短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

異空間につながる廃道【ゆっくり朗読】

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今から二〇年ほど前、1990年代皇太子様の御成婚で世間が賑わっていた頃、俺が実際に体験した、いまだに信じられない話を書こうと思います。

212 :2013/03/07(木) 23:06:53.10 ID:bthiYXPN0

というのも、俺の周りには超常現象的なものに詳しい人物が全くいないので、今から書く実際に体験した出来事を一体どう解釈したらいいかわからないからです。

大学生の頃、俺は本当にどうでもいい日々を送っていた。

夢も目標もなく、部活やゼミやサークルにも所属せず、ただひたすら漫然と過ごす怠惰な生活。

やることといえば、そんな俺と同じような目的のない仲間、加藤と鈴木とドライブすることだったが、それにも次第に飽きて、どうせドライブするなら廃道を探索しようと、誰ともなく言い出した。

廃道とは、使われなくなった道路や閉鎖された道路のことを指すらしいが、俺達はあくまで車でいける範囲でしか行きたくなかったので、閉鎖された道路と言うよりは、大きい道路ができたために使われなくなった道路とか、どこにつながってるのかわからないような細い脇道を、加藤の所有するジムニーでドライブするだけのものだった。

飽きっぽくてやる気もない俺達だが、これはとても楽しくて飽きなかった。

廃道が見せる非日常的な空間が、俺達の気質に合ったのかもしれない。

ある日、加藤が「いい場所を見つけたんだよ、今から行ってみないか?」と言ってきた。

新しい廃道探索のスポットを見つけたということだ。

午後二時過ぎだったが、何の予定もない俺と鈴木は当然今から行こうということになり、加藤の車で現場へと向かった。

場所は、大学から車で三十分くらいの、山道をちょっと入ったところにあった。

車がよく通る太い道から斜めに細い道が延びている。

その細い道に入ると、地面から雑草が生えていたり、小石や枝は落ちているわで、明らかに誰も利用してない。

こんな道があったのかと思いながら進んでいくと、100mくらいであっさりと行き止まりになってしまった。

「え、これだけ………なの?」

俺と鈴木は思わず不満を漏らしてしまったが、加藤はドヤ顔で横を指差した。

「あれを見てみろよ」

見ると、道路の横はずっと土砂崩れ防止のコンクリートの土留めが続いてるものだとばかり思っていたのだが、途中でそれが終わり、一部分だけ金網が張られていた。

よく見ると、その金網の奥にさらに道が続いているようだ。

「ここ入れるぜ」

確かに、金網は張られているものの、それ自体はただの針金で固定されてるだけであり、切ってしまえば簡単に中に入れるようなものだった。

そして、加藤があらかじめ用意したニッパでその針金を切断し、俺達はジムニーで封鎖された道の奥へと入っていった。

正直、悪いことをしているという感覚は全くなかった。

金網は戻ってきてから針金で繋ぎ直せばいいし、それになにより、こんな封鎖された道を車でそう長く行けるはずはないと思ったからだ。

さっきの道でさえ草が生え小石が散乱していたのだ。

この道などちょっと進んだだけで倒木が道を塞いでいて進めなくなるだろう、そう思っていた。

ところが、意外にも予想してたような荒れ果てた光景はあらわれず、なんだったらさっきの道よりも小奇麗なほどだった。

俺達はそのまま車で細い山道を五分ほど慎重に走り続けた。

しばらくすると、目の前にトンネルがあらわれた。

トンネルと言うよりは、下をくぐれるようにアーチ状にくり抜かれたレンガ造りの水道橋、と言った方がいいかもしれない。

奥行きも四~五メートルくらいしかない。

幅もジムニーが通るには問題ない広さで、俺たちはそのまま車でそこをくぐった。

通り抜けると道がちょっと荒れ始め、アスファルトの上に石が散乱しはじめた。

不意に鈴木が声を上げた。

「おい、ちょっと止めろ、あれ見ろ!」

