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短編 怪談

閻魔堂#1086

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先輩の話。

182 名前:雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] :04/08/31 00:43 ID:GcE7Lqzi

彼は中学を卒業するまで、山間の小さな村に住んでいた。

その村には、閻魔堂と呼ばれる小さなお堂があったそうだ。

本当に閻魔を祀ってあった訳ではなく、単なる呼び名のようなものだった。

実際、御神体はお面だと聞いていた。

直接目にしたことはない。

お堂の世話をする家は決まっていたらしく、他の者は関わっていなかった。

大切にされていたが、同時に、まるで腫れ物に触るかのような扱いを受けていた。

今にして思えば、一種の禁忌にされていたようだったと彼はいう。

中学最後の夏休み、集団登校日の前夜のことだ。

家の黒電話が鳴ると「お前に電話だ」と父が階下より呼ばわる。

こんな夜中に誰かと思えば、村でも札付きで有名な悪友からだった。

「今、仲間三人で閻魔堂を荒らしているんだ。お前も来ないか?

そうそう、祀っていたのは本当にお面だったぞ。

真っ黒でイボイボだらけ、おまけに角まで生えているけどな」

先輩は特に信心深い訳ではないが、悪友を不快に思う程度には信仰心があった。

性質の悪いことは止めろと言ったのだが、受話器から帰ってきたのは下卑た笑い声。

音声から察するに、どうやらお面を被って踊りふざけているらしい。

後ろの方から「あいつは根性がネェからなぁ」と罵る声が聞こえてくる。

腹が立って、力一杯に電話を切った。

翌日、学校で殴ってやろうかと待ち構えていたが、肝心の彼らが来ない。

帰りの途中で、直接文句を言いに家に行ってやろうか、そんなことを考えていると、急に職員室の方が慌しくなった。

教師が呼び戻され、どのクラスも自習となる。

何か只事ではない雰囲気を皆が感じている内、全生徒が講堂に集められた。

そこで校長先生より、昨夜この学校の生徒三人が、自殺をしたと伝えられた。

三人とも自分の部屋で、首を吊っていたらしい。

周りが騒然とする中、先輩は頭を殴られたような気がした。

間違いない。

死んだのは昨夜、お堂を荒らした奴らだ!

その後、校長が何を話したのかは、よく覚えていない。

家に帰ってみると、村の駐在警察官が来ていた。

前の晩に死亡者から電話があったと、家族が通報していたのだ。

告げ口するようで嫌だったが、正直に彼らと何を話したかを報告した。

知り合いの巡査は顔をしかめた。

お堂が荒らされたのは既に知っていて、多分彼らが犯人だろうと、警察も推測していたのだという。

「罰当たりモンが・・・」巡査の顔は歪んでいた。

不敬な行動に対する憤りだけでなく、何かを怖れているかのような顔だった。

巡査によると。

三人は昨夜家に帰り、ごく普通な様子で「ただいま」と家族に挨拶した。

その足で自分の部屋に向かい、すぐに首を吊ったのだそうだ。

時刻をすり併せて考えてみると、先輩に電話した直後に、彼らはお堂を後にして帰宅していたと推測された。

電話を切った直後に、一体何があったんだ?

先輩は思わず寒気がした。

その時感じた嫌な感じは、数日間も去らなかった。

結局、彼らは受験ノイローゼだということにされ、決着が付けられた。

三人とも進学などしないことは、村の皆が知っていたが。

お堂はそれからしばらく、鎖で巻かれて封鎖されていた。

もっともそんな厳重にしなくとも、近寄る者とていなかったそうだ。

翌年、彼は進学のため村を出た。

数年後に家族も引っ越ししてしまい、以来村には一度も帰ってはいないという。

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