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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+

扉の先に広がる異世界

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私には3つ上の姉がいる。

幼い頃から姉は何かの蓋を開けると、時折そこに奇妙な景色が見えると言っていた。その景色は、風に揺れる緑の草原の向こうに小高い丘があり、細い木が一本立っている。そして空は青く、強い風に吹かれて白い雲が流れるように動いている、まるでどこかで見たことがあるような風景だった。

姉の話によれば、それは絵画やテレビの映像のようなものではなく、まるで小窓がそこにぽっかりと開いて向こう側に繋がっているようなもので、自然の香りや風を感じることもあるという。例えば、クッキーの蓋を開けた時、戸棚を開けた時、冷凍庫を開けた時など、忘れたようなタイミングでその景色が見えるというのだ。

「それを見た時はどうするの?」と私が尋ねると、姉は「蓋を閉じて『これは気のせいだ』と目を閉じてから開き直すと元に戻る」と言った。そんな話を聞けば私もその景色を見たくなって、中学生の頃に家中のあちこちの蓋を開けさせたが、「多分人と一緒の時は見えないと思う」という姉の言葉通り、その景色を見ることは叶わなかった。

大人になってからも姉の不思議な話は時々していた。エアコンを掃除しようとして開けた時に草原が見えたのはさすがに笑ったが、一度だけ恐怖を感じたのは、玄関を開けて草原が広がっていた時だと話していた。今まで自分の身体が通るほどの広さでそれが開いたことはなかったのに、その時は「一歩踏み出せばそちらに行けてしまう」という状況が異常に恐ろしかったらしい。

私が特に印象に残っているのは、1年前に姉の家に遊びに行った時のことだ。姉は結婚して子供も生まれ、普通の家庭を築いていた。その日、4歳になる姪が「その景色に似た絵を描くようになった」と言って、私に見せてくれた。その絵は何の変哲もない緑の大地と青い空、そして遠くに木が一本立っているだけだったが、姪はそこを「れんごくさん?」みたいな名前で呼んでいた。そして、よく話を聞くと「悪いことをした人が行くところ」だと言うのだ。

姉の言うことや姪の絵を見ても、どちらかと言えば天国の景色のように思えていた私は、その言葉にぎょっとした。「私もなんとなくだけど、小さい頃からそう思ってたからびっくりした。あとはこの子が間違って向こう側にいかないようにしなくちゃね」と姉は、段ボール箱を覗いて遊ぶ姪を苦笑いで見つめながら言った。

その後、姉の家に遊びに行く機会が増えた。

姪の描く絵はますます精巧になり、草原や丘、木の細部まで描かれていた。姉はそれを「創造力が豊かだ」と微笑んでいたが、私はどこか心に引っかかるものを感じていた。ある日、姪が突然「ママ、れんごくさんがまた来たよ」と言ったのだ。

その時、私と姉は顔を見合わせた。「れんごくさんって誰のこと?」と姉が尋ねると、姪は「草原の向こうにいる人たちのこと」と答えた。私はその言葉に背筋が凍る思いだった。姪はさらに「れんごくさんたちは、ここに来たいって言ってるの」と言った。

その晩、私は姉と共に話し合った。姉は「これはただの子供の想像だ」と言ったが、その言葉にはどこか不安が混じっていた。私も無理に笑って「そうだね」と答えたが、心の中では姪の言葉が頭から離れなかった。

数日後、私は再び姉の家を訪れた。その時、姪は不安げな表情で私を迎えた。「どうしたの?」と尋ねると、姪は「れんごくさんたちが来たよ」と言った。私は慌てて家の中を見回したが、特に異常はなかった。しかし、玄関のドアを開けると、そこにはあの草原が広がっていた。

姪がその草原に向かって歩き出そうとした瞬間、私は彼女を抱き上げて「行っちゃだめだよ」と言った。姉も驚いて駆け寄り、ドアを閉めた。しかし、その草原の光景は私の脳裏に焼き付いて離れなかった。

その後、姉の家では玄関のドアが開くことはなかった。私たちはその草原の存在を忘れるよう努めたが、姪は時折「れんごくさんたちはまだいるよ」と囁いた。それを聞くたびに、私は不安と恐怖に襲われた。

数年後、姪が10歳になった頃、彼女は突然「あの草原にはもう行かない」と言った。理由を尋ねると、「れんごくさんたちはもういなくなったから」と答えた。私は安心したが、同時に彼女の成長と共にその不思議な現象が消えたことにどこか寂しさも感じた。

それからも、姪の描く絵には草原が描かれることはなくなった。私たちは普通の日常を取り戻し、姉も私もその出来事を忘れるよう努めた。しかし、心のどこかには、あの草原がまだ存在しているのではないかという思いが残っているのだった。

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