鈴木が指を指していたのは車の後方、さっきくぐり抜けたトンネルの方向だったが、見ると、トンネルの出口をまたぐように鳥居が建っていたのだ。

神社にあるあの鳥居が、トンネルの出入り口に密着するように立てられている。

向こう側からは全く見えず、トンネルをくぐると自動的に鳥居も通るようにできてるとしか思えない。

何となく気味が悪くなった俺達は、戻るかどうかためらったが、とりあえず行けるところまで行こうということになった。

そこからさらに500mくらい進んだところだろうか。

これまでは荒れてはいたもののアスファルトが敷かれていた道が、境界線を引いたように途切れ、そこからは舗装されてない土の道がずっと続いていた。

気味が悪いことに、そのアスファルトと土の道の境界線の両端に、ちょうど祠みたいなものが二つ設置されていて、それを堺に手前がアスファルト、奥が土の道みたいに見えた。

このころになると、この先に何かあるんじゃないかという期待感と不安とワクワクが入り混じった気持ちになり、引き返そうという気持ちはなくなっていた。

幸いにも、土の道になってからも道幅は変わらず、木が倒れていて通れないということもなかった。

ただ、今思えば車輪の轍が全くなかったことや、封鎖されていた道にしてはキレイ過ぎることを、そのときに気づいておくべきだったかもしれない。

しばらく進むと、今までの山道がうそだったかのように開けた場所に出た。

俺達の車が進む道以外、左右一面平野しか見えない。

田んぼのようにも見えるが、使われている形跡も見当たらない。

いつの間にか空も雲ひとつなく青く澄みわたっているので、思わずその景色の素晴らしさに感動してしまったほどだった。

しかし、ふと我に返って思った。

いったいここはどこなのだろうか?

封鎖された道の奥にあったのだから、廃村か何かか?

俺達が普段生活してる所からそんなに離れた場所にあるわけじゃないところに、こんなに広々としてきれいな土地があったのかという事が、不思議なような驚きのような感じだった。

一体この一本道はどこまで続くのだろうか……

そう思いかけたころ、道の前方に黒い建物がうすーく小さく見えた。

近づくにつれ、それはどんどんと大きく見えてきて形をはっきりとあらわし始めた。

どうやら茅葺きの建物のようだ。

……が、それがただの茅葺きの建物ではないことはすぐにわかった。

異常に大きいのだ。

こんな大きさの茅葺きの建物は見たことがない。

学校の体育館くらいの大きさ。

いや、それ以上の大きさだろうか。

なぜ封鎖された道の奥にこんなに立派な建物が建っているのだろうか。

しかも、その建物の前まで到着してわかったことだが、今まで来た道はこの建物へ通じる一本道であり、途中に分岐など一切ないこと。

この建物がこの道の終着点になっていたこと。

廃村だと思っていたが、それらしき集落もなく、この建物が一つだけあって、今きたこの道は、この建物へ通じるためだけの道だとしか思えないのだ。

俺達は車を停めて外に下りてみた。

なんというか、こんなに清々しい気分になるものなのかと思った。

空気は澄み、空は雲ひとつなく青々とし、鳥や風の音も聞こえない。

春先のようなちょうどいい気温で、ずっとここにいたいと錯覚しそうになったが、目の前の馬鹿でかい茅葺きの建物がそれを打ち消した。

この建物は一体何なのだろうか?

茅葺きの建物は、手入れをしないと痛んでしまうと聞いたことがあるが、これはそうは見えない。

古く、全体的に黒ずんだ木造ではあるが、朽ち果てた感じはまったくない。

誰かが今でも利用しているのだろうか?

「中、見てみるか」

俺が提案すると、加藤はそうしようと乗ってきたが、鈴木は乗り気ではないらしく、

「とりあえず建物をグルっと回ってくるわ」

と言って歩き出してしまった。

建物の戸は重かったが鍵はかかっておらず開けることができた。

中を覗いてみると、カビ臭いような古臭いような独特の臭いがする。

「すいませーん!誰かいますか?」

……何の返事もない。当然といえば当然だ。

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やっぱ誰もいないんだと少し安心した俺と加藤は中へ入ってみた。

