短編 ほんのり怖い話

アメリカのダウンタウンに住んでいた【ゆっくり朗読】1900

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今日はハロウィンだし、ひとつ海外の都市伝説でも語ろうか

159 :本当にあった怖い名無し:2013/10/31(木) 17:09:40.92 ID:COt81q9U0

5年前、僕はアメリカのある大きな都市のダウンタウンに住んでいた。

僕は夜型人間だったけど、ルームメイトはそうではなかったので、彼が寝てしまった後の夜中の時間はいつも退屈だった。

だから時間をつぶすために、夜中の長い時間、よく外を散歩して色々な考え事をしながら過ごした。

そういうわけで僕は4年くらいの間、深夜に一人で出歩くことを習慣にしていた。

怖いと思ったことはなかった。

ルームメイトには、「この町じゃ麻薬密売人さえ礼儀正しいんだよ」なんて冗談を言ったものだった。

しかし、ある晩のたった数分の出来事で、僕の考えは大きく変わってしまった。

その日は水曜日で、午前1時から2時の間くらいだったと思う。

僕は自分のアパートから離れた、警察のパトロールの順路にもなっている公園の近くを歩いていた。

一週間の中でも特に静かな夜だった。
車通りは少なく、歩いている人はひとりもいなかった。

その公園も夜の間は完全に無人だった。

「そろそろ家に引き返そう」と思いながら歩道を歩いていたとき、僕は初めて、その男に気がついた。

僕のいる側の歩道の遥か遠くに、男の影があった。
男は踊っていた。
奇妙なダンスだった。

ワルツに似ているが、一連の動きを終えるたびに、一歩前進するような奇妙な動きを見せた。

『踊り歩き』をしているといえば分かりやすいだろうか。
彼は僕のほうにまっすぐ向かってきていた。

「きっと酔っ払ってるんだな」と思い、僕はできるだけ車道側に寄り、その男が横を通れるだけのスペースを空けた。

彼が近づいてくればくるほど、優雅な動きがはっきり分かる。
彼はとても背が高くて、手足がひょろ長かった。

古めかしいスーツを着ているのも分かった。
彼は踊りながらどんどん近づいてきた。
顔がはっきり見えるくらいまで。

彼の目は大きく凶暴そうに見開かれ、頭を少し後ろに傾け、目は虚空を見上げていた。

口は痛々しいくらいに大きく開かれ、まるでマンガのキャラクターのような笑顔だった。

その目と、笑顔を見た僕は、そいつがこれ以上近づいてくる前に反対側の歩道に渡ることにした。

僕は道路をわたるために一瞬その男から目を離していた。

歩いて反対側にたどり着いたとき、僕は後ろを振り返り、立ち止まった。

彼は向こう側の歩道の真ん中でダンスを止め、身動きせず、一本足で立っていた。

彼は僕と平行に移動していた。
彼の顔はこちらに向けられていたが、目は相変わらず虚空を眺めていた。

口には依然として奇妙な笑顔が張り付いたままだった。

僕はすっかり怯えてしまい、再び歩き始めたが、今度は男から目を離さなかった。
僕が見ている間、そいつは動かなかった。

僕と男の間の距離が半ブロックほど広がったとき、僕は前の歩道が安全か確認するために、彼に一瞬背を向けた。

僕の前の車道と歩道には邪魔になるようなものはまったく何もなかった。
恐怖感から、もう一度彼のほうを見てみた。

彼は消えていた。
ほんの一瞬だけ僕は安堵した。

が、そんなものは一瞬で吹き飛んでしまった。

男は僕と同じ側の歩道に来ていた。
半分かがんだような姿勢でまったく身動きしていない。

暗闇と距離のおかげで、はっきりとは分からなかったが、その男が僕のほうに顔を向けていたに違いない。

僕が男から目を離したのはほんの10秒くらいだったのに。

彼は明らかに異常な速度で音もなく僕の側まで移動してきていたのだった。

僕はショックを受けてしばらく突っ立ったまま、しばらく男を見つめていた。

すると、彼は再び、僕に向かって動き始めた。
今度は踊り歩きではなく爪先立ちでやけにおおげさに動き。

まるでマンガのキャラクターが抜き足差し足で忍び寄ってくるように。

ただひとつだけマンガと違ったのは、男の異常な速さだった。

その場から逃げるなり、ポケットの防犯スプレーを構えるなり、携帯電話をかけるなりすればよかったのだが、
笑顔の男が忍び寄ってくる間、僕は凍り付いて何もできなかった。

男は僕から一台の車分くらいの距離の位置で立ち止まった。
彼はまだ笑っていた。
目は相変わらず虚空を見つめていた。

僕はなんとか声の出し方を思い出し、最初に心に思ったことをそのまま口に出そうとした。

何の用だよ!と怒った調子で言おうとしたのだが、
結局口から出たのは「なん…………」という、泣き声のようなものだけだった。

恐怖の匂いを嗅ぐことはできるか?それは分からないが、少なくとも恐怖は聞くことできるということをそのとき学んだ。

僕の出した声は恐怖という感情そのものだった。
そしてそれを自分で聞いて僕はより怯えてしまったのだった。

しかし男は僕の声にまったく反応せず、ただ突っ立っている。
笑い顔はまったく変わっていない。

永遠のように感じられた時間のあと、彼はくるりと向きを変えた。

とてもゆっくりと、また踊り歩きを始めて、僕から離れていく。

もう二度と彼に背中を見せるのはごめんだったので、僕は去っていく彼をただ見ていた。

男の影がどんどん小さくなり、見えなくなるくらい遠くに行くまで、見ているつもりだった。

そこで僕はあることに気づいた。
男の影が小さくなっていかない。
そして踊るのも止めていた。

僕は恐怖と混乱の中、男の影がどんどん大きくなっているのに気づいた。
彼は僕のほうに戻ってきた。

今度は踊り歩きでも、忍び足でもなく、走っていた。

僕も男から逃げるために走り出した。

僕はより明るく、車どおりもまばらにある道路に向かった。

逃げながら後ろを振り返ったが、どこにも彼の姿はなかった。

そして家までの残りの道を、いつ彼の笑顔がまた現れるかびくびくしながら、つねに肩越しに後ろを見ながら歩いた。

結局彼は二度と現れなかった。

僕はその夜の後も6ヶ月その都市に住み続けたが、散歩に行くことは二度となかった。

彼の顔は僕を恐怖させる何かがあった。

彼は酔っ払っておらず、そして薬でハイにもなっていない。
しかし彼は完全に狂っているように見えた。

そしてそれは見るに耐えない、とても恐ろしいものだった。

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