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短編 洒落にならない怖い話

ヤドリギ【ゆっくり朗読】2720

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自分は子供の頃からオカルトの類が大好きで、図書館なんかで読んでたのは、いっつも日本の民話や世界の昔話の怖いやつばっかりだった。

四国の片田舎で育ったから、遊び場は神社や昔の塚。

小高い丘になってて、中腹に横穴が掘られてて、中に何かを祭ってたり、戦時中は防空壕として使われてたりしてた。

ばちあたりというか、怖いもの知らずというか、そういうところに入り込んでは日が沈むまでやんちゃして。

つまり、自分は怖いものは大好きだけど、てんで霊感の類はないんだ。

そんな霊感ゼロの自分の周りには、なぜかいつも霊感の強いやつがいた。

小学校の時だ。同じクラスにケンちゃんという霊感の強い子がいた。

うちの母校は、戦時中兵隊さんの駐屯地として使われてたり、すぐそばにでっかい軍人墓地がせいか、ケンちゃんはよく、軍人さんや小さい子供の霊をみていたようだ。

子供心に作り話のうまい子だなあと思って、面白半分にしかきいてなかったんだが、ケンちゃんの霊感の強さは、遠足の時撮影された写真が証明することになる。

ケンちゃんが写っている写真がおかしいんだ。

赤いオーラが写りこんでるなんてのはかわいいほうで、ケンちゃんひとりが大きく写っているはずの写真は、一枚は右足がなく、別のケンちゃんワンショットは首が無かった。

遠足以来、なぜかケンちゃんは自分を避けていた。

意地悪も何もやった覚えのない自分は、ある日の昼休みに、ケンちゃんの仲良しタケちゃんに訳をきいた。

タケちゃんは困ったように、遠足の写真がおかしいのは、ミナト(自分)のせいだと言っているそうなのだ。

「どういうこと?」

「ミナトと一緒に撮ったり、ミナトがそばにいた写真が、みんなおかしいって……遠足の後も、学校でもミナトがそばにいると、いつも変なものを見るんだって」

たしかによく見直すと、集合写真やみんなでゲームをしてる写真など、自分も写っている数枚の写真に、赤い光の帯が写りこんでいた。

ケンちゃんによると、写っていないだけで、他の写真を撮ったときも必ず自分がそばにいたらしい。

自分はカッとして、タケちゃんが止めるのも聞かずケンちゃんにつめよった。

「何言いがかりつけて人の陰口言ってんだよ!」

ケンちゃんは驚いて自分を見ていたが、そのうち様子がおかしくなった。

目をまん丸に見開いて、ガクガク震えだしたかと思うと、

「いやああああおおおおぉぉぉぉぉ」

と叫んで泣き喚き始めたんだ。

その声を聞きつけた先生に、ケンちゃんは連れられて教室を出て行き、自分はケンちゃんをいじめたという罪で、こっぴどくしかられた。

それから一ヶ月、ケンちゃんは学校に来なかった。

中2の合宿では、「血まみれの男の霊を見た」と、隣のクラスの女子が泣き喚き、中3の長崎への修学旅行では、原爆の資料館で、うちのクラスの生徒と先生が吐いて倒れた。

高2の広島の修学旅行では、旅館の食堂の窓が突然割れたりバスがパンクした。

自分はやっぱ、団体行動に縁がないと思ってた。

大学進学で大阪で一人暮らしを始めた自分は、売れない漫才師のむっさんと出会った。

むっさんは漫才師としての収入だけでは生活できず、夜はカウンターだけの小さな居酒屋で働いていた。

自分はその頃恥ずかしながら夢があり、大学と生活費を稼ぐためのバイトで忙しく、深夜でも格安の値段でうまいものを食わせてくれる、むっさんの店に入り浸っては、青臭い夢を語ったり、むっさんの話に爆笑していたんだ。

むっさんは時々、自分の背中をバンバン!と強く叩いたり、さすったりすることがあった。

野郎にそんなことされて喜ぶ趣味はないんだが、むっさんにそうされると、なんだか背中が温かく、軽くなった気がして気持ちよかった。

「なあむっさん、それ何やってんの?」

「ああ、これ?」

むっさんは笑って、ほっけを焼きながら言った。

「ミナトはいっつも何か背負ってるからなー。おとしてやってんだよ」

背負ってる?

疲れやプレシャーやストレスのことだろう。

自分は、むっさんが焼いてくれたほっけを食いながら、そう思ってた。

「あんまり体弱らすと、背負いきれないもの背負ってもしらねーぞ」

むっさんが真顔でそう言った時も、無理はするなって忠告してくれたんだと思い込み、一人で感動してた。

そんなある日、仕事先のバイト君が自分を飯に誘ってきた。

あんまり職場の人間と行動をともにしないバイト君からの誘いに驚いたが、断る理由もなく、バイト君と居酒屋へ。

あまりお互いのことを知らなかったこともあり、自己紹介的な話をしつつ、二品、三品食ったところで、バイト君が切り出した。

「僕ね、あんまり人と飯に行くの、好きじゃないんです。その理由わかります?」

「はぁ?なんで?」

「例えば、3人で居酒屋行ったりするでしょ。でも、僕にだけは、3人以上の人数が見えるんです」

「…はぁ」

霊感商法ってやつですか。正直、あきれたのと同時に、バイト君の誘いに応じたことを後悔した。

「たいていみんな信じてくれないし、僕も見えちゃうとしんどいし、めったに人には言わないんですけどね」

自分の考えを見透かしたように、バイト君が苦笑した。

「でも、あえて言いますね。ミナトさん。あなた、日替わりで色んなもの連れすぎですよ」

何言ってんのこいつ。

何も言葉が出ない自分に対して、バイト君は静かに続けた。

「ミナトさんは、まるでヤドリギみたいに、色んなものがやってきては離れていってます。それ自体は問題ないんですよ。ミナトさんはどうやら見えてないみたいで、まったく気になってないみたいですし」

