あらすじ
昔、伊勢の山奥に牛鬼淵と呼ばれる深い淵があり、そこには顔が牛で体が鬼という恐ろしい化け物が住んでいると言われていました。
この山奥に、二人の木こりが山がけして木を切り出していました。
ある夜の事、いつものように囲炉裏端で年寄りの木こりがノコギリの手入れをしていると、妙な男が戸口のむしろをめくり顔を出しました。
「何しとるんじゃ?」と尋ねる男に、
年寄りの木こりが「ノコギリの手入れをしている」と答えました。
木を切るためのノコギリと知ると、妙な男は小屋の中へ入ってくる素振りを見せました。
そこで年寄りの木こりが
「じゃがの、最後の三十二枚目の刃は鬼刃といって鬼が出てきたら挽き殺すんじゃよ」
と言うと、妙な男はどこかへ行ってしまいました。
翌晩も、同じ男がやってきて同じ質問をして帰っていきました。
翌朝、木こり達が大木を切っていると、固い節の部分に鬼歯が当たりボッキリと折れてしまいました。
折れた刃を修理するため、仕方なくふもとの村まで下りる事にしましたが、若い木こりは面倒くさがって一人で小屋で待つ事にしました。
その夜、また妙な男がやってきて同じ質問をしましたが、若い木こりは酒も入ってたせいか「鬼刃の修理に行っているんじゃ」と答えてしまいました。
すると妙な男は「今夜は鬼刃は無いんじゃな」そう言いながら、小屋の中へヌーッと入ってきました。
次の日、ノコギリの修理を終えた年寄りの木こりが山に戻り、牛鬼淵のそばを通りかかると、若い木こりの着物がプカプカと浮いていました。
牛鬼は確かにいるのです、月の明るい晩には「ウォーン、ウォーン」と悲しげに鳴くそうです。
(了)
[出典:http://nihon.syoukoukai.com/modules/stories/index.php?lid=202]