薄暗いものの、隙間からの光と入り口を開けた光で中の様子が伺える。

板張りの、だだっ広い空間が広がっていた。

棚らしきものが壁際に見えるが、何も入ってない。

その左側の壁には引き戸があり、その向こうにさらに部屋があるようだが、それ以外は何もなくて、床と壁しかない。

上は暗くてよく見えないが、天井裏まで全部吹き抜けているようだ。

少し勇気がいったが、その引き戸を開けて見ることにした。

ここまで来たら調べないと気が済まなくなっていた。

「すいませーん、誰もいませんね!?」

ともう一度確認してから、恐る恐る引き戸を開けると、中が意外にも明るくてギョッとした。

採光窓のようなものが上部に無数設けてあるらしく、入口側のこちらの空間よりも明るい。

しかし、その部屋が、明るいだけでなく異常なものであることにすぐに気がついた。

まず、とにかく広い。

まさに体育館くらいの広さがあった。

そしてその広い空間の中に均等に五本、異常に太い柱が地面から天井まで伸びていた。

この太さが本当に尋常ではなく、直径3mくらいある一本の木の柱で、長さが10m以上あるのだ。それが五本。

「おいおい……こんなでけー木って日本に存在すんの?」

加藤の言葉ももっともだった。こんな太い柱見たことがない。

何の意味があってこんな柱を立てたのか、と周囲を見渡しているときに、加藤が「アッ!」と声を上げた。

見ると、五本あるうちの真ん中の柱に、何か書いてある御札のようなものが、釘で打ち付けてあり、それが大量に柱に打ち付けてあった。
(一般的な頭のある釘ではなく、先の尖った鉄みたいなやつ)

字は毛筆で、漢字のような記号のようにも見えたが、なんて読むのかはわからない。

すると加藤が「何かくっついてるぞ」と言ってきた。

よく見ると、確かに御札と釘の間に、何か干からびたカタマリのようなものも一緒に打ち付けてあった。

何が一緒に打ち付けてあるのかな……と、俺と加藤はほぼ同時に上を向き、ほぼ同時にその答えを目の当たりにした。

打ち付けてあったのは、人間の耳だった。

おびただしい数の人間の耳が、御札とともに柱に打ち付けてあったのだ。

下の方のものは腐り落ちたり干からびたりしてわからなかったが、何故か上の方に打ち付けてあるものほど新しく、人間の耳だと認識できた。

おそらく数は1,000じゃきかなかったと思う。

しかも恐ろしいことに、そんなに時間が経ってないように見える耳も上の方にあるのだ。

「やべえ!!」

「うわああああああああああ!」

俺と加藤は猛ダッシュでその部屋から出て、入ってきた入り口からも出て、建物の外に出た。

ここがどういう場所なのかはわからない。しかしヤバイことは確かだ。

すぐに車で逃げ出したいところだったが、そうだ、鈴木がいない!

確か建物の外を周ると言っていた。裏側にいるのかもしれない。

俺と加藤は全力で走り、建物の裏側へ回った。

でかい建物なので、回りこむだけでもそこそこ時間がかかった。

裏側へ回ると、そこに鈴木はいた。

いたのだが、様子がおかしい。

ボーっとその場に立ったままだ。

そして次の瞬間、俺達もその場に立ち尽くしてしまった。

建物の裏側は、ただひたすら平らな平野が広がっているだけだった。

そしてその平野に、木で組まれた簡素な台が一列に、等間隔にずっと並べられ、その台の上に蝋燭が二~三個、煌々と火をつけて輝いている。

それが本当に誇張ではなく、地平線の向こうに霞むまで続いているのだ。

「何なんだここ!」

「やべえよおい!!」

俺と加藤の声で我に返ったのか、鈴木がこっちに気づいて寄ってきた。

そして俺と加藤が全く気づかなかったことを指摘してきたのだ。

「なあ、ここ、太陽ってどこに出てるんだ?」

太陽……そういえば空は青く澄み渡っていて雲ひとつない……のに、太陽がどこにも見当たらない。

空は明るいのに、空全体が一様に同じ明るさなのだ。

「なあ、俺は最初から変だと思ってたんだ……静かすぎるだろ?ここについてから、一度でも鳥とか生き物の声を聞いたか?もっと言えば!ここへ来る途中の道にも草一本も生えてなかっただろ!」

鈴木はもう半泣きになっている。

とにかくここにいてはまずいと、俺と加藤は鈴木をなだめながら車へと急いだ。

途中、建物の入口がチラッと目に入り、戸が閉まっているようにも見えた。

さっきオレと加藤は戸を開け放ったまま出てきたはずなのだが、しかしその辺ははっきりとは覚えていない。

とにかくここを去らなければ。

加藤の運転で元来た道を戻り、俺達はなんとか最初の廃道の入り口までたどり着くことができた。

国道に出ると、太陽が西に沈みかけていた。戻ってこれたんだと実感できた。

その後、俺にも加藤にも鈴木にも霊障とか呪い的な現象は一切起きていない。

しかし、あの日体験したことは紛れもなく事実であり、三人とも覚えている。

そして後日、例の廃道の入り口の横を通りかかったとき、以前は入れた細い道自体が頑丈な門で封鎖されていて、完全に通れないようになっていた。

もちろん、通れたとしても、もう二度とあの道に入る気はない。

(了)

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