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短編 集落・田舎の怖い話

おもんさま【ゆっくり朗読】2900

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母方のおばあちゃんが亡くなった。

九十七歳の大往生だった。

事情があって私は中学を卒業するまでおばあちゃんに育てられた。

おばあちゃんとはたくさんの思い出がある。

中でも印象深いのは、おばあちゃんがよく話してくれた昔話の数々。

地域に伝わる古いお話らしいけど、子供向けの『桃太郎』とか『金太郎』みたいな物語じゃなくて、ちょっと怖いお話が多かったからよく覚えてる。

お話ごとに登場人物とか出来事は違うのに、どの話も共通して舞台となる集落の特徴が同じだった。

必ず『『おもんさま』』という存在が登場していた。

集落の特徴は以下の通り

・住民の苗字は六種類しかない。(六つの親族)

・その六親族が、人体のように(頭・心臓・両手・両足)集落内に配置されている。
おばあちゃんは「右腕の家にじゃじゃ馬がいて~」という話し方をしてた。

・『頭』の場所には大きな屋敷。そこに住む親族は地主の家系。

・『心臓』の場所は寺。そこに住む親族は住職の家系。

・年に一度お祭りがある。『おもんさま』の誕生日。

・十年に一度にはもっと大きなお祭りがあって、その日に『おもんさま』は代替わりする。

・『おもんからくさ』という植物が集落いっぱいに生えている。

『おもんさま』については以下の通り

・集落の守り神で、『おもんさま』は女の人。

・『おもんさま』の魂は、普段は屋敷にあって、祭の時に集落に下りてくる。

・おもんからくさが大好物。(食べるらしい)

その他、集落の特徴は以下の通り

・子どもがイタズラすると、大人は「『おもんさま』のところに連れて行くぞ!」と叱る。

・子どもの頃から日常的に飲酒する。朝ご飯の時に飲む。

・出来が良い子は男女問わず寺で勉強させる。
いずれは集落の外に出て立派な仕事ができる。
だが、具体的に何の仕事なのかは分からない。

・集落の人々が盗み、殺し、姦通などの犯罪を犯すと、制裁としてひどい目にあう。
男の人の場合は、局部をちょん切られる。
女の人の場合は子どもを産めない体にされる。
おばあちゃんは「下腹を壊されて、女じゃなくなる」と言っていて、それが怖かった。

小さい頃はあまり疑問も持たずに聞いてただけだったけど、中学に入った頃は話の展開に疑問を持つようになっておばあちゃんに色々聞くようになった。

「『おもんさま』って誰?」
「おもんからくさってどんなの?」
「その集落はどこ?」
「子どもはお酒飲んじゃダメじゃないの?」

……などなど。

するとおばあちゃんは、集落が人体として形成されるきっかけになった話をしてくれた。

これがすごく強烈な話だった。

『おもんさま』は海の向こうから来た、それはそれは美しい女の人だった。

でも美しいのは見た目だけで、集落の人々を奴隷のように扱う冷酷な人だった。

夫と共に集落の人々を容赦なく虐待・圧制し、言うことを聞かせていた。

そしてある植物を集落中に植えさせ、そこから酒を作り、自分は飲んで遊んで暮らした。

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この植物が『おもんからくさ』

この酒はとても美味しいと評判で、近隣の集落にもよく売れた。

だが富を独り占めしたのは『おもんさま』の親族だけで、酒で得た利益をもとに集落を見下ろす高台に大きな屋敷を作り貧しい集落の人々を支配し続けた。

ところがある日、『おもんさま』の夫が集落の娘と浮気をした。

『おもんさま』は怒り狂い、夫と娘が酒を飲んでいる現場に踏み込んで娘を捕らえ、娘の腕を切り落とした。

しかし酒のせいで朦朧としていた娘は、暴れもせずボーっとしている。

怒りが収まらない『おもんさま』は、娘のもう一方の腕や両足を次々に切り落とした。

ここで『おもんさま』は娘を殺すかと思いきや、両手両足を切り落としても痛がらず生きている娘に逆に興味を持った。

両手両足を切られてもまだ生きている。いつまで生きるだろう? と。

そこで『おもんさま』は、両手両足を切り落とした姿のまま娘を生かしておいた。

酒を飲ますと痛がらないということは分かっていたので、酒が切れると泣き叫ぶ娘を笑いながら、何年も酒を飲ませて生かして娘をオモチャにして喜んでいた。

だが十年後に娘が死んだので、『おもんさま』は新しいオモチャを手に入れるべく夫に気に入った娘を選ばせ自分も気に入った少年を選んでは、次々に両手両足を切り落とし、そのままの姿で生かしておく、という遊びを続けた。

この頃には、もう夫の方が『おもんさま』を恐れるようになっていたので、せめてとばかりに集落の中央に寺を作り捨てられていた手足のない少年や娘の胴体を供養し、残りの両手両足は寺にある胴体にとって手足の配置となるように四方に分けて埋めた。

そしてその上に集落の人々を分けて住まわせ、供養を続けるように命じたという。

この話の胸糞悪いところは、非道を繰り返してきた『おもんさま』やその親族に何の報いもないところだった。

おばあちゃんによると、『おもんさま』は天寿を全うし満足して死んだそうだ。

しかも残った夫が、『おもんさま』が死んだことで集落の人々から報復がくるのではと考え、『おもんさま』の頭部を屋敷に保存し祈祷師に頼んで呪いをかけた。

その結果、『おもんさま』の頭部は腐ることなく、いつまでも美しいままだったので集落の人々はさらに怯えたという。

その上、寺の心臓と四方の手足を、『おもんさま』の頭がいつでも好きに操れるように、それぞれを道で繋いで整備した。

そうしてこの集落は、『おもんさま』の頭に操られる、可哀相な心臓と手足という『人体』になった。

この話を聞いた時は中学生だったから、さすがに創作でしょ……と思ったものの、そんな昔話があるってことにショックを受けた。

昔話といえば、てっきり勧善懲悪だと思っていたから。

おまけにちょっとゾッとしたのは、『おもんからくさ』はどんな植物か、とおばあちゃんに聞いたら

「あれだよ」と庭に植えられてる大きな植え込みを指差した。

細長い百合か朝顔みたいな白い花が、垂れ下がっている咲いている植物だった。

我が家では『おもんからくさ』という名前しかないから、正式名称は分からない。

その集落はもうないよと言って、おばあちゃんはそれ以上は教えてくれなかった。

私も怖くなって、それ以上は聞かなかった……

追記

ググってみたらチョウセンアサガオだった。

麻薬だったのか……

おばあちゃんが詳しく話さなかった理由が分かった気がする。

(了)

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