短編 怪談

『なろう』小説【ゆっくり朗読】

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以前からいわゆる「なろう」小説を読んでて、「俺も書いてみようかな」って思ってたんだ。

652 :本当にあった怖い名無し:2021/01/23(土) 01:25:04.58 ID:GXK45bxD0.net

で、その手のサイトには書き込まないけど、自己満足でいいやってワードで自宅で毎日書いてたんだ。本当の自己満足で。

内容はテンプレ通りの(俺がモデルの)主人公が転生して異次元で無双して
ハーレム作ってどんなすごいことしても、「あれ、俺なんかしちゃいました?」って
感じのやつ。誰にも見せる訳ないんだけど。

ハーレムの女も無条件で主人公に従順で、俺が希望を聞かせるどころじゃなくて、
俺の希望通りに自分から動いてくれるって設定。

最初は気晴らし程度と思って仕事から帰ってきてから書いてたが、だんだん面白くなってきて
仕事中も「早く帰って続きを書きたい」と思うようになってきた。思えば、この辺りでやばくなってきたんだな。

その内、職場での雰囲気が変わってきた。いや、俺に対するみんなの態度が変わってきた。

なんかよそよそしいんだ。俺はいつも通りに接しているのに。俺もそれがなぜか分からずイラつく日が続いた。

そんなある日、帰宅途中に後輩(女)から声をかけられた。

「鈴木さん、ちょっと一緒に来てもらっていいですか?」

このご時世、飲食店とかには行けないから、2人で缶コーヒーを買って近くの公園に行った。

後輩は同じ部署でコロナ前はよく一緒に飲みに行ったりした仲だ。深刻な顔をしているので、
何か相談をしたいのだと感じて、先輩として話を聞いてやらなくちゃ、と思って付き合った。

俺がベンチに座って「ほら、座れよ。」と俺の隣を叩いて言うと、「鈴木さん…前はそんなこと言わなかったですよね?」と彼女が言った。

「へ?」俺が間抜けな返事をすると、彼女は一気にまくし立てた。

なんか最近おかしいですよ?なんか口調が偉そうだし、普通の仕事をやっても自慢するし、特に女子には極端に馴れ馴れしいし。

「今だって『ほら、座れよ。』なんて前は言わなかったと思います。」

そう言われて俺はなんかすごく衝撃を受けた。常識が壊された感じがした。

「うるせーな!なんなんだよ!」

そう叫んで缶コーヒーを足元に投げつけ、足早にそこを去った。なんなんだよ、あいつ。なんで俺に意見してるんだよ…?

気分直しに家に帰って昨日まで書いた「小説」を見直した。

誰にも見せるつもりはないが、齟齬や矛盾がないか定期的に見直していたのだが、
最初から見直していて、さっきの後輩の言葉も頭に浮かぶと自分が書いてきた「小説」()がいかにご都合主義かってのがよく分かった。

しかし、それよりもよく分かったのは、いかに自分の小説に自分が「洗脳」されてたかってことだ。いつの間にか俺は、
自作のクソ小説の主人公と俺を一体化させて、「強くて優秀で女にモテる俺」を実社会でそれを実行してたと悟ったんだ。

考え直して一番自分の行為であり得ないと思ったのはついさっきの缶コーヒーを投げ捨てたことだ。

「食べ物・飲み物を粗末にしてはいけない」という親の教えを実行してきた俺が、小説を書く前は絶対しなかったことだ。

冷静になって考えてみると、「なんで俺はこんなこと言ったんだ」「なんで俺はこんなことしたんだ」というのが次々思い出された。

俺は即座にその「小説」を消去した。翌日出社してからも、「以前の俺」の姿を一生懸命に思い出しながら人に接した。

しばらくたつと、徐々に周囲の態度も俺が「小説」を書く前に戻っていった。特に女子社員の態度が変わったのが印象的だった。

一人だけでやったことで自分自身を変えてしまうことがあるんだなって恐ろしく思ったので書いてみました。

ちなみに、公園で俺を叱ってくれた後輩は人妻です。

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