短編 ほんのり怖い話

夜間警備【ゆっくり朗読】

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249 :哀しい顔をした男 :2011/09/19(月) 23:27:47.27 ID:kFe6hBPB0

場所は特定されちゃうとそこの人達やそのことを知らない近隣の人達に迷惑をかけるのでぼかして書きます。

舞台は私が就職して初めて赴任した職場でのこと。

元々その敷地は旧陸軍の士官学校の土地で、戦後に売却されうちの職場が一部(東京ドーム四個分)を買い取り、その敷地に宿泊施設兼会社の研修所を建てました。

なんでも大東亜戦争終戦の詔書の音読放送がされた日、士官候補生二十数名が飼育していた軍馬の首を切り落とし、自分たちも切腹自殺をした場所だということを、OBの方から聞かされました。

研修所を建てた当初、敷地には四七都道府県の県木、そして自殺を図った場所には沢山の桜を植樹し、慰霊碑も建て、一般開放していたようです。

その後業務拡大で更に研修所を広げるため、慰霊碑は移設ではなくそのまま取り壊され、新しい宿泊施設が建てられ、一般開放も止めました。

私が赴任してからも、慰霊碑はなくてもいいのでと、定期的にお花とお供え物を持ったご高齢の方が手をあわせに来ていました。

特にそんな場所だということを他の社員には話しをしませんでしたが、どこからともなくその宿泊所は兵士の幽霊が出るぞと、会社では噂をされていました。

近くに自衛隊の施設があったからでしょうか、よくわかりません。

特にわたしは今まで霊障というのを体験したことがなく、その職場でも六年間勤務していて特になにも起こりませんでした。

私は総務・人事担当部門の主任で若手職員。上司は五つ上の係長。

前年からうちの職場は業績悪化によるコスト削減のため、警備員二人を解雇し、私と係長が通常の勤務後にサービス残業という形で、

土日を含む一週間を私と係長、警備員一人で宿直体制をとり、夜間警備に当たるということになりました。

本題は次から。

去年の一月のいつだったか忘れてしまいましたが、記録的な大雪になった日です。

その日は早朝から、幹部の車が出入りできるようにしこしこ雪かきをしていました。

粗方終わったところで、敷地内の森というか林というかそんな場所を巡回警備していたところ、

幹周り二メートル以上、高さ十メートルはある大木が二本、他の小さい木々を巻き込んで倒れていました。

一本は落雷に当たったかのように割れ、一本は根本から折れて隣接する建物の窓を突き破っていました。

こりゃ大惨事になっちまったなぁ……と呆然と立ち尽くすしかありませんでした。

とりあえず苦情が出る前に造園業者を呼び、その場で見積もりを出してもらったところ、撤去には二百万かかりますとのこと。

そんな金ねーよと財務担当の課長に怒鳴られ、その日は撤去を諦めました。

どーもその大木が倒れた場所が例の慰霊碑があった場所のようで、その日の夜から奇妙な体験をするようになりました。

サービス残業で夜間警備をするようになったと前書きで書きましたが、業務内容は単純。

定時になったら国旗と社旗を下ろして、正門を施錠。二時間置きに巡回して、二十三時に宿泊施設の電気を消灯。

それ以後は仮眠を挟みながら研修棟、管理棟、宿泊棟、屋外敷地を巡回警備するというものです。

ただまぁ真っ暗な廊下を小さいライトを片手に一部屋一部屋入るのは、さすがに気味悪いですよ。

ラップ音でしたっけ?窓がギシアンいったり壁ドンされるやつ。

あれは前からちょくちょくありましたが、私個人としてはそれを霊障とは思ってないので、なんのことはなかったのですが……

二十四時。宿泊施設の消灯を終え、各棟見て回ることにしました。

研修棟に入った時、空気が変わりました。妙に空気が重いんです。

えっ?なに?この空気。換気してないからか?