バイト君は下戸だそうで、ウーロン茶を一口飲んで続けた。

「でも、時々僕が同じ部屋にいるのがつらいくらい、強いものがしがみついてるときがあります。もう見てられません。専門家に見てもらったほうがいいですよ」

自分は唖然としたんだが、専門家=精神科=基地外……そういわれた気がした。

「病院なんか行く必要ねえよ!」って、どなってしまった。

でも、バイト君はひるまなかった。

「信じてもらえないのは分かります。でも今のままだと、いつかミナトさんに実害があるかもしれないんです。時々ミナトさんの周りで、温かい空気を感じるんです。残業で遅くなった夜とか。ミナトさんの相談に乗ってくれてた人いませんか?その人が心配のあまり、気を送ってくれて守ってくれてるんですよ」

むっさん……とっさにむっさんの顔が浮かんだ。

自分はそのままバイト君を連れて、むっさんの店に向かった。

久しぶりに会ったむっさんは、驚くほどやつれていた。

自分の顔を見るたび、「おせえよ!」と真顔でどなった。

店にはたまたま他に客もなく、自分とバイト君とむっさんの3人だけだったが、むっさんのそんな顔を見たのは初めてだった。

「あーミナトさん。この人ですわ」とバイト君がささやき、バイト君はむっさんに、なぜ店にやってきたかを手短に説明した。

むっさんは自分たちをカウンターに座らせ、自分は料理を仕込みながら話し始めた。

「俺な、昔から霊が見えたり、ちょっとした霊なら追っ払ったりできてたんだ。お前にもやっったことあるだろ。背中さすったり叩いたり。なぜかアレで離れていくんだ。独学だし、理屈はわかんないけどな」

むっさんの暖かい手を思い出した。

「でも、お前がはじめてうちに来たときはびびったよ。ジジイやガキ、犬猫、はては何か分かんないものまで背負ってたからな。これは俺の推測だけどな。お前は色んなものを呼んじまう体質なんだろ。色んなものがお前については離れていく。例えるなら、ヤドリギみたいなもんだな。お前の生まれた土地や血縁の影響かもしれんが、素人の俺にはわからん」

バイト君と同じようなことをむっさんも言った。

「もうひとつ分かってるのは、おまえ自身には何もないのに、周りが影響を受けるってことだ。人間、ある程度の霊感を持ってるやつはごろごろいる。でもお前といると、それが増幅されるんだ。俺も、お前をここに連れてきてくれたこのバイト君も、 今までお前の知らないところで影響を受けて、霊におびえてたやつはいるはずだ」

小学校のケンちゃんや中学の同級生、高校時代の出来事もそうなんだろうか……

むっさんに話してみると、「おそらくそうだろうな」とあっさり言った。

「問題は、今おまえの周りをうろうろしてるやつだ。これからお前の周りで変なうわさが流れ始めたり、体調を崩すやつが続出したり、 もしかしたらダイレクトに、『そいつ』を見てしまうやつがでてくるだろう。そいつは待ってるんだ。まずお前の周りを弱らせ、おまえが人間関係に疲れ、仕事に疲れて、弱るのを待ってるんだ。計算高くてたちが悪い。お前に恨みがあるんじゃないと思う。なんで他のやつみたいに、離れていかないのかも分からない。何が目的かも分からない。ただ、お前が呼んじまったんだ」

むっさんが自分のすこし後ろをにらみつけてるような気がして、思わず振り返ったけれど、自分には何も見えなかった。

「もしかして、電話くれたりメールくれてたのって……」

「ああ、なんか胸騒ぎしたり、夢にお前が出てくるようになって心配だったからな。まさか俺が心配しすぎて、バイト君にまで伝わってるとは思わなかったけどな」

むっさんがバイト君を見て笑ったけれど、バイト君は眉をひそめて黙り込むばかり。

「俺が助けになるなら力になる、しばらくうちに通え」

むっさんはそう言った。

その後、むっさんは自殺した。

むっさんの相方は、「ネタが書けなくなって悩んでいた」といっていたが、そんなことで自殺するような人じゃないのは、むっさんを知る誰もが知っていた。

バイト君は重度の鬱でバイトを辞めた。

一度バイト君の実家に電話をしたが、バイト君のお母さんがでて、「あなたのせいで!」と、訳のわからないことをわめいていた。

同僚の女の子が、「おかしな音がする」と言い出した。

警備会社が変わった。

主任が事故にあった。

同僚が転勤を申し出た。

社員旅行の写真に、おかしなものが写っている。

そんなうわさが流れ始めた。

なぜかだれも、その写真を自分には見せてくれない。

去年の年末、上司にしばらく休むように言われた。

特に大きなミスをした覚えもない。

食い下がったがとりあってもらえず、今休職中でネットやってます。

今も自分の後ろで、何かが言ったりきたりしてるのか、それとも、自分の背中に張り付いたままのやつがいるのか、自分にはわかりません……

(了)

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