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中編 山にまつわる怖い話

山の測量(後日談あり)【ゆっくり朗読】

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先月のことです。俺と杉山(仮名)は山へ測量に入りました。

山の測量に行く時は、最低三人で行くようにしていたんですけど、行くハズだった奴がインフルエンザで倒れてしまった。

他に手の空いてる人も居なかったんで、しょうがなく二人で行くことになったわけです。

でもやっぱり不安だったんで、境界を案内してくれる地元のおじさんに、ついでに測量も手伝ってくれるように頼みました。

おじさんは賃金くれればOKという事で、俺たちは三人で山に入りました。

前日からの雪で山は真っ白でした。

でもポールがよく見えるので、測量は意外にサクサク進みました。

午前中一杯かかって尾根の所まで測ったところで、おじさんの携帯が鳴りました。

おじさんはしばらく話をしていましたが、通話を終えると、急に用事ができたので下りると言い出したのです。

オイオイって思ったんですけど、

「あとは小径に沿って土地の境界やから、そこを測っていけばイイから」

って言われて、小径沿いだったら大丈夫かもな、まぁしゃーないか、みたいなムードで、結局、杉山と俺の二人で続きをやることになりました。

ところが、おじさんと別れてすぐ、急に空が曇ってきて天候が怪しくなってきました。

「このまま雪になるとヤバイよな」なんて言いながら、杉山と俺は早く済まそうと思ってペースを上げました。

ところで、俺らの会社では山の測量するのに、ポケットコンパスって呼ばれている器具を使っています。

方位磁石の上に小さな望遠鏡が付いていて、それを向けた方向の方位や高低角が判るようになっています。

軽くて丈夫で扱いが簡単なので、山の測量にはもってこいなんです。

俺はコンパスを水平に据え、ポールを持って立っている杉山の方に望遠鏡を向けて覗きました。

雪に覆われた地面と、枝葉に雪をかかえた木立が見えますが、ポールも杉山の姿も見えません。

少し望遠鏡を動かすとロン毛の頭が見えたので、次にポールを探して、目盛りを読むためにピントを合わせました。

『あれ?』

ピントが合うと、俺はおかしなことに気付きました。

俺たちはヘルメットを被って測量をしていたのですが、杉山はなぜかメットを脱いでいて、後ろを向いています。

それに杉山の髪の毛は茶髪だったはずなのに、今見えているのは真っ黒な髪です。

『おかしいな』

望遠鏡から目を上げると、杉山がメットを被り、こっちを向いて立っているのが見えました。

が、そのすぐ後ろの木立の隙間に人の姿が見えます。

もう一度望遠鏡を覗いて、少し動かしてみました。

……女がいました。

立木に寄りかかるように、後ろ向きで立っています。

白っぽい服を着ていて、黒い髪が肩を覆っていました。

『こんな雪山に……なんで女?』

俺はゾッとして、望遠鏡から目を離しました。

「おーい!」

杉山が俺の方に声を掛けてきました。

すると、それが合図だったかのように、女は斜面を下って木立の中に消えてしまいました。

「なにやってんスかー。はよして下さいよー」

杉山のその声で、俺は我に返りました。

コンパスを読んで野帳に記入した後、俺は小走りで杉山のそばに行って尋ねました。

「今、お前の後ろに女立っとったぞ、気ぃついてたか?」

「またそんなこと言うて、やめてくださいよー」

笑いながらそんなことを言っていた杉山も、俺が真剣だとわかると、

「……ま、マジっすか?イヤ、全然わかりませんでしたわ」

と、表情が強ばりました。

杉山と俺は、あらためて木立の方を探りましたが、木と雪が見えるばかりで女の姿はありません。

「登山してるヤツとちゃうんですか?」

「いや、そんな風には見えんかった……」

そこで俺は気付きました。

あの女は、この雪山で一人で荷物も持たず、おまけに半袖の服を着ていたんです。

「それ、ほんまにヤバイじゃないっスか。気狂い女とか……」

杉山はかなり怯えてました。

俺もビビってしまい、居ても立ってもいられない心持ちでした。

そんなことをしているうちに周囲はだんだん暗くなって、とうとう雪が降ってきました。
「はよ終わらして山下ろ。こらヤバイわ」

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俺たちは慌てて測量作業を再開しました。

天候はどんどん悪化して、吹雪のようになってきました。

ポールを持って立っている杉山の姿も見にくいし、アッという間に降り積もる雪で小径もわかりづらくなってきました。

携帯も圏外になっていました。

俺は焦ってきて、一刻も早く山を下りたい一心でコンパスを据え付けました。

レベルもろくに取らずに、杉山の方に望遠鏡を向けようとしてそっちを見ました。