その空気の影響か、寒さからか、夜食に食べた吉野家の牛丼の影響か分かりませんが、

急にお腹がぎゅるぎゅる言い出して無性にトイレに行きたくなり、トイレに駆け込みました。

勿論消灯済みなのでトイレの中は照明がつきません。

トイレは怖かったですがぼっとん便所でなんとか用を足し、巡回に戻ると、ふと視線の先に変な人を見つけました。

自分がいる廊下の反対側に非常階段があり、そこからじっとこっちを見ている十代後半くらいの男の人がいたんです。

おいおい、宿泊者が酔っ払って迷子になったのか、それとも浮浪者か?

面倒だなぁと思いつつ、

「ちょっとお兄ちゃんもう消灯時間だし、この時間ここは立ち入り禁止区域だよー」と

言いながら歩いて、そちらに向かいました。

でもその人は全く動こうとしません。しかも何かがおかしい。

その廊下は優に100メートルはあるのですが、

普通端から端にいてこの暗闇の中、そこに人がいるのかなんて分かりませんよね。

なぜか腰から上が白いモヤというかうまく説明できないんですが、とにかく明るくて顔がはっきりわかるんです。

すごく哀しそうな顔をしてじっとこちらを見続けているんです。

段々私も気持ち悪くなってきて、さっさと追い払おうと思い、「おい聞いてるのか?ここは立ち入り禁止だから!」と声をかけ続けながら歩きました。

だいぶ近寄ったところですっとその人が死角に入り、多分階段を下りたのかとその時は思ったんですが、その場所からはいなくなっていました。

まぁよくわからないがいいかぁーと思いそのまま巡回を続行。

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その後は特に何もなく巡回を終えて、係長と警備を交代し私は仮眠室に入りました。

夜中の二時過ぎ、部屋の気温は五度くらいなのに無性に寝苦しく、汗だくで起きました。

枕元にペットボトルの水を置いておいたのですが、それが無くなってる。

正確に言うと、ペットボトルの中身がからっぽ。え?なんで?と戸惑いました。

寝ぼけてるうちに飲んでたのか?とか思いながらも水道で水を入れて、水を飲み終えた後、また布団の中に入り目をつむりました。

が、なかなか寝付けません。ずっとどこかからか視線を送られている感じがするんです。
気持ちが悪い……眠れん!

むくっと起き上がり水を飲もうとしたところ、背後からの視線を感じ取り、振り向くと、カーテンの隙間からさっきの男がこちらを見ていました。

「うわっ!?気持ち悪い……てめぇふざけんなや!」

怒りがこみ上げカーテンを開けたんですが、当然外に人はいません。

その仮眠室は二階ですから……

「なんなんだよこれ……」

カーテンをしっかり閉め布団に入ったんですが、寝付けず目を開けると、

なぜかまたカーテンが少し開いていて隙間ができており、そいつがこっちを見てるんです。

んで窓を開けたらそいつはいない、の繰り返し。

終いには壁ドンをしてくる始末。

その日から夜間警備に入る度に、そいつがずっとこちらを見ては俺が切れてその場所に行くといなくなっている、というのが続きました。

もう軽いノイローゼ状態になりかけたくらいです。

幽霊とか信じてませんでしたが、やっぱりあの木の影響かな?と思うようになりました。

ものすごく哀しそうな目で何かを訴えてるような感じだったし。

木が倒れてから一ヶ月、ようやく予算執行の許可が下りたので、その木を撤去した後新しい木を植樹しました。

田舎から送ってくれた越乃寒梅と、魚沼産コシヒカリで作ったおにぎりをその木の場所にお供えをしたら、その男は現れなくなりました。

慰霊碑も撤去されて、人々から忘れ去られ、木が倒れても放置されたことに怒っていたのか、哀しかったのか、理由はわかりません。

とにかく彼が現れなくなってからも、その職場から転勤するまで毎日欠かさずお酒とご飯をお供えしました。

幸い研修所なので、全国から集まった研修員が地酒や食べ物を持ち寄って、それを置いていったりするんですよ。

今年の四月に異動が決まり、そこを離れる当日の朝、いつものように木のところで手をあわせていると、どこからかか細いかすれた声でしたが、「ありがとう」と一声聞こえました。

今までそーいった体験をしたことなかったので、私としては洒落にならない怖さを感じた体験でした。

(了)

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