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短編 ほんのり怖い話

見世の女(みせのおんな)【ゆっくり朗読】

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私の家族は、父は北海道の神社をしていた家系でハッキリと見える人。

824 本当にあった怖い名無し 2013/09/28(土) 04:46:03.97 ID:kK7u7IW90

母は勘が鋭く、誰かが入院したなど聞くと「〇月△日、◎時頃に亡くなる」と言い、実際、何回も当たったことがある。

ちなみに、母も見える人。

私は両親の血を継いだのか、見えるし勘は鋭いし、小さい頃から世界を色で見ていた。

例えば、気の合わない人は赤、本能的に好きになる人は青、一緒にいて安心する人はオレンジ、

のように、空の色や、水の色も視覚的に見たものと、感覚的に見たものではまったく違う、変な感覚の持ち主。

誰かが死んだ場所には色があって、それが時代によって違ったりする。

青は平成、昭和はセピアっぽかった。大正はコントラストが高めだったり。

そんな私は、某大手チェーンのカフェで働いているのだが、去年から喫煙席が変に暗くて誰かがいる。

一番奥の席、そこに女の人が座ってた。

色は青。きっと平成に亡くなった方だと思う。

それを私だけが見ているならまだしも、一緒に働いている友達も、そこになにかがいる、と言う。

まあ、なにかしてくる様子もなかったから無視してたんだけど、たまに、ガタガタと動いたりする。

でもやっぱり、そんなに気にならなかった。だってなにもしてこないから。

まあそんなこんなで、特になにもされることなく、店が改装した。

その女性がいたところは、照明が変わりずいぶんと明るくなった。

女性の陰は、少しだけ薄れた気がするなぁ、と思ってたんだけど、新しく出来た喫煙席に六人くらい新入りが増えた。

まあ今回の話の主役はその六人ではないから、今回は話しません。

わたしはその新入りに目をとられ、女性を気にすることがなくなったの。

でも一昨日、その女性が明らかにおかしかった。

いままではジッと座ってたのに、立ってた。しかも、歩いてるの。

前には進んでないけど、体が左右に揺れてる。ジワジワと、近づいてくる感じ。

でもまあ、いままでなにもしてこなかったから、と、その日は少し怖いなぁと感じながらも店を出た。

それで、昨日いつものように店に入ったら、その女性と目が合った。

ということは、その女性の場所が移動した、てこと。

いままで女性のいたところは、入り口からじゃ見えない、一番遠いところ。

それでも昨日行ったら、入り口から入ってくるわたしをジッと見てた。

赤黒くて、睨むみたいに私を見てる。

私はあわてて店を出て、色んな人に電話をかけまくった。

気が狂いそうだった。

逃げたかったけど、仕事あるし、とどこか冷静で。でも店に入ることはできなかった。

何人も電話した。そしたら、母にやっと電話が繋がった。

私はワンワン泣きながら、母に怖い怖いと言い続けた。

実際死ぬほど怖かった。

入り口からニメートルほど離れた従業員用駐輪場にしゃがみ込んで、泣きながら電話をする。そしたら母が、

「あんたなにしたの!!その声は誰!!」と怒鳴りだした。

その声?私以外その場にいない、と思い、顔を上げたら、女性が店の中に立って、私を見ていた。

入り口は全部ガラス張りだから、ハッキリ見えた。

私は、なんでいるの、と金切り声で叫ぶ。もちろん通行人もビックリ。

母は、すぐに行くから待ってなさい、と言うけど、こんな所で待ってるなんて正直無理。

足がもつれながらも店から離れ、近くの某ファストフードのビルの隙間に座り込んだ。

そしたらバイト先から電話がきた。

事情も説明しなきゃならないし、と電話に出て、ひたすら謝り倒す。

今日はもう無理です、行けません、と言い続けたときに、電話先の先輩が

「女の人の声で聞こえないよ!どうしたの!!」と言う。

他の人の声?まただ。でも、ビルの隙間。私以外の声なんか入るはずがない。

そう言われ、声が出なくなった。涙も止まらない。

そしたら、急にスマホの充電がなくなった。

家を出る直前まで充電してたのに、画面には「充電がなくなりました、シャットダウンします」みたいな文字。

でもその画面もオカシイ。文字が乱れてる。こんなバグは初めてだった。

薄暗いビルの隙間に耐えられなくなって、その某ファストフード店に入って母を待った。

待ってる間、耳元で誰かがしゃべってる。怖くて、泣きながら母を待つ。

十分ほどして、母がくると、父の実家から送られてきた水晶のブレスレットと、水を私に渡す。

「いますぐ飲みきりなさい」

と母は私に怒鳴って、震える手でタンブラーに入った水を飲み干す。ちょっと塩辛い。

飲み干すと、母は私を無理矢理ファストフード店から出し、車道まで出ると私に向けて大量の塩をぶちまけた。

目に入って痛かった……とにかく、痛くてまた泣く。

人通りの多い道だからもちろん周りはポカン。立ち止まる人もいた。

それでも、耳元でのしゃべり声はなくなった。

そんで家にタクシーで帰って、玄関で待ち構えていた父に怒鳴られる。

「明日必ずお祓いに行け。なんてもんを連れてかえってきたんだ!」

まだいるのか、と思いつつ、私はうなずいて、少しだけ寝ようと母の布団に潜り込んだ。

私の部屋は霊の溜まり場所だし、隣人が自殺した部屋に面してたから、部屋に入る気になんてなれなかった。

少しウトウトしはじめて、何気なく窓の外を見た。いる、あの人が。

でも割と冷静で、参ったなぁ、どうしよう、なんて思いながらちょっとだけ効いてきた睡眠薬につられて眠った。

それでも、深夜のバイトがあるから、深夜の別のバイトに向かう。

そのころにはすっかり心が晴れて、気持ちよくバイトをしてた。

バイトが終わって、三時過ぎに家に帰ってきて。

うちは五階だから五階までエレベーターを使って、外にある廊下を歩く。

そのとき、感じたことのない違和感を覚えた。

五階から見下ろすと公園があるんだけど、いるんだなぁ、そこに。

あの女性が立ってる。しかもこっちを見ながら。

あわてて部屋に入って、母の隣に潜り込んだ。

いま、ここ。みんな寝てるはずなのに、リビングに誰かいる。

参った。私は明日お祓い行きます。

(了)

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