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宙に浮かぶ少女(オマージュ)

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霧雨の夜、霊の証拠を探す友人が訪れた

夕方から降り始めた霧雨が本降りに変わった夜の十時を過ぎた頃、友人の酒井が私のマンションにやってきた。「エレベーターがおかしいよ。金属の擦れるような嫌な音がする。それに不規則な細かい振動もあるんだ。」築四十年の古い建物だから、動くだけマシだと私は言い聞かせた。酒井は苦笑しながらソファに腰を下ろし、雨に濡れた鞄からビニール袋を取り出した。その中から数枚の写真をテーブルに並べた。

酒井が持ってきたのは十枚ほどの心霊写真と呼ばれるもので、どれも写真の専門家が合成や加工はされていないと認めたものだと言う。「これがその証拠だよ」と言いながら、最初の写真を指差した。それは大きなブナの木を撮影したもので、右上の少し下に人間の顔のようなものが写っていた。私はそれを見て「典型的なシミュラクラだな」と言った。

「シミュラクラって何?」酒井がいぶかしげに尋ねた。私は説明した。「点や図形が逆三角形に配置されたものを見ると、人間はそれを顔だと判断してしまうんだよ。脳のプログラムの一種さ。」酒井は納得がいかないようだったが、次の写真を取り出した。それは女子高校生と思われる制服姿の七人が並んだ集合写真だった。「この右から三人目の子の肩に置かれている手だな?」と尋ねると、酒井はうなずいた。

「八人グループの一人が撮影者で、写っているのは七人。誰の手だ?」酒井の問いに、私は「馬鹿馬鹿しい、後ろにしゃがんだいたずら者の手だよ」と答えた。酒井はさらに数枚の写真を見せたが、すべて私は否定した。霊魂らしいものは空中のホコリ、意外な角度にいる人物が映り込んだだけ、不自然な姿勢で体の一部が消えて見えるだけなどと説明した。

それでも酒井は最後の一枚を取り出した。それは小さな机の並んだ薄暗い教室で、ワンピースを着た女の子が宙に浮かんでいるモノクロの写真だった。「これはだめだろ。ワイヤで吊り上げたか、飛び上がったところを高速シャッターで撮ったんだろう」と笑いながら写真を返すと、酒井は怪訝な顔をした。

後日、酒井から再び連絡があった。

「どうして君があの写真のことをそんなに詳しく知っているんだ?」と尋ねられた。私はあの時の詳細を何も知らなかったはずだったが、どうしても頭の中にあの情景が浮かんでしまうのだった。

ある日、酒井と再び会う約束をした。しかし、約束の日、彼は姿を見せなかった。不安になった私は彼のアパートを訪ねたが、そこに彼の姿はなく、部屋はもぬけの殻だった。ただ、机の上には一枚の写真が置かれていた。

その写真はあの夜見た教室のもので、今度ははっきりと、赤いワンピースを着た女の子が宙に浮かんでいた。まるで何かを訴えるようなその目が私を見つめていた。私はその写真を見つめるうちに、あることに気がついた。写真の隅に小さく「1994年5月」と書かれていたのだ。

1994年5月、その日はまさに酒井が生まれた月だった。そして、彼の母親が交通事故で亡くなった月でもあった。彼の母親は当時、赤いワンピースを着ていたという記録が残っている。

この出来事をどう解釈するかは読者に委ねるしかないが、私にはあの写真が何を意味していたのか、そしてなぜ酒井が姿を消したのかを理解する手がかりとなるような気がしてならなかった。酒井が霊の存在を信じるようになったのは、もしかしたら彼自身の過去に何か秘密が隠されているのかもしれない。そしてその秘密が、彼をあの夜、私のもとへと導いたのかもしれない。

この話を通じて、霊の存在について考えることは、単なる怖い話以上の意味を持つのだと感じた。現実と非現実の境界が曖昧になる瞬間、人は何を信じ、何を恐れるのか。酒井の行方とあの写真の真相は、今もなお私の心に深い影を落としている。

[出典:http://kamigamo603.blog.fc2.com/]

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