異世界転生小説が現実を変えるなんて考えたこと、ないですよね。
でも、実は僕がその「普通じゃない」経験をした話なんです。
昔から「なろう」系の小説が大好きで、自分でも書いてみたいと思っていました。
投稿はしませんでしたが、自己満足のためにワードで毎日書いていました。
内容はよくあるテンプレで、僕がモデルの主人公が異世界で無双し、ハーレムを作って、「え、俺なんかしちゃいました?」って感じのストーリーです。
まあ、ありきたりな話ですね。
誰にも見せるつもりはなくて、ただの趣味でしたが、次第に仕事中も「早く帰って続きを書きたい」と思うようになり、気づけば仕事中もそのことばかり考えていました。
この辺りから、僕の生活はおかしくなっていったのです。
職場の雰囲気が変わってきたことに気づいたのもその頃でした。
みんなの態度がよそよそしくなってきたんです。
僕はいつも通りに接しているつもりだったのですが、何か違う感じがしました。
イライラする日々が続きました。
ある日、仕事が終わって帰る途中に後輩の女の子から声をかけられました。
「有島さん、ちょっと一緒に来てもらっていいですか?」と言われ、二人で缶コーヒーを買って近くの公園に行きました。
彼女は同じ部署の後輩で、コロナ前はよく一緒に飲みに行っていた仲でした。
彼女が深刻な顔をしていたので、相談があるのかと思い、先輩として話を聞こうと思ったんです。
僕がベンチに座って「ほら、座れよ」と言ったら、彼女が「有島さん、前はそんなこと言わなかったですよね?」と言いました。
「へ?」と間抜けな返事をすると、彼女は一気にまくし立てました。
「最近おかしいですよ。口調が偉そうだし、普通の仕事をやっても自慢するし、特に女子には極端に馴れ馴れしいです。今だって『ほら、座れよ』なんて前は言わなかったと思います。」
その言葉に僕はすごく衝撃を受けました。
常識が壊された感じがしました。
「うるせーな!なんなんだよ!」と叫んで、缶コーヒーを足元に投げつけて、その場を足早に去りました。なんで彼女が僕に意見するんだ…?
気分直しに家に帰って、昨日まで書いた小説を見直しました。
誰にも見せるつもりはなかったけれど、齟齬や矛盾がないか定期的に見直していました。
最初から読み直していると、彼女の言葉が頭に浮かび、自分が書いた小説がいかにご都合主義かよく分かりました。
でも、それ以上に、自分がその小説に「洗脳」されていたことに気づいたんです。
自作の小説の主人公と自分を一体化させ、「強くて優秀で女にモテる自分」を実社会で実行していたんだと悟りました。
考え直すと、最もあり得ないと思ったのは、缶コーヒーを投げ捨てたことでした。
「食べ物・飲み物を粗末にしてはいけない」という親の教えを守ってきた僕が、小説を書く前は絶対にしなかったことでした。
冷静になって考えると、「なんで僕はこんなこと言ったんだ」「なんで僕はこんなことしたんだ」と次々と思い出されました。
即座にその小説を消去し、翌日出社してからも「以前の僕」を思い出しながら人に接しました。
しばらくすると、周囲の態度も徐々に小説を書く前の状態に戻っていきました。
特に女子社員の態度が変わったのが印象的でした。
一人の行動が自分自身を変えてしまうことがあると恐ろしく感じ、この話を書いてみました。
ちなみに、公園で僕を叱ってくれた後輩は人妻です。
[出典:652 :本当にあった怖い名無し:2021/01/23(土) 01:25:04.58 ID:GXK45bxD0.net]