俺がかなり田舎の方に出張していた頃、本当に死ぬかと思った話。
11:本当にあった怖い名無し2013/12/30(月)16:47:51.03ID:zLmyT1wd0.net
デスクワークでなまった身体をほぐすため、家に帰ったらまずジョギングをするのが俺の趣味だった。
その日は少し寒い日だったから、ネックウォーマーをして行ったのを覚えている。
本当なら町沿いのコースを走るんだが、田舎に来てからずーっとそのコースだからマンネリ化してて、たまには農道を走ろうと思いたった。
まあ、知らない道でそんなに長い時間走るつもりはなかったし、三十分かそのぐらいで帰るつもりだった。
だけど道を進むと不思議な物で、好奇心が湧いて来る。
もっと奥へ、もっと奥へ奥へという感じで進んで行き、ついに外れの中学校付近にまで来てしまった。
時間を見るともう二十一時ぐらいで、ちょっと走り過ぎちゃったなと、そのまま引き返そうとした。
すると前から人影のような物が見えた。
過疎化が進んでるド田舎だから、徘徊している老人かなと目をこらしたんだ。
俺から二〇メートルぐらい手前の街灯に照らされて、ようやく姿を確認できた。
そいつは……熊だった。
じいちゃんいわく「熊は前足が比較的短いから、下り坂が苦手」らしい。
道がそれた所に藪のある坂があるので、そこに飛び込むように入った。
木の枝とか茨とかが体に当たって物凄く痛かったが、すべり下った坂の上を見ると、アイツが下ろうとしてるのが見えた。
全身の血が引くってこの事を言うんだな。
頭の中が真っ白になり、行動できなくなる、俺はそいつをただ見ていた。
そしてふと瞬間的に俺は意識を取り戻す。
いつの間にか独特の「ヴー…ヴー…」という息遣いが聞こえる距離になっていた。
そいつは本当に俺よりデカいか同じぐらいだった。
「ヤバイ!!」
そう思って、きびすを返し全力疾走した。
でも走りだした瞬間に気づいた。
熊の対応法で一番やっちゃいけない行動をやってしまったと。
あわてて後ろを見たが、遅かった。
あいつは俺に向かって駆け出していた。
あんなに体がデカいのにアイツらのスピードってハンパないのな。
すぐに追いつかれそうになる。
そんな窮地に置かれた状況で、俺は急に昔田舎のじいちゃんちに行った時の事を思い出した。
俺は藪の中を痛み耐えながら、走り進んで行くことにした。
当然さっきみたいに全力疾走はできないし、なにぶん道が悪いから転がるみたいに降りていたと思う。
それでもあいつの息遣いが近づいて来るのがわかるので、生きれるなら足がどうにかなってもいいぐらいの気持ちでその時は走っていた。
そうすると川に出て、俺はそいつから少しでも離れるために、川を横断して反対側に出ようとした。
川の反対側が俺の住んでる街の近くだと知ってたしね。
それで川に入ったんだが、寒すぎるし川底には藻が生えていて、かなり歩きにくかった。
それでも進んで、熊から逃げようと思ったら、そいつが飛び込んで来て、あっという間に俺のすぐ横まで来た。
もう死ぬんだな、俺……
と思った瞬間、藻で滑って俺はそのまま流された。
下の方に流されるし、全身岩で痛めて、もう本当に歩けない状況だった。
このまま流されて逃げられるかも、と淡い期待もあったけど、歩けるスピードの川の流れなんかたかが知れている。
もう喰われるしかないと思ったが、そこで川の上の道路で軽トラックが止まった。
「大丈夫かあんた!?」
多分年配の人だったと思う。姿は逆光でよく見えなかった。
声をふりしぼって「熊!…熊がいる!助けてくれ!」と叫んだ。
どうやらその人はわかっていたらしく、何かにライターで火をつけた。
破裂音が鳴り響いて、後ろでバシャッ!!って音が聞こえた。
しばらくするとその人はこちらまで走って来て、肩をかしてもらい、軽トラックに乗り込んだ。
そのまま俺は病院まで連れて行ってもらい、肋骨骨折に足首は捻挫、全身打撲、低体温症で入院する事になった。
後で聞いた話だけど、その人は農家の人でパチンコの帰りだったらしい。
それであの時火をつけたのは爆竹で、この時期は熊に出くわす事があるから携帯してるんだと。
熊よけも持たずにこんな時期に農道を通るなんて、死にたいのかと散々怒られたよ。
お前らも秋の田舎は気を付けろよ。
(了)