以前、人家から相当離れた山中で数回夜戦を行った。
631 :名無し迷彩:2006/03/14(火) 16:34:43
月明かりがとても明るい、スナイパー好みの夜だった。
数戦終えて小さな空き地で小休止してると、そこいらにいそうな中型犬が現れた。
10mくらい距離を置いて近づこうとしないが、菓子とかを投げると5mくらいまで寄って来るようになった。
やせ細った犬は、よくよく見ると犬ではない綺麗な狐とわかったが、珍しいなくらいにしか思わなかった。
さあ開戦となり、流れ玉が当たってはと、その狐を追い払ったその時……
私を含めた数人がしっかり見た。
それまでダラリと垂れ下がっていたその狐の尾は、一本や二本じゃない何本もあった。
その狐は小気味良く飛び跳ねながら、細い林道を横切り林道の山側へ……その間二度ほどこちらをふりむいた。
その二度目に低い声で鳴くと言うより唸り、声のようなものが聞こえた。
低い低い声だった。
私は『チガウナ』と聞こえたが、他の者は『チガウ』とか、ある者は『コレデハナイ』と聞こえたと後でわかった。
皆は、誰かが今の狐おかしいと言うまで、今自分が見た光景が目の錯覚と思いこんでいた。
そして、俺も俺もと今見た光景が現実とわかり、即刻撤収を止める者などいなかった。
話は前後するが……この場所は三週間ほど前に下見に来ていた。
もちろん昼間、といっても早朝だった。
林道脇に車を止めて、仲間とこのあたりならと話していると、ジムニーが二台凄い勢いでやってきた。
私の車が邪魔だったので直ぐにどけようとすると、「こんなとこでなにしっとるんじゃー」「さっさとどけんかー」
と散弾銃を構えたおっさんが降りてきた。
両車の後部には猟犬が何匹も………
ゲーマーがおもちゃのエアガンでも一般人に見せない様に気を使うのにと思ったが、かかわりたくないので、ぺこぺこしながら車を脇にどけると、二台はまた凄い勢いで走り去った。
仲間となんだあいつらはなどと話していると、遠くで「バンッ」「バンッ」と散弾銃の音と犬の鳴き声……
その時、ここは夜戦のみということになった。
そんな出来事もそろそろ忘れかけていた数週間後
私は新聞記事を見て背筋が凍った……
あの夜以上に怖かった。
その小さな新聞記事には、狩猟中仲間を誤射、さらに誤射した加害者が直後に猟銃自殺とありました。
まさにあの山です。
ごじつけと言われるかもしれないが……
あの狐は仲間か家族を撃たれ、復讐しようと犯人を探していたのではないかと……
似たような銃をもつ私たちが犯人かと近づいたのではないかと……
もちろん新聞記事の二人があの二人かはわからない。
もちろん二度とあの山には行きたくない。
あの夜、狐をエアガンで撃つような馬鹿が、私たちのチームにいなくて本当に良かった。
(了)