あなたは、付喪神(つくもがみ)を知っていますか?
長いこと使っている物に宿る妖怪らしいのですが、私自身あまりそういったものには疎いのでく、詳しくはわかりませんが、私の松葉杖に付喪神(九十九神)が憑いているようです。
[出典:百鬼夜行絵巻]
順を追って説明します。
松葉杖と言うのは生まれつき足が悪い私が使っている物で、普通の物とは違って体に合わせて作った特注品なんです。
足は不自由ですが、私生活・仕事には何の支障もなくその日も普通に仕事でオーストリアへ行っていました。
仕事を終えホテルに戻り眠りにつくと、ホテルの外が異様に騒がしく目を覚ましました。
「一体何をそんなに騒いでいるんだ?」と思い、窓の下を覗くとホテルの下にいる人達が上を指して叫んでいます。
窓を開けて上の階を見ると四階の部屋から火が上がっていました。
こんな日に限って私の部屋は三階で、火事の部屋から近かったんです。
エレベーターがあるホテルだったので、いつものように一階の部屋を取らなかったからでした。
慌てて逃げようとすると、部屋の奥に置いてあった松葉杖がポーンっと誰かが投げた様に飛んできたんです。
寝ぼけているのかパニックで幻覚を見たのかわけが解らなかったのですが、そのときは逃げる事に集中し、財布だけ持って部屋から飛び出しました。
エレベーターは使えなくなっていて、周りの部屋の人々は皆非常用のハシゴ階段で避難していました。
私の足ではハシゴを下りる事ができず、通常の階段で逃げなければなりません。
一人階段を下りていると、下から上がって来る人がいました。
きっとレスキュー隊だ!と思い、大声をあげると近寄ってきたのは普通の若者達。
何か言っているのですがドイツ語はあまり得意ではなく片言しか解らなかったのですが、どうやら彼らが火事場泥棒だと言うことだけは分かりました。
抵抗も虚しく財布を盗られ顔を見られたと言う口封じに、松葉杖を窓から捨てられ部屋に閉じこめられてしまったんです。
最後に彼らが英語で「焼け死ね」と言った事はよく覚えています。
しかし、その後すぐレスキュー隊に助け出され、命は取り留めました。
私の部屋も無事だったのですが、あのとき窓から投げ捨てられた松葉杖だけどこを探しても見つからないのです。
変わった形をしていて、一般人は何に使うのかさえ分からない様な物。
一体誰が盗むと言うのでしょうか?
とても不思議でした。
あれはとても高く、もう一度作るとなるとでかい金と長い時間がかかる為、諦められない私は警察に頼んだり、地元の新聞に松葉杖の事と絵を載せてもらいました。
三日ほどたったある日、松葉杖が見つかったと警察から電話がありました。
そして見つかった場所が、なんとあの火事場泥棒の家だと言うのです。
新聞でみた変な棒が隣の家の前に置いてあるという通報を受けた警察は、家へ行き家の主に話を聞こうと火事の日の話をすると自分の犯行がばれたのだと勘違いし、あっさり男は自白したのでした
私の財布も見つかり、事件は解決しましたが、彼らは松葉杖なんて盗んでいないし、玄関に置いてもいない。
誰かがそんな事わざわざするとも思えない。
私は今でも松葉杖が妖怪となって、わたしのかたきを取ってくれたんだと思っています。
参考資料
付喪神、つくも神(つくもがみ)とは、日本に伝わる、長い年月を経た道具や生物(狐・狸など)や自然物に神や精霊(霊魂)などが宿ったものの総称である。
「付喪神」という漢字表記は、室町時代の絵巻物『付喪神絵巻』に見られるものであり、道具は百年という年月を経ると精霊を得てこれに変化することが出来るとされている。
また「つくも」とは「百年に一年たらぬ」との表記も同絵巻の詞書きにあり「九十九」(つくも)のことであるとされており、『伊勢物語』にみられる老女の白髪をあらわした言葉「つくも髪」を受けて「長い時間(九十九年)」を示していると解釈されている。
また「多種多様な万物(九十九種類)」をさすともされているが、「つくもがみ」という表現を文中に記している文献資料は多くは存在せず詳細は伝来していない。
『付喪神絵巻』よりも先行していると見られる絵巻物にも、道具がモチーフとなっている妖怪を絵画で確認することは出来、『土蜘蛛草紙』には、五徳が頭についているものや、手杵に蛇の体と人の腕が二本くっついたものや、角盥(つのだらい)に歯が生えそのまま顔になっているものなどが描かれている。
また、角盥がモチーフとなったとおぼしい顔は『融通念仏縁起』や『不動利益縁起絵巻』に描かれている疫神にほぼ同様のかたちのものが描かれている。
ただし、いずれも道具だけではなく、動物や鬼のかたちをしたものと混成している。これは『付喪神絵巻』や『百鬼夜行絵巻』などにも見られる特徴である。
おなじく絵巻物である『化物草紙』では、銚子(ちょうし)などが化けた話、かかしが化けた話などが描かれている。
『付喪神絵巻』では冒頭に「陰陽雑記に云ふ。 器物百年を経て、化して精霊を得てより、人の心を誑かす、これを付喪神と号すと云へり」とあり、道具が変化することを「付喪神」としている(ただし『陰陽雑記』という書物の実在は確認されていない)。
本文中、それらの姿は「男女老少の姿」(人間のかたち)「魑魅悪鬼の相」(鬼のかたち)「狐狼野干の形」(動物のかたち)などをとっていると表現されている。
古い現存作品には室町時代のものも確認されている『百鬼夜行絵巻』は、道具の妖怪と見られるものが多く描かれている。
現在ではこれら道具の妖怪たちは付喪神を描いたものであるとも考えられており、また、もともと『百鬼夜行絵巻』に描かれている行列の様子は『付喪神絵巻』に見られる妖物たち(年を経た古物)の祭礼行列の箇所を描いたものではないかとも考察されている。
[出典:Wikipedia]
(了)