短編 山にまつわる怖い話

土山のてっぺんで嗤う振り袖女【ゆっくり朗読】2680

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あたしの元カレは、中国地方の山合いの家が八軒しかない集落に住んでいた。

水道はきてるんだけど、みんな井戸水飲んでるような、水と空気はきれいなところだった。

秋の連休に彼の地元を見に連れてってもらった。

で、私が行くと、集落からワラワラと人がでてきて「儀助くんの彼女かねぇ~」とあいさつしてくれた。

なんか、いい人たちだなぁと思ってたんだけど、変なことがあった。

山に一番近いところにある家は、あぜ道沿いにあって農機具を置くような粗末な小屋だったんだけど、そこから女の人がでてきた。

滅茶苦茶きれいだった。

真紅みたいな晴れ着も似合ってた。

見とれてたら周りの人が女の人に帰れ帰れときつく当たりだした。

女の人はケラケラ笑って、山の中に入っていった。

なんで、振袖のド派手な晴れ着を着て山の中に入っていくのかわからなかった。

彼氏に聞いても答えてくれないので、ほっとくしかなかった。

彼は家で、山で遊んだ話とかをしてくれて、山のどこに何があるかわかってる的な自慢をするので、次の日に連れてってもらった。

きのこのあるところか、沢とか楽しかったんだけど、山深いところで開けたところに小高い土山みたいなのがあって、

「あそこは?」って言ったら、

「あそこはなにもないよ」って、彼がほかの方にあるきだそうとした。

そうしたら、晴れ着の女の人のケラケラ笑う声がきこえてきて、びっくりした。

怖かったので逃げようとしたのに、女の人のほうも気になって逃げ遅れてしまった。

女の人は、土山のテッペンにいて、ケラケラ笑いながらこっちを見ていた。

で、よく見ると、土山の上には井戸みたいな石組みがあった。

井戸だったと思う。

で、ケラケラ笑いながら、その井戸にペッと唾をはいた。

井戸に唾を吐くのが、なんというか不謹慎な感じだったので、気持ちが悪くて、逃げようとしたら……彼氏はいなかった。

女の人は、ケッケッケと笑いながらこっちに降りて近づいて来た……

すっごく怖くて心臓がバクバクした。

でも、何故か頭は冷静で、ここであさっての方向に逃げても、遭難して死ぬかもしれない。

すごい山がたくさんあって、山の深いところまできてしまっていたようなので、女の人は気持ち悪いけど、この人と話せば、里まで連れてってもらえるかもしれないと考えた。

心臓泊まりそうなほど怖かったけど、こっちから女の人に近づいて行った。

女の人は、こっちが近づいて行ったので、逆にちょっと意外だったみたいで一瞬きょとんとした。

その、きょとんが普通の人に見えたので、私はちょっと落ち着いた。

「すみません、彼氏とはぐれて道が分かりません。よかったら一緒に帰ってください」

とお願いした。

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女の人はケラケラ笑って至近距離まで来て、私の顔に自分の顔がくっつくくらいで止まった。

さされたらどうしようと思ったけど、女の人が

「私と一緒にいてはだめ、さらわれる。ここから沢にはでられるか?」

と小声で言ってきた。

「沢はわかります」

と言ったら、今の時間なら沢に沿って降りれば里の人間が炭焼きをしているはずだから、沢に沿って山を下りろと言われた。

すっごく、キビキビとした話し方で男前な感じだったから、ついつい

「一緒に行ってください。怖いです」と頼んでしまった。

そうしたら

「だめ、私は仕事があるから。私と話したことは誰にも言わない方がいい。振り返らずに行きなさい」と。

仕方なく、そのまま沢まで逃げていき沢づたいに山を下りて行ったら、煙が見えて、煙を追って行ったら炭焼き小屋があって、おじぃさんがいてくれた。

ぶっきらぼうで、おじぃさんの方が怖かったけど、里へ一緒に降りてくれたので助かりました。

道すがら、女の人のことを聞いたけど、あまり教えてくれなかった。

でも

「お役目があって山にすんでいるコゲに仕えに行っていたのだろう、キミがお役目にされなくてよかったね、よく無事に帰れた」

と言ってくれました。

男の人の前には、コゲは現れないから一緒にいけば大丈夫と里まで送ってくれました。

最後に、彼氏はどうした? と聞かれたので、置いてかれちゃってと笑い話にしたら、

「だから、きねぇとねんといかんのじゃ」

とブツブツ言ってました。

彼氏の家についたら、彼氏に土下座されましたが、きねぇとかコゲとか聞きましたが、知らないと言われて終わりました。

その後、女の人は見かけず、自分の街に帰ってきましたが……彼氏とは別れたので、よくわからないです。

(了)

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