友達から聞いた話。
ある女性が海外旅行をしていた。
初日から買い物や食べ歩きを楽しんだので、夜になると疲れてしまいその日はホテルへ戻り、寝ることにした。
ところが、暫くして車のクラクションの音がして目を覚ました。
うるさいなと思い、窓から顔を出すと、霊柩車が止まっていた。
クラクションが止み、運転席から青白い顔の男が顔を出した。
「もう一人、お乗りになれますよ」
女性は気味悪く思い、慌てて窓とカーテンを閉め、暫くしてから再び外を見ると霊柩車も男もいなかった。
不信に思いながらも再び眠りに付いた。
翌日になり、ホテルのフロントで
「昨日深夜に霊柩車に乗った男がクラクションを鳴らしてよく眠れなかった」
と苦情を言うと、
「昨夜は誰も泊まりに来てませんし、霊柩車も通ってませんでしたよ」
と言われた。
女性は不思議に思いながらも、その日も観光名所へ行ったり、買い物などを楽しんだ。
隣の街へ足を運んでみようと思い女性がバスを待っていると、古めかしいバスが止まってドアが開いた。
すると中から霊柩車の男が顔を出した。
「もう一人、お乗りになれますよ」
女性が「結構です」と断ると、バスは行ってしまった。
周りに居た人を見渡すと、誰もさっきバスが来た事に気がついてないみたいだ。
女性は少しだけ怖くなった。
隣街へ着いて、女性はデパートへ向かった。
二階にある婦人服売場へ行こうとして、タイミングよく来たエレベーターへ乗ろうとした。
ドアが開くと、中からまたあの男が出てきた。
「もう一人、お乗りになれますよ」
女性は驚きと恐怖で叫びそうだったが、何とか
「け、結構です……」と蚊の鳴くような声で断った。
男は無言でエレベーターへ乗り込んだ。
ドアが閉まったとたん、中から何かが千切れるような音と、凄まじい悲鳴、大きな物が落ちたような音がその場に響き渡った。
ワイヤーが切れ、エレベーターが落ちたのだ。
中に乗っていた十名の乗客は全員死亡。
不思議なことに、女性が見た霊柩車の男と、証言の合う人物は誰一人居なかった。
あの男は一体何だったのだろう。
(了)