短編 怪談

やまんばとかきのみ#780

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昔々、ある所に小さな村があった。

504 名前: 健康茶流@カテキン緑茶 [sage] 投稿日: 04/11/27 20:59:21 ID:VEt4KIcZ

四方を山に囲まれ、どこに行き来するにも

森深い山道を通らなければならなかったのだが、

山中に人食い山んばが出るようになり、

往来も途絶えがちで、寂れる一方の村だった。

しかし村の子供達は、山の木々に生る果物や木の実目当てに、

明るいうちだけおそるおそる山の中へと遊びに出かけていた。

そうした木々の中に、ひときわ大きな柿の木があった。

毎年たわわに実をつけるので、

子供達はちょうど良い熟れ具合になるのを待ち、

木によじ登っては実をもいで食べた。

この柿の木、下の方は早々に熟し柔らかく甘くなる。

少し上はやや熟すのが遅く固いがやはり甘い。

が、てっぺんに生る実はいつも熟しきらず、

青いまま季節を終えてしまうのだった。

そこで子供達は、

毎年食べられる実を食べ切ってしまうと、

「食べられもせぬのに実ばかり生りよる、

役立たずの実じゃ」と、下から石を投げて

青い実を打ち落としてしまっていた。

さて、その年もそろそろ柿の実の熟す季節、

子供達はみんなして集まると、

大人の目を盗み山の中へ入って行った。

ところが途中、急に激しい雨が降り出した。

子供達は雨宿りの場所を探して山中を走り回り、

偶然見つけた小さな無人のあばら家に逃げ込んだ。

やまぬ雨に暇を持て余すことしばし、

子供達の一人が何気なく土間を覗くと、

炉の中にはたきぎの代わりに骨がくべてある。

隅にはいくつものしゃれこうべが転がっていた。

「ここは山んばの小屋だ!」

子供達はみな仰天した。

山んばが戻ってくれば生きたまま食われてしまう。

子供達は降りしきる雨の中に飛び出し一目散に駆け出した。

すると、後ろから恐ろしげな唸り声が追いかけてくる。

山んばが戻ってきたのだ。

子供達は必死で逃げ続け、

いつしかあの柿の木の真下まで来ていた。

他に逃げる所もなく、みな柿の木をよじ登り始める。

すると山んばも追ってよじ登ってくる。

子供達は手元の熟しきった柿の実を山んばに投げつけた。

しかし、柔らかな実は、山んばに当たっても

ぐちゃっと音を立ててつぶれるだけだった。

山んばは

「当たれど痒し、熟れすぎ柿の子」

とせせら笑った。

子供達はさらに高い所に逃げ、

手元の実をもぐと山んばに投げつけた。

しかし山んばは、投げつけられた実を

むしゃむしゃと食べてしまうと、

「当たれどうまし、熟れたる柿の子」

とゲラゲラ笑った。

とうとう子供達は木のてっぺんへ追い詰められた。

「さあ、観念しろ」

山姥は足元から迫ってくる。

子供達はみな泣き出しそうになった。

手元には青く硬い柿の実が残っているのみ。

子供達はその実をもぐと、ままよとばかり山んばに投げつけた。

すると山んばは、

「当たらば痛し、熟れざる柿の子」

と悲鳴を上げると、木からまっ逆さまに落ちて死んだ。

以来、子供達は熟しきらぬからといって

青い実を落とすことはしなくなった。

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