短編 洒落にならない怖い話

サバイバルゲーム#1116

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俺はべつに霊感とかない人間なんだが、一度だけ恐かった思い出がある。

547 :2003/11/16 22:59

5年前の夏、たしか7月の話。

当時、俺はいい年をしてサバイバルゲームにはまってた。

知らない方のために解説すると、おもちゃの空気銃を撃ち合う陣取り合戦みたいなもんなのね。

夏場は(昼間は暑いこともあり)もっぱら夜戦が専門で、その週末も、北関東T木県のK怒川の河原に十数人が集合して、夜戦に興じていた。

時計を合わせた覚えがあるから、深夜1時少し前だったと思う。

何回目かのゲームで、俺はフラッグ(相手の陣地のフラッグを取った方が勝ちになる)のディフェンスになり、フラッグの後方で藪に身を潜めて待ち伏せをかけてた。

今回俺のいたチームは優勢で、はるか彼方の敵陣地深くからエアガンの銃声が聞こえてくる。

まわりに全く人の気配はなし。はっきり言ってヒマなんだが、フィールドを回りこんで
奇襲をかけてくる奴もいるから気は抜けない。

河原ということで月明かり以外に照明もなく、あたりはマジで鼻をつままれてもわからないほど真っ暗。

ゆっくりと首を巡らせて(キョロキョロすると頭の動きで居場所がばれるので)あたりを警戒していると、50mほど先の藪から人の上半身が出ているのに気がついた。

白っぽい半袖の服を着た、肩ぐらいまでの髪の女性っぽい人影が俺の方を見てた。

エアガンはおもちゃだけどそれなりに威力があり、まともに顔や眼に当たれば大怪我をすることもある。

だから、ゲーム中に部外者が入ってきた場合にはすぐにゲームをストップすることになってた。

俺はすぐに大声で「人がいまーす!中止!中止でーす!!」と叫んだ。

前線のあたりでも「中止ー」「中止だってよ」と叫び声がする。

俺はその人にお詫びを言おうと思い、藪の方へ駆け出した。女の人はじっとこっちを見てた。

「すいません」と声をかけようとしたとき、人影はすーっと動いて、森の中に入ってしまった。

やべ、恐がらせちゃったよ(なにしろこちらは迷彩服で顔を黒く塗っておまけに銃を持ってる)と思い、その人を追って森のほうへ向かったんだが、ライトをつけて探しても見当たらない。

そのうちに他のメンバーも集まってきた。事情を話し、みんなで声をかけながら10分以上も探したんだが、どうしても見つからないんだよ。森の中もくまなく捜したのに。

俺は自分が見たものがだんだん恐くなってきてた。

なんで夜中の12時過ぎに女がこんな所を歩いてるんだ。

第一、俺がその人を見た場所にはフィールドを横切って来るしかない。そんなの誰も気づかないわけがない。

だがなんぼ探しても見つからないので、結局、俺の見間違いだということになり、ゲームは再開になった。

俺はまたディフェンス。今回は左右から進んでくる敵が優勢で、開始から10分後には銃声がかなり近くなっていた。

俺は地面に伏せたまま銃をしっかり構え、いつでも撃てるように照準器ごしに人のいるあたりを睨んでた。

そしたら、なんか視線を感じる。気のせいではすまないくらいに視線を感じる。

首をゆっくり左に振って、眼だけで自分の左横を見る。

真っ暗闇の中、3メートルくらい先の地面に、女の人の首が生えてた。さっきの人だとわかった。

色白の顔に、なんか普通じゃ考えられないぐらい口ががばーっと開いてて凄い笑い顔。

声は聞こえないけど顔をひくひくさせて笑ってた。確かに笑ってた。そんで俺をじっと見てた。

その首が潜望鏡みたいに地面の上をざ、ざ、ざーって動いて俺の正面に回ってゆっくり近づいてきたんだよ。

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俺はもうパニック状態だったんだが、なんか伏せたまま体が動かない。

ああいう時って逆に悲鳴とか出ないもんなんだね。たぶん30秒ぐらい俺はその女と見つめあうというか、にらみ合ってたと思う。

女の顔が俺の顔から50cm位まで近づいてきたところで、俺はやっと体を起こせたが、足に力が入らない。腰が抜けて立てない。

座り込んだままケツであとずさって、今でも馬鹿なことをしたと思うけど、その顔をエアガンで撃った。

そしたら女の顔が凄い恐い顔になって上目遣いに俺を睨んで、すーっと消えた。

その後はゲームどころじゃなく、俺は体調が悪いと言って休憩所のターフでライトとラジオをつけてじっとしてた。

みんな楽しんでるのに水を差しちゃ悪いと思ったから、俺が見たもののことは誰にも言わなかった。

翌朝解散になって、帰り道、車に乗せてくれた友人にだけそのことを話した。

その友人は意外なことに「・・・お前も?」と聞いてきた。

そいつの場合は、エアガンにつけたスコープを覗くたびに、視界いっぱいに女の顔が見えていたらしい。

それからあのフィールドでのゲームにはどうしても参加できなかった。

ああくそ、今思い出してもだめだ。

(了)

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