短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

うちの娘が【ゆっくり朗読】3351

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 私が大学生の頃。帰りにタバコを買おうと思って、足を止めたときのことでした。

309 :あなたのうしろに名無しさんが:04/06/24 01:17 ID:2bUeiwk6

6、7歳位の女の子がそばに寄ってきたのです。

「こんにちは」

私は変な子だなと思いましたが、一応「こんにちは」と返しました。

「なにしてるんですか」

「何って、タバコ買おうとしてるんだけど」

妙に話しかけてくるその子に、私はついそっけない態度で接していました。

私が財布を出しタバコを買い終えるまで、その女の子は「いい天気ですね」とか、「何年生ですか」とか、話しかけ続けてきました。

私は適当に答えていました。

私がそこを離れようとすると、その子は「お母さんが呼んでるから来てください」と言って、私の手を引っ張るのです。

私はいよいよおかしいと感じました。私に用があるとでも言うのでしょうか。

私はなんとか誤魔化して帰ろうとしましたが、女の子はこちらを振り返りもせずに「呼んでますから」と言い続け、私を連れて行こうとするのです。

私はその執念のようなものに引きずられるかのように、女の子の後に付いていきました。

もしかしたら本当に困っているのかもしれない、と思いもしました。

5分ほど歩くと、少し大きめの公園に着きました。

ブランコやジャングルジム、藤棚やベンチが見えます。

夕暮れ近いせいか、人影はありませんでした。

女の子は藤棚の方に私を連れて行きました。

その公園の藤棚は、天井の他に側面の2面にも、藤が伸びるようになっていました。

中にはベンチがあるのでしょう。

女の子は「お母さん連れてきたよ」と、藤棚の中に向かって呼びかけました。

私からは角度が悪くて、そのベンチは見えませんでした。

中を覗きたかったのですが、私の手をしっかり握っている女の子を振りほどくのが、なんだか悪いような気がして出来ませんでした。

「すいません、うちの娘が」と、藤棚の向こうから声がしました。

普通の、何の変哲もない女の人の声でした。

ですがその声を聞いた瞬間、全身に鳥肌が立ち、ヤバいという気持ちになったのです。

一刻も早く、そこから逃げ出したくなりました。

「わたし、遊んでくる」と唐突に女の子が言い、藤棚のすぐ向こうにあるジャングルジムへ向かって行きました。

私はハッと我に返りました。

「すいません、うちの娘が」

また、あの声がしました。なんの変哲もない声。今度は鳥肌も立ちません。

気のせいだったのか…?

私は意を決して、藤棚の向こう側のベンチが見える場所に、ほとんど飛び出すような勢いで進みました。

飛び込みざま、ばっとベンチを振り返ります。

……そこには、少し驚いたような顔をした女性が座っていました。

肩くらいまでの髪をした、30過ぎくらいの女性です。

「すいません、うちの娘が」

彼女は、今度は少しとまどい気味にそう言いました。

……なんだ、普通の人じゃないか。

そう思うと急に恥ずかしくなり、私は「ええ、まぁ、いえ」などと返すのが精一杯でした。

私はその後、その女の子の母親と軽く世間話をしました。

天気がどうだの、学校がどうだの……と、どうでもいい話なので省きますが。

母親も言葉少なですが、普通に話していました。

女の子は藤棚のすぐ隣、私の背後にあるジャングルジムで遊んでいます。

そろそろ日も沈もうかという頃合い。

公園はオレンジ色に染まりつつありました。

私はふと、当初の目的を思い出しました。

何故私がここに連れてこられたのか、です。

そこで、「あの、どうして僕をここへ……」と問いかけました。

その瞬間です。

「マリっ!!」と、もの凄い声で母親が叫びました。

おそらくあの女の子の名前。

私はバッと、背後のジャングルジムを振り返りました。

すると目の前に何かが落ちてきて、鈍い音と何かの砕ける音が足下でしました。

ゆっくりと足下に視線を向けると、あの女の子、チエという女の子が奇妙にねじくれて倒れていました。

体はほぼ俯せなのに、顔は空を向いています。見開いた目は動きません。

オレンジ色の地面に赤い血がじわじわと広がっていくのを、私は呆然と見ていました。

警察、救急車、電話…などと単語が頭の中を飛び交いましたが、体は動かなかったのです。

そのとき、女の子がピクリと動き、何事かを呟きました。

まだ生きてる!と私は走り寄り、女の子が何を言ってるのか聞き取ろうとしました。

「…かあ…さ…」

お母さんと言ってるのか!?

私は藤棚を振り返りました。

ですが、彼女の母親の姿はそこにはありませんでした。

そういえば…最初に叫んだときから、母親はここへ駆け寄ってもきていません。

助けを呼びに行ったのでしょうか。

「お…いちゃ…」

再び女の子が呟いたので、私はそちらの方を向きました。

「大丈夫だから。お母さんが助けを呼んでくれるから」と、そんなことを女の子に言ったような気もします。

でも気休めです。

どう見ても、首が折れているようにしか見えませんでした。

私は、今ここにいない彼女の母親に怒りを覚えました。

「おか…さんが……よんで…か…」

女の子はまだ呟いています。

……おかあさんが呼んでるから…?

私は上、ジャングルジムを見上げました。

そこには、さっきの母親がぶら下がっていました。

濁った目、突き出た舌、あまり書きたくない。死人の顔です。

そして母親の外れた顎がぐりっと動き、

「すいません。うちの娘が」

あとはあまり覚えてません。

私はその時に、気を失ったのだと思います。

私は気づくと、夜の公園で呆けていました。

そのジャングルジムは、その後取り壊されたと記憶しています。

(了)

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