短編 洒落にならない怖い話

あの晩の女【ゆっくり朗読】4000

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私の携帯に、友人、村上から一年ぶりくらいに電話がありました。

なにやら相談したい事があるらしいのです。

正直不思議でした。

他の友人の又聞きですが、村上は精神を病んで実家で療養中だからです。

私は仕事中だったので、仕事が終わった後に、とある駅で落ち合う約束をしました。

しかし、仕事が思ったより長引いて、私は約束の時間に間に合いませんでした。

電話をかけても繋がらないので、一応、待ち合わせ場所に向いました。

そこには村上はいませんでした。

私は、お腹が空いたので、近くのラーメン屋に行きました。

そして注文して待ってる間に電話がありました。

それは村上からでした。

私はなにか不思議に感じましたが、遅れたことを謝りました。

しかし村上は「いや、待ってたんだけど……」と言います。

あれ?待ち合わせ場所を間違えたのかな?と思い、再度場所を待ち合わせ確認しました。

しかし村上は「じゃ、家の方に行くから」と言いました。

しかし、それでは帰りは終電に間に合わないだろうと思い、明日の夜に会うのでは駄目か?と聞きました。

あまり煮え切らない態度でしたが、了解してくれたようでした。

その日の深夜二時頃に家の電話が鳴りました。

正直な所、熟睡していた所を起こされ少し腹が立ちました。

私は名前も告げずに「どちらさまですか?」と言いました。

しかし返答はなく、ボソボソと聴き取りづらい声が聞こえます。

ザーザーと雨のような音も聞こえます。

しかし雨は降っていません。

それは女性の声だと思います。

「ボソボソ……」

と同時にツ-ツ-と電話は切れました。

間違い電話かイタズラ電話か知りませんが、腹が立ちました。

少し気味が悪い感じもしましたが、また私は眠りにつきました。

気持ちよく寝ていたのですが、私は急に目が覚めました。

反射的に時計を見ると、眠りについてからまだ三十分も経っていませんでした。

また眠ろうとしたのですが、今度はなかなか寝つけません。

すると廊下から何か引きずるような音が聞こえるのです。

古いアパートでしたので部屋のドアが外ではなく、内部にあります。

夜中でもいつも人の出入りする音は聞こえますが、引きずるような音は初めてでした。

気味が悪いです。ズルズル~ズルズル~と聞こえるんですから。

あと、ポチャポチャと水滴の垂れるような音もしました。

しかも、その音はだんだん私の部屋の前に近付いてきます。

私の頭の中で、さっきの気味の悪い電話とその音が繋がって妙に恐くなりました。

私は布団の中で息を殺してその音を聞いていました。その音は私の部屋の前で止まりました。

ドアを開けて確かめるかどうか、私は迷いましたが思いきってドアの方に向いました。

台所に出て電気を付けました。

ドア、台所、引き戸をはさんで部屋があります。

そしてドアの方に顔を向けた、その向ける瞬間に部屋の方に何か見えた気がします。

見直すと、部屋の角の鏡が置いてある所に人らしきものが立っています。

目の錯覚かと思いマジマジと見ましたが、やはり人の後ろ姿です。

下半身は光りが届いているので見えますが、上の方は暗くてぼんやりとしか見えません。

体も硬直して動けません。声も出ず息をするのがやっとです。

私はこれが金縛りなのかと思いました。

後ろ姿なので顔は見えませんが、すごく睨まれてる気がしてしょうがないのです。

それからしばらく沈黙が続きました。

時間は分かりませんが非常に長く感じました。

私は必死に相手を睨みました。

その相手は女性だったと思います。

丈は膝までの赤っぽいスカートが見えました。

すねの下くらいから足がありません。

色は白く普通よりは細い感じがしました。

上半身はよく見えませんがシルエットはぼんやりと見えました。

髪は背中まであるロングで濡れている感じがします。

足を肩幅ぐらいに開いて立っていて、手はまっすぐと垂らしてました。

それは確かに人の形をしていました。

しかし無機質というか言葉では言い表せません。

声も出ず体も動かず、私はただ必死に睨んでいました。

ふと気がつくとコンコン、コンコンとドアを誰かがノックしていました。

首も動かないのですが、台所の窓を横目で見ると人陰があります。

そのノックする人陰も初めは恐かったです。

長い間、ノックの音は続きました。しかしその影が動いた時に『しまった!』と思いました。

普通の人の足音と気配がしたからです。その音はだんだん小さくなりました。

その間、はっと女の影から目を離していたのに気がつきました。

恐る恐る視線を戻しましたが、そこには誰もいませんでした。

急に体が軽くなった瞬間に、腰が抜けてその場にへたりこみました。

頭が混乱しボーっとしていました。そしてそのまま朝を迎えました。

その日は仮病を使って仕事を休みました。