すると、さっきの女が杉山のすぐ後ろに立っていました。

今度は前を向いているようですが、吹雪のせいで良く見えません。

杉山は気付いていないのか、じっと立っていました。

「おーい!」

俺が声をかけても杉山は動こうとしません。

すると、女のほうが動くのが見えました。

慌てて望遠鏡をそっちに向けてビビリながら覗くと、女は目を閉じて杉山の後ろ髪を掴み、後ろから耳元に口を寄せていました。

何事か囁いているような感じです。

杉山は逃げようともしないで、じっと俯いていました。

女はそんな杉山に囁き続けています。

俺は恐ろしくなって、ガクガク震えながらその場に立ち尽くしていました。

やがて女は杉山の側を離れ、雪の斜面を下り始めました。

すると、杉山もその後を追うように、立木の中へ入って行きます。

「おーい!杉山!何してるんや!戻れー!はよ戻ってこい!」

しかし杉山はそんな俺の声を無視して、吹雪の中、女の後を追いかけて行きました。

俺は測量の道具を放り出して後を追いました。

杉山はヨロヨロと木立の中を進んでいます。

「ヤバイって!マジで遭難するぞ!」

このままでは自分もヤバイ。

本気でそう思いました。

逃げ出したいっていう気持ちが爆発しそうでした。

周囲は吹雪で真っ白です。

それでも、何とか杉山に近づきました。

「杉山!杉山!しっかりせえ!死んでまうぞ!」

すると、杉山がこっちを振り向きました。

杉山は虚ろな目で、あらぬ方向を見ていました。

そして、全く意味のわからない言葉で叫びました。

「繧ィ繝�ぅ繧ソ!縺後ヰ繧ォ縺縺!」

口が見たこともないくらい思いっきり開いていました。ホンキで下あごが胸に付くくらい。

舌が垂れ下がり、口の端が裂けて血が出ていました。

あれは完全にアゴが外れていたと思います。

そんな格好で、今度は俺の方に向かってきました。

「……」縺溘j縲√!繧ュ繧ケ繝医縺励!」

それが限界でした。

俺は杉山も測量の道具も何もかも放り出して、無我夢中で山を下りました。

車の所まで戻ると、携帯の電波が届く所まで走って、会社と警察に電話しました。

やがて捜索隊が山に入り、俺は事情聴取されました。

最初はあの女のことをどう説明したらよいのか悩みましたが、結局見たままのことを話しました。

警察は淡々と調書を取っていました。

ただ、『杉山に女が何かを囁いていた』というところは、繰り返し質問されました。

翌々日、遺体が一つ見つかりました。

白い夏服に黒髪。俺が見たあの女の特徴に一致していました。

俺は警察に呼ばれて、あの時の状況についてまた説明させられました。

その時に警察の人から、その遺体についていろいろと聞かされました。

女の身元はすぐにわかったそうです。

去年の夏に、何十キロも離れた町で行方不明になっていた女の人でした。

ただ、なぜあんな山の中に居たのかはわからない、と言うことでした。

俺はあの時のことはもう忘れたいと思っていたので、

そんなことはどうでもエエ、と思って聞いていました。

けれど、一つ気になることがありました。

女の遺体を調べたところ、両眼に酷い損傷があったそうです。

俺は、杉山のヤツそんなことをしたのか、と思いましたが、どうも違ったみたいで、その傷は随分古いものだったようです。

「目はぜんぜん見えんかったはずや」

警察の人はそう言いました。

結局、杉山の行方は今でもわかっていません。

残された家族のことを考えると、杉山には生きていて欲しいとは思いますが、あの時のことを思い出すと、正直なところ、もう俺は杉山に会いたくありません。

ただ、何となく嫌な予感がするので、先週、髪を切って坊主にしました。

追申:坊主にした理由

自己責任系の『忌廻し』を、前に読んだことがあって、そんで、今回のことで気になりだして、髪の毛ボーズにしたんです。

杉山も髪の毛のばしてたし。

あの話『忌廻し』の方言から、女が行方不明になった町に近い感じがしたし。

俺はまあ勝手に、女に憑いてたモノが杉山に移って、それで女は死んでもたんかなぁって考えて。

で、杉山は今どこにおるんやろうって思うと、なんか怖くて髪の毛切ったんです。

後日談

杉山は春先に山で発見されました。

下着姿で凍死。

やはり目に怪我をしていたそうです。

眼窩に木片が残っており、どうやら木の枝などで目を潰したらしい。

もう一つ、杉山の失踪後に本社の事務員が一人行方不明になりました。

杉山が発見された場所から数キロしか離れていないところに車が乗り捨てあったそうです。

以上の話は実体験ではなく伝聞ですので信頼性は低いのですが。

一応このあたりの事情は書いておいた方が良いかと思い書き込みました。

あとは各自の判断にお任せします。

2003/02/04 17:50

(了)

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