不思議な体験を語る – あのラーメン屋とおじいさんの記憶
15年ほど前、T山の近くに住んでいた頃の話です。当時、万博の会場跡地の近くに住んでいました。とはいえ、万博が終わってかなりの年月が経っていたせいで、周囲は少し寂れた雰囲気が漂っていました。山に囲まれて緑が多かったこともあり、私は自転車で走り回るのが大好きでした。ただ、夜になると不良っぽい人たちが多く現れるので、暗くなってから出かけることはありませんでした。
そんなある夏の日の夜明け前、ふと目が覚めて、無性に遠くへ行きたくなったんです。私は自転車を出して、霧がかかった山の方へ向かいました。夏だというのに霧のせいで肌寒く、どんどん霧が濃くなる中を進みました。途中、大学が並ぶエリアまで来ると、夏休みのせいか人の気配もなく、まるで時間が止まったような静けさが漂っていました。
ついには視界がほとんど効かなくなるほどの濃霧に包まれ、信号機の光すらかろうじて見える程度に。それでも進み続けると、次第に木々が増え、古びたゲームセンターやラーメン屋がポツンポツンと点在するエリアにたどり着きました。そこには「◯△□は出て行け!」と書かれた奇妙な看板が立っていて、不気味さを感じた私は引き返すことにしました。けれど、濃霧のせいで帰り道がわからなくなり、迷子になってしまったんです。
右往左往していると、閉まっていたはずのラーメン屋からおじいさんが出てきて、「ラーメン食べていかないか?」と土地の言葉で声をかけてきました。ちょうどお腹も空いていたし、道を聞けると思って店に入ることにしました。そのラーメンは、驚くほど美味しかったんです。人生でも指折りの美味しさで、忘れられない味になりました。でも、店内は長い間閉まっていたような雰囲気で、メニューも値札もなく、おじいさんは「お代はいらない」と言うばかり。
道を尋ねると、聞き慣れない地名を挙げながら、「ここは◯◯村だから~」とか「そこの大通りに出たら良いよ」と案内してくれました。その指示に従って帰ることができたのですが、帰り際にもう一度店名を聞いて、翌日友達と訪れるつもりでした。けれど、おじいさんは「もう来ないでくれ」とだけ言うんです。それ以上聞くことができず、その日は帰りました。
後日、友人とその店のあった場所を探しに行きました。けれど、どれだけ探してもそのラーメン屋も、周辺の風景も見つかりません。あの時のゲーセンや奇妙な看板すら跡形もなく、友人からも「本当にそんな店があったの?」と言われる始末。私はおじいさんが言っていた村の名前を挙げましたが、友人は「そんな地名、聞いたことがない」と言います。
後になって調べてみると、その地名は大昔に消滅した村の名前だと知りました。そして、そもそも自転車で1時間程度で行けるような場所ではなく、「まともに行けば半日以上はかかる距離だ」と言われたんです。でも、その日私は確かに1時間もかからずにたどり着いたし、おじいさんも「すぐに帰れる」ような口調で道案内をしてくれました。
そして最近、あの体験を思い出して再びその場所を訪れてみました。けれど、そのエリアは新しい路線が敷かれ、再開発によってまるで別の街になっていました。それでも記憶を頼りに車で走り回っていると迷ってしまい、道端で地図を見ていると、通りかかったおじいさんが「そこのラーメン屋で道を聞いたら良いよ」と言ったんです。その店は15年前のものとは違っていましたが、あの時のおじいさんを思い出させるような雰囲気を持っていました。そして、食べたラーメンの味は、あの時の味と重なっていました。
一体、あのおじいさんは何者だったのか。そして、あの時のラーメン屋は何だったのか。謎は深まるばかりです。
最後に追記を。15年前に出会ったおじいさんも、今回通りすがりのおじいさんも、同じデザインの帽子をかぶっていたんです。そのことを思い出した時、さすがに背筋がぞっとしました。文章にするとこの不思議さが薄れてしまうのがもどかしいのですが、少しでも伝われば幸いです。読んでくださり、ありがとうございました。
[出典:454:07/07/17(火)01:19:33ID:JGmIajIT0]