なんとか我に返ったものの、依然ボーっとしていました。昼頃に私は村上との約束を思い出しました。

予定は夜でしたが、今すぐに誰かに相談したかったのです。

あと村上の相談の内容も気になるし、病気は直ったのかも分からなかったからです。

村上は実家で療養中だとの噂なので、仕事もしてはいないだろうと思い、早速電話をかけました。

しかし村上の携帯にかけたはずなのですが、村上の父親らしき人が電話に出ました。

そして村上の父親の話しを聞いた時、私はショックで頭が真っ白になりました。

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村上が自殺したと言うのです。

……私は少し迷いましたが、前日に相談を持ちかけられていたので、

「今からうかがっても良いですか?」と聞きました。

村上の父親は少し考えていましたが了承してくれました。

村上の実家には、車で一時間くらいかかりました(私の地元でもあります)

私は応接間へと案内されました。

そこで村上の母親から聞いた話ですが、夜中に一人出掛けた村上は、四時少し前に帰ってきたらしいのですが、朝になって母親が村上の部屋を覗くと、村上は血だらけになって倒れていたというのです。

私はハッとなりました。あのノックは村上だったのかもしれない……

しかし、それを村上の両親に話すには、あの晩の女の事にも触れなければならないと思い止めました。

帰る間際、ずっとトイレに行ってなくて、駅まで持ちそうもなかったので、村上の家のトイレを借りました。

トイレから応接間に戻る途中、少しふすまが開いている部屋がありました。

10cm開いてるか開いてないかですが、嫌な気分になりながらも、隙間から覗いてしまいました。

やはり見ない方がよかったかもしれません……

血が辺りに飛び散っていました。村上は文字どおり壮絶な最後を遂げたのでしょう。

私は心から村上の成仏を願いました。

しかし何か妙に不思議な感じがします。

村上の部屋のテレビに目を移した時、モニターには光りの反射で部屋が映っているのですが、不自然な位置に、よく見ると人のようなものが映っているです。

部屋には誰もいない。目の錯覚かとよく見てもやはりそこにいる。あのスカートには確かに見覚えがあります。

私はとっさにあの夜の女だと思いました。

モニターには後ろ姿が映っています。

私は当然、テレビとは直線上にいるのですが、普通そこに人が立っていたらテレビ全体が見えるはずがない。しかしモニターには後ろ姿が映っている……

しかし、部屋には私以外いない。

私はとっさに応接間に走りました。

村上の家族は不思議そうな顔で私を見てました。

そして私は足早に村上の家を後にしました。

村上の葬式の日、久々に友人が集まりました。

葬式の帰りにとある居酒屋に寄りました。

そこで一番村上と親しかった友人宮沢の話しですが要約すると、

村上は女に誘われて入水心中をはかった。村上は途中で恐くなり生き残ってしまった。

そこで偶然に通りかかった人に助けられた。しばらく入院していたが、その時は別に変わった所はなかった。

自殺未遂から二週間ほど経って、ようやく女の遺体が発見された。女の遺体は身元不明で何も手がかりがなかった。村上が女について知っている事は全てデタラメだった。

その辺りから村上の様子がおかしくなり始めた。

……私は直感ですが、その死んだ女は、あの夜の女ではないのか?と思いました。

私は宮沢や他の友人達にあの夜の出来事を全て話しました。

他の友人は半信半疑な態度でしたが、宮沢だけは違いました。

宮沢は言いました。

「俺もそいつを見たかもしれない」

宮沢の話しでは宮沢は村上の相談を受けて、深夜に二人で近所のファミレスに行ったそうです。

そこで明け方まで話していたのですが、その間ずっと店内で突っ立ている女がいたそうです。

宮沢も恐ろしい気分になりましたが、その事は村上に内緒にしていたそうです。

と話している時に宮沢が突然、壁の方を指して言いました。

「おい、あの壁に映っている影はなんだ?」

私達は一斉に壁の方を見ました。

私もすぐに分かりましたが、皆もすぐに理解できたようです。

そこには私達の影がぼやけて映っているのですが、一つだけはっきりとした影があるのです。

それは一目で女とわかる影でした。

そして皆は一斉にその場からどきました

。しかし、その時には影は消えていました。

後日、私と宮沢は、私の祖母の知り合いの霊能者にお払いをしてもらいました。

これ以上、長くなると悪いので、その時の内容は省略させていただきます。

それ以来、その女を見る事はなくなりました。

後々、気がついたのですが、鏡やテレビに映っていた女はこちらを見ていたのではないでしょうか?

後ろ姿だけが、鏡などに映っていただけなのでは……?

あと推測ですが、村上はこの女に怯えていたのだと思います。

(了)

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