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牛の墓の話【ゆっくり朗読】4200

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私が通っていた高校は、数年前に改築され今では近代的な姿に変貌を遂げているが、私たちが在学中はどこもかしこも古めかしい学校だった。

518 :本当にあった怖い名無し sage: 2006/05/24(水) 18:50:02 ID:SPWcp6noO

歴史だけは県下有数というこの学校に、昔からひっそりと語り継がれているという、ある怪談話の伝説があった。

それは通称「牛の墓の話」という名前なのだが、タイトルだけ聞くとオカ板でおなじみの「牛の首」を思い浮かべる人もあるかと思う。

私もオカ板を覗くようになったのはごく最近なのだが、私の学校に伝わっていた「牛の墓」話というのは一般的にはいわゆる「牛の首」系の怪談話でメジャーな展開である「あまりに恐ろしすぎて誰も話すことができない」系統の語られ方をされていたのも不思議と共通していた。

しかしある先輩は「安保闘争が盛んな時代の、学生運動に絡んだ話らしい」と語り、同じ高校のOBである親戚の兄(十歳ほど離れている)は「大正後期から昭和初期の話らしい」と聞かされた。

話のタイトルも「牛の墓」という説と「牛のバカ」という説もあり、まさに正体不明の怪談話といえた。

「牛の墓伝説を詳しく調べよう」

私にそういったのは中学時代からの友人の日塔だった。

季節は衣替えの直後だったと思う。

日塔は私と違い優等生で成績は常に学年上位。

だが中学の頃からオカルトやらファンタジーにかなり傾倒しており、この話ももともとは日塔が定年間際の老教師から聞いてきたのがそもそもの始まりなのだ。

しかし「牛の墓(バカ?)」伝説の調査ははかばかしくなかった。

日塔は図書館で地方版の新聞を読み漁り、かつての卒業生を訪ねたり大学の図書館にまで入りびたってさまざまな資料を飽きることなく調べていた。

私も何度か日塔の「調査」に付き合ったが、彼の熱の入れようはどこか異常ともいえた。

いや、おそらく日塔はそのとき既に何かに取り憑かれていたのかもしれなかった。

そして夏休みがやってきた。

日塔は予備校の夏期講習の傍ら、まだいろいろと郷土史を調べたりと相変わらず「牛の墓」について飽きずに調査していた。

私は日塔とは違う塾に通っていたのだが、夏休みの少し前から塾で同じ教科を取っていた同じ学校の女の子と仲良くなったりしていたため(笑)不純な目的ながら塾通いに熱心になり、「調査」へのモチベーションが落ちかけていた頃だ。

