廊下を響く不気味な足音
伝統的な一戸建ての住宅は、しばしば長い歴史を背負っている。壁には数百年の時を経た木材が使われており、土台にはかつての住人の記憶が刻まれている。こうした古びた建物には、往々にして不可思議な出来事が付きまとう。
今回の怖い話は、ある家族の実体験に基づいている。この家は、曽祖父の時代から代々受け継がれてきた。しかし、現在の住人である秋山さんの娘が生まれてから、家の中で異常な現象が起こり始めた。
廊下では、誰もいないはずなのに、湿った足音が響き渡る。ひた、ひた、と板の間から漏れる音は、まるで裸足の人間が歩いているかのようだ。しかし、探しに行っても、そこには何もない。
この不気味な出来事は、古代から伝わる言い伝えと関係があるのかもしれない。かつて、廊下は悪霊の通り道と考えられていた。人知れず家に潜む亡霊が、夜な夜な歩き回るのだと信じられていたのだ。こうした迷信は、世界中に存在しており、廊下の湿った足音は、まさに悪霊の現れと解釈されてきた。
誰かの視線を感じる風呂場
風呂場での怖い体験も、秋山さんの娘から語られている。髪を洗っているときに、突然背中を冷たい風が撫でるのだという。さらには、髪の中から別の人の指が絡みつく感覚があったこともあった。しかし、振り返っても、そこには何もない。
この現象の理由を探るため、私たちは風呂場に関する雑学を紐解く必要がある。風呂場は昔から、霊的な存在と関係の深い場所とされてきた。東洋の陰陽道では、水は陰の気を帯びると考えられており、陰の気が強すぎると、悪霊が現れやすくなると信じられている。
また、ギリシア神話によると、ナレキッソスという美しい青年が、自分の姿を映した池に夢中になり、そこで溺れ死んだという逸話がある。このように、水面には亡霊の魂が宿るという言い伝えがある。秋山さんの娘が感じた冷たい風と不可思議な指先の感触は、亡霊が現れた証なのかもしれない。
誰かが料理をしているキッチン
キッチンからは、包丁を使う音や調理の音が聞こえてくることがあった。しかし、見に行くと無人のキッチンが広がっているだけだという。
この出来事を説明する一つの理論は、レジデュアル・ハウンティングという概念である。これは、過去の出来事が、建物や土地に刻み込まれ、その記憶が繰り返し再現されるという考え方だ。つまり、かつてこの家で料理をしていた人の思い出が、今も残っているのかもしれない。
一方で、悪霊説もある。中世ヨーロッパでは、キッチンは魔女が集まる場所だと恐れられていた。なぜなら、食物を調理する場所は、生と死が交わる神聖な場所だと考えられていたからだ。秋山さんの家には、料理をしている魔女の亡霊が住み着いているのかもしれない。
外から窓をノックする存在
子供部屋では、夜になると窓がノックされる音がした。秋山さんの娘がカーテンを開けると、白い長い何かが暗闇に消えていったという。
この出来事には、かくれんぼの亡霊伝説が関係しているかもしれない。英国の民間伝承では、かくれんぼに夢中になり過ぎた子供が死に、その子供の亡霊がかくれんぼを永遠に続けるという怖い話が残されている。
また、日本の民話にも、子供の亡霊が夜な夜な家に現れ、かくれんぼをしようと呼びかける「子供がかり」の話がある。秋山さんの娘が目撃した白い影は、かくれんぼをして遊びたがっている子供の亡霊だったのかもしれない。
後日談
それから数年後、秋山さんの家族は家を売り払うことにした。引っ越し業者が家財を運び出す際に、奇妙な出来事が起きた。
最後の段ボールケースを積んだトラックが、門を抜けようとした瞬間、ある物音がした。長年放置されていた納屋から、重たいものが転がり出てきたかのような音だ。引っ越し業者の一人が、恐る恐る納屋を覗くと、そこには巨大な白い塊が転がっていた。
詳しく見ると、それは人の骨でできた、巨大な人体のように見えた。恐怖に駆られた業者たちは、急いで家を逃げ出した。その後、当局に通報され、捜査が行われたが、納屋からは何の証拠も見つからなかった。
納屋にあったとされる白い塊の正体は闇の中に閉ざされたままだが、秋山さんの家族は、あの出来事以来、異常な体験にはまったく見舞われていないという。長年の呪いを永遠に断ち切ったのか、それとも何か恐ろしい存在が、次の標的を待ち構えているのか。
