「生まれてすぐ腸閉塞で死にかけたり、沼に溺れてしにかけたりいろいろあったが、
今も無事で居るのは、そのお守りのおかげだ。
忘れずにこれからも持つように」
そして、「この歳まで無事で生きていてくれて、本当にありがとう」と、爺さんは言った。

当時中学生の、うす味な脳みそに全てが理解できるワケがなかったが、
爺さんが死んだ今では、祖父の言っていた事を一句一句噛み締めている。

――そんな話を、彼女に話している。

祖父の葬式が終わって数日後だ。

こういった類の話に理解のある彼女とはいえ、引く事を承知で話している。何故か無性に伝えたくなったのだ。
彼女は想像を裏切り、「……そっか、そんな感じだと思った」と、苦笑いしながら答えた。
「?」
「この前ね、枕元にヨボヨボのお爺さんが立って、言うちょね。
『あの子を守ってやってくれ』って」

今もあのお守りは、肌身離さず持っている。
もう書かれている字もかすれて見えなくなってるが、実家に帰る度に婆さんが必ず言う言葉を肝に命じて。
「だらぁ、お守り持っとるか?なくすなよ、失さしたら死ぬぞ?」

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