あらすじ
八丈島に太兵衛(たへえ)と佐吉(さきち)という二人の腕の良い漁師が住んでいた。
佐吉は島でも一番の男前で、太兵衛は島一番の力持ちだった。
二人は子供の頃から大の仲良しだった。
二人とも船主の娘、ヨネが好きになってしまった。
勿論ヨネもこんな二人が好きだった。
それを知った父親の船主が、こう言った
「わしはどちらか稼ぎの多い方に嫁にやりたい」
それからあれほど仲の良かった二人はまるで敵同士のようになり、魚の獲り合いを始めた。
ある波の静かな日、その日は太兵衛の方にはさっぱり魚が寄り付かず、なぜか佐吉の方だけに魚がどんどん食いついてた。
佐吉の船底はみるみる魚で一杯になり、獲れるだけ獲って太兵衛を追い抜いてやろうと夢中になるうち、魚の重みと大波をかぶって佐吉の舟は沈んでしまった。
佐吉はお前の舟に乗せてくれと太兵衛に頼むと、ヨネを譲ってくれるなら乗せてやると言う。
「それとこれとは話が別だ」
と佐吉が断り、太兵衛の船のふちに手をかけると太兵衛は木の舵で力いっぱい佐吉を殴った。
「貴様がヨネをよこしさえすりゃぁ、こんな事には……」
太兵衛は何度も佐吉を殴り、血まみれになった佐吉は海の中に沈んでいった。
村へ帰ると太兵衛は、自分のやった事のあまりの恐ろしさに家の中へ閉じこもり、ヨネのことなどすっかり頭になかった。
外では佐吉が漁に出たままいなくなったと大騒ぎになっていた。
それから何日か経ったある日、太兵衛が魚を釣っていると遠くからゆっくりと船が近づいてきた。
「佐吉か……生きていたのか!?」
現れたのは佐吉の亡霊だった。
佐吉は「……柄杓を貸してくれ。柄杓を……」と言う。
太兵衛が柄杓を差し出すと、佐吉は無言で海の水を太兵衛の船の中に汲み入れはじめた。
太兵衛は佐吉に謝るが、佐吉は海水を入れ続け、太兵衛の船は沈んでしまった。
溺れそうになった太兵衛は佐吉の船に近づき、乗せてくれと頼むが佐吉の船はスッと消えてしまう。
太兵衛はしばらくは海に漂っていたが、そのまま大きな波にのまれて姿を消してしまった。
(了)
[出典:http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/index.php?lid=398]