短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+

古椅子に隠された過去

投稿日:

Sponsord Link

知人の家には、古びた一脚の椅子がある。

椅子というよりは、一人掛けのクラシカルなビロード張りのソファだ。かつてどこぞのお屋敷の応接間に置かれていたと伝えられているこのソファには、不思議な力が宿っているらしい。そこに腰掛けてうたた寝をすると、決まって同じ悪夢を見るというのだ。

その夢の内容はいつも同じだ。目が覚めると、見知らぬ古めかしい屋敷の中にいる。豪奢な装飾が施された部屋には人影がない。外は真っ暗で、窓の向こうには深い森が広がっている。かすかな月明かりが木々の形を浮かび上がらせている。寒気を感じ、カーテンを閉めようとするその瞬間だった。

びたんっ。

まるで濡れた雑巾を叩きつけるような音と共に、窓の下から子供の手が現れ、窓ガラスに張り付いた。生白く、小さな手のひらが短い指をうごめかせている。驚いている間にも、次々と手のひらが現れ、窓を覆い尽くしていく。

びたんっ、びたんっ、びたんっ。

窓ガラスは無数の手のひらで覆い尽くされ、かすかな月明かりすらも遮られ、部屋は真っ暗になる。そして外から聞こえてくる子供たちの声。

「あーそーぼー」

その声が次第に大きくなり、何十人もの子供たちの唱和となる。

「あーそーぼー」

恐怖に身を震わせていると、近くで誰かが答える。

「──いいよ」

その瞬間、子供たちが歓声を上げ、大量の手が全身にまとわりつき、飲み込まれるような感覚に襲われる。そこで、いつも目が覚めるのだ。

この話を聞いた時、私は思わず「その椅子、呪われてるんじゃないのか?」と尋ねた。知人は苦笑いをしながら答えた。

「たぶんね。でもじいちゃんの持ち物だから、勝手には捨てられないんだ。それに、うたた寝さえしなければ座り心地のいい椅子だから」

この悪夢も、確かに見た時は不気味で不快だが、それだけだ。現実に何か影響を及ぼすことはないという。

「気をつけてさえいれば、捨てるほどのことじゃないよ」

彼の一家にとっては、そういうものらしい。

数時間後、俺は眠りから覚めた。

それにしても、夢の中で窓の外から誘う子供たちとは、いったい何者なのだろうか。そして傍らで彼らに返事をした声は、誰のものなのだろう。

この話を聞いて以来、私も一度その椅子に座ってみたいという興味が湧いた。とはいえ、実際にその椅子に座る勇気があるかどうかは別の話だ。だが、知人の話を聞いているうちに、この椅子にはもっと深い歴史や背景があるのではないかという思いが強くなった。

調査を進めるうちに、私はこの椅子がかつてどこにあったのかを突き止めることができた。驚くべきことに、この椅子はかつて有名な貴族の邸宅に置かれていたものであり、その邸宅にはいくつかの奇妙な伝説が残されていた。

その中でも最も興味深かったのは、ある夜、邸宅の主が突然失踪したという話だ。主は家族や使用人たちに「何かが呼んでいる」と言い残して姿を消したという。その後、邸宅には子供たちの笑い声が響くようになり、家族は次第にその場所を避けるようになったという。

後日談

数年後、私は再びその知人を訪れた。彼の家は変わらず、あの古い椅子も健在だった。しかし、彼は少し困惑した表情で私に話しかけてきた。

「最近、あの椅子に座って悪夢を見る頻度が増えてきたんだ。しかも、夢の内容が少しずつ変わってきている」

彼によると、最近の夢では、子供たちの手が窓ガラスに張り付くだけでなく、部屋の中にも現れるようになったという。さらに、彼の傍らで「いいよ」と答える声が、以前よりもはっきりと聞こえるようになってきたらしい。

「それだけじゃないんだ。ある晩、目が覚めた時に窓ガラスに手形が残っていたんだ」

その話を聞いて、私は鳥肌が立った。夢が現実に侵食してきているのではないかと思えたからだ。彼はその後も夢を見るたびに、現実でも奇妙な現象が起こるようになってきたという。

「最近、窓の外から子供たちの笑い声が聞こえるようになったんだ。しかも、その声は日ごとに近づいてきている」

その話を聞いて、私はこの椅子にまつわる真相を解明する必要があると感じた。彼と協力して、さらに調査を進めることにした。

すると、驚くべき事実が明らかになった。この椅子は、かつて子供たちが犠牲になった悲劇の現場に置かれていたものだった。その事件以来、椅子には子供たちの魂が宿り、座る者に夢を通じて訴えかけていたのだ。

この事実を知った私たちは、椅子をどうすべきか真剣に考えた。結局、私たちは椅子を手放すことに決め、専門家に頼んで祓いを行ってもらうことにした。祓いが行われた後、椅子からは異様な雰囲気が消え、悪夢もなくなったという。

しかし、私たちは決して忘れることはないだろう。あの椅子にまつわる恐怖と、それが引き起こした一連の出来事を。

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚, n+

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2024 All Rights Reserved.