八月の上旬頃、私や日塔が所属していた部活の夏期合宿があった。

夏期合宿といっても要は部活動のあとで部員が学校内の宿泊室に泊まりこむだけなのだが。

その夜、しばらくぶりに日塔と会ってその後の調査具合を聞くと

「六十年代から七十年代あたりにかけて生徒が死んだ事件があったのは事実らしい」

「だけど、その事件とは別に、もうひとつ公表されなかった事件が過去に存在するという話を、ある古い卒業生に聞いてきた」

「どうもこっちの話こそ、牛の墓事件の(このとき確かに日塔は「事件」と言った)隠された真実があるように思う」

「そのことを知ってる人を今探している」

…そういった話を日塔はしていた。

その後、お定まりではあるが深夜にかけて部員たち数人で怪談話をいろいろしていたのだが、ある女子部員が「こっくりさんやろう」と言い出した。

日塔が名乗りを上げ、言い出した女子部員と十円玉に指を載せる。

私はオカルト好きだがチキンハートなので他の数人の部員たちとそれを眺めていた。

しばらくすると、室内の空気が妙にじめっ、というかじとっとした粘り気のある重苦しい雰囲気になりつつあるのを感じだした。

霊感の無い私ですら「あ、こりゃマズいかも」と思ったとき、こっくりさんをしていた女子部員と日塔の指先にある十円玉が不規則に、そしてめったやたらに動き始める。

「やだ…なにこれ…」

取り巻いていた私や、他の部員の顔色は悪いが、ランダムに動いて止められない十円玉に指を乗せた女子部員と日塔の顔色は青いのを通りこして白かった。

部屋の隅っこに誰か知らない人が立っている、ような気がするが身体が震えてそちらを見る度胸も無かった。

別の女子部員が泣きだした。

「お前ら何やってるんだ!!」

突然大声がしたかと思うと、前部長であり昨年卒業したOBの永藤先輩が部屋に飛び込んできた。

永藤先輩は女子部員と日塔の頬に平手打ちを見舞うと、十円玉を鷲掴みにして網戸をあけて外に全力で投げ捨てた。

そしてこっくりさんに使った紙を持って合宿場の外へ出ていった。

あとで聞くと紙は丸めてトイレの水に流してきたそうだ。

「冗談半分でもあーゆーのはやるんじゃねーぞ。おまえら」

永藤先輩はわりと霊感が強いらしく、寝ていたところ気分がざわついて吐き気がして目が覚めたらしい。

それにしても豪傑だ。

「もうおまえらおとなしく寝ろ」

日塔はまだ放心したような表情だったが、のろのろと立ち上がって男子用の宿泊部屋に向かいかけた。

「あ、それとな」

その背中に永藤先輩が声をかける。

「悪いことはいわんから、ほどほどにしろよ」

日塔は返事をせずに出ていった。

結局ろくに眠れないまま、次の日の朝になり私たちは解散して帰宅する。

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それからさらに二週間ほど経過して、夏休みも残り半分ほどになったある夜、日塔から電話がかかってきた。

「牛の墓だけど」

「まだ調べてたのか、永藤先輩も言ってたけどほどほどにしろな」

「だいぶ分かってきた。もうひとつの話の真相を知った女にだけ呪いがかかる……っていう話があるらしくてね」

「女だけ?」

「だから、俺らは大丈夫だよ。それで学生運動の頃の話も詳しく知ってる人に明日会う。明後日の登校日に全部聞かせるから、待っててくれよ」

そういって電話は切れた。

だが、その日日塔はとうとう学校に現れなかった。

気になったので夜自宅に電話をしたのだが、何度かけても誰も出ない。

日塔と連絡が取れないまま夏休みも終わる間際となり、私は日塔の自宅に向かった。

しかし日塔の自宅は雨戸がすべて閉ざされ、玄関の新聞受けには新聞がみっしりと詰まっている。

勿論呼び鈴を鳴らしてもなんの反応もない。

高まる得体のしれない不安だけを抱えて、その夏休みが終わる。

二学期になっても日塔の姿は学校には無いままだった。

日塔には年子で妹が一年にいたので、一年生の知り合いに尋ねても、妹も学校には来ていないとのことだった。

それからかなり経過してから私はある後輩女子部員の一人から噂を耳にした。

日塔の妹が、夏休み中に突然自殺を図ろうとしたらしい。

彼女はとても明るく活発で友人の誰もそんな兆候は見られなかったのだが、自分の部屋でナイフで首を切ったらしいという。

学校には日塔も日塔の妹も家の事情により転校、という連絡があり処理されていたことは後に明らかになった。

だが教師は転校理由については何も明らかにはしなかった。

それから十五年、未だに日塔のその後の行方は分かっていない。

結局、私は日塔から「牛の墓事件」の真相を聞くことはできなかった。

誰も中身を知らない最強の怪談話、という点でも「牛の首」とのかすかな共通項が見られるのだが…

ただ、私が気になっているのは日塔は「牛の墓事件」についての調査をノート二冊くらいに分けて持っていた。

その調査記録を日塔の妹が目にした、もしくは読んだ、という可能性は考えられないだろうか。

そうしないと、突発的な彼女の自殺未遂の説明がつかないのだが…

後日、永藤先輩とこのことを話したときにB先輩は私にこう言った。

「あいつ、あの夜こっくりさんする前から何かすごくいやな空気が身体を取り巻いていたんだよ。影が薄いっていうか、得体のしれない何かに魅入られてるような予感がしてな。俺気になってたんだ。多分それが怨念てやつじゃないかな」

日塔くん、かつてオカルトがとても好きだった君が、もしこれを目にすることがあれば、一度連絡ください

ちなみにその学校に「牛の墓」という話が伝わってる、というのはわりと知られている話らしい。

先日取り引き先との飲み会でお得意様の村形氏(五十代前半)という方と酒の席で歓談中

「阿部くんは真坂高校の出身なのか。昔あの学校には牛の墓って話が伝わってたらしいけど、きみくらいの年齢だと知らないだろうねえ」

と懐かしそうに語られたりしたので、妙なシンクロニシティを感じて投下しました。

日塔くん、もし君がまだあの調査記録ノートを持っていたなら、一刻もはやく焼き捨ててくれることを願います

(了)

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