信仰に入って間もない頃、私は王国会館で、奇妙な話をいくつも聞いた。
最初に聞いたのは、「笑うワラビ」の話だった。
野外奉仕の帰り、何人かの姉妹が神社の境内でワラビを見つけた。長老は足を止めずに言った。
「ここは悪霊の影響があるかもしれません。移動しましょう」
皆は従った。
ただ、若い姉妹が二人だけ残った。
昼間なのに、境内は冷えていたという。
風はないのに木の葉が揺れ、その音に混じって、低い笑い声がした。
二人は顔を見合わせた。
誰もいなかった。
笑い声はワラビの根元から聞こえた気もしたが、気のせいだと思い、そのまま摘んで帰った。
その夜。
台所に置いたワラビから、また笑い声がした。
今度は聞き間違えようがなかった。
濡れた喉の奥で、誰かが息を殺して笑っていた。
二人は怖がる代わりに、冗談を言った。
「サタンが来たなら、肩でも揉んでもらいましょうか」
直後、乾いた音がした。
一人はその場で倒れた。
もう一人は病院へ運ばれ、長く意識を失った。
その後、助かった方の姉妹が、この話を私に聞かせてくれた。
彼女は笑いながら話した。
けれど、笑うたびに視線だけが私の肩越しへ動いた。
その頃の私は、似た話をいくつも聞いていた。
信仰を始めてから毎晩金縛りに遭うようになり、長老に言われて仏壇を処分したら、その夜から止んだという姉妹。
王国会館を爆破しようと天井裏へ忍び込んだ男が、二メートルを超すみ使いと目を合わせ、道具を置いて逃げたという話。
窓の外を鬼の列が通るのを、子どもだけが見たという会館。
敷地の中へ一歩入った鬼が、湯気のように消えたという。
話す者は、決まって笑っていた。
冗談のように。
証しのように。
だが、誰も私の目を見なかった。
ある晩、集会の帰りに、兄弟が空を指さした。
「見えるかい」
私には何も見えなかった。
隣にいた幼い男の子が言った。
「羽のある人が、たくさん飛んでる」
母親が笑った。
「呼んでみたら?」
男の子は空へ手を振った。
「おーい」
その直後、国道からトラックが歩道へ乗り上げた。
私はその夜、部屋の電気を消せなかった。
目を閉じると、あの姉妹の視線を思い出した。
私の後ろに、何かが立っているような気がした。
それから私は、会館で怪談を聞くたびに、話の内容よりも、語る人の目を見るようになった。
悪霊の話をする時。
み使いの話をする時。
奇跡の話をする時。
皆、同じ場所を見る。
聞き手の後ろ。
少しだけ上の方。
まるで、そこにいるものへ、今も話してよいか確かめているようだった。
冬の夜、集会の帰り道で雪が降っていた。
歩道には私の足跡しかなかった。
後ろから、小さな笑い声がした。
立ち止まると、声も止まった。
振り返っても誰もいない。
歩き出すと、また笑った。
湿った喉の奥を震わせるような、あの笑い方だった。

家に着くと、玄関の隅に白い買い物袋が置かれていた。
家族のものではなかった。
袋の中には、濡れたワラビが詰まっていた。
外は雪だった。
ワラビの季節ではない。
私は袋を捨てようとした。
その時、奥で何かが身じろぎした。
葉と葉が擦れた。
そして、声がした。
「見えるかい」
私は振り返らなかった。
その夜、祈らなかった。
翌朝、袋は消えていた。
代わりに、私の枕元に、濡れた足跡が二つ並んでいた。
つま先は、私の方を向いていた。
[出典:1 :風吹けば名無し:2016/07/08(金) 15:07:56.03 ID:FMF9cF+Zp.net]