短編 ほんのり怖い話

夜の山道一人置き去りマラソン#1066

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俺は小学一年の夏に引っ越して、ド田舎の小学校に転入した。

609 :本当にあった怖い名無し:2010/04/24(土) 23:35:24 ID:Y/Q9tGBt0

引っ越す前までは気ままに過ごしてこれたんだけど、引っ越してからは、よそ者ということも含めて周囲から浮いてしまい、アウェーな生活を送っていた。

そんなこんなで同じ年の冬。

地域のマラソン大会の選手を選ぶための、マラソン練習が始まった。

夜八時ぐらい、公民館に地域の大人数人と子供たちが集まり、公民館からスタートとして、夜の山道をぐるっと走って戻ってくる。

子供が走る後ろから、大人が車のライトで照らしながら伴走するのだ。

何度か参加させられていたが、俺はこの時間が一番嫌いだった。

俺は運動ができない。

みんなについていくこともできず、余りに遅れるもんだから、俺は、どう考えても選手には選ばれないのに、何で参加させられてるんだ……といつも考えていた。

ある雨上がりの夜の練習中のことだ。

こういう後ろ向きな考えの子供がモタモタしているものだから、伴走の大人達の苛立ちを買ったのか、車から声をかけられた。

「おい坊主!お前ちっと遅すぎるから、おっちゃん達、先の子たちに付いていくかんな!車もたくさんは無いから、我慢しろ!先に着いて待っとくからな!」

俺は唖然とした。

田舎の夜の暗さは尋常じゃない。車のライトもなしにどう走れと言うんだ。

「頑張れよー!!」

表向き前向きな言葉をかけながら伴走車は去って行ったが、よそ者の子供を真っ暗な山道に置き去りにする大人達には、心に一物あったのではと疑ってしまう。

車がいなくなると、田舎の山道の暗闇が容赦無く襲ってくる。

人家も全然無いので、明りなんてロクに無い。

山道のほぼ中間なので、行くも帰るも地獄である。

月明かりにかろうじて照らされる道を、吐きそうになりながら走った。

辛くなって時々歩いた。

何度か走ったコースだが、明りがあるのと無いの、後ろに大人がいるのといないのでは全然違う。

暗い!怖い!帰りたい!!

こけた、痛い!水たまりでズボンがドロドロになっているが、暗くてどうなってるかもわからない!

膝はジンジンする、涙があふれてくる。

でもきっと誰も迎えには来ない。

泣きじゃくりながら走りに走って、左右から竹がせり出してドーム状に覆われた道に差し掛かったときだった。

ドームが開けた向こうの路上に、淡い月明かりの中、ぽつんと黒い人かげが立っていた。

おじちゃん達のだれかだ!迎えに来てくれたんだ!!

俺は猛烈に救われた気になって、短距離走ばりのスピードを振り絞って駆け寄ろうとしたが、ふと思った。

なんで車も無いし、電灯も持ってないんだろう。

まだゴールはずっと先のはずだから、おじさんだって車が無いと大変なはずだ。

迎えに来たんじゃないのかな……?じゃあ何のために、こんな暗闇に電灯も持たず一人でいるのかな……?

もしかして人間じゃ、ないのかな……?

急にヤバイ気がして立ち止った。

と同時、人かげがこっちに向かって走ってきた。

俺は「ーーーーーーーー!」と泣きわめきながら、もと来た道の方へ走りだした。

泥にまみれた靴の中で足が滑り、顔からズッコケたがそれどころではない。

足引きずってでも人かげから離れようとした矢先、人かげが「三沢とこの!!」と叫んだ。

「三沢とこのガキじゃないか。どうした大丈夫か」

恥ずかしながら、俺は失禁して腰砕けになっていた。

真っ暗なので顔がはっきりとは見えないし、まだ面識も広くないのでよくわからないが、俺の名前を知っていることから察するに、地域のおっさんの誰かのようだ。

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張りつめた緊張が色んな形でブチ切れたので、俺は耐えられずおんおん泣いた。

「まあ帰ろう。親御さんも心配してるだろう」

おっさんは俺の手を取って立たせ、失禁も気にせずおぶってくれた。なんと幸せなことか。

おっさんの背中に安心しきりだったが、ふと思い立って肩越しに聞いてみた。

「おじちゃん、車も電気も無いの?大丈夫?」

「あー…… ダメだダメだ」

おっさんが答えた。

変な返事だなwwダメってダメだろwww

緊張の糸が切れた有頂天の俺には、何か遠い世界の声に聞こえた。他人事みたいだ。

「おじちゃんだけ来てくれたの?他のみんなは?」

「あー…… ダメだよそれ」

噛みあわねぇwwwどういう答えだよwww

あれ?山側に向かって歩いてる?www

「おじちゃん、こっちは……」

「あっ ダメだよダメ!ダメダメ!もう聞くなっ、きくなっ、きくなっきくなっあ゙あ゙あ゙あ゙あああ!!!!」

おっさんの声が、伸びたテープみたいなモァンモァンの声になって、肩越しに急に振り向いた顔は、目の前で見ても真っ暗闇だった。

俺の記憶はそこで飛んだ。

俺が目を覚ましたのはその日の深夜。

心配して探しにきた親に、泣きながらビンタされて起こされた。

俺は、山道から谷側に少し入った草むらに倒れていたようだ。

一番怖かったのは、地域の連中が一人も俺を探しに来ていなかったことだ。

新居を引き払い、俺達一家は引っ越した。

(了)

 

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