短編 都市伝説

くねくね~秋田編#1129

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ネット上では結構人気のある、《分からないほうがいい》って話あるじゃないですか。
その話、自分が子供の頃体験した事と恐ろしく似てたんです。それで、体験した事自体は全然怖くないのですが、その《分からないほうがいい》と重ね合わせると凄い怖かったのです。
その体験話を元に《分からないほうがいい》と混ぜて詳しく書いてみたんですが……

これは小さい頃、秋田にある祖母の実家に帰省した時の事である。

2003/03/29 19:18

年に一度のお盆にしか訪れる事のない祖母の家に着いた僕は、早速大はしゃぎで兄と外に遊びに行った。

都会とは違い、空気が断然うまい。

僕は、爽やかな風を浴びながら、兄と田んぼの周りを駆け回った。

そして、日が登りきり、真昼に差し掛かった頃、ピタリと風か止んだ。

と思ったら、気持ち悪いぐらいの生緩い風が吹いてきた。

僕は、「ただでさえ暑いのに、何でこんな暖かい風が吹いてくるんだよ!」と、さっきの爽快感を奪われた事で少し機嫌悪そうに言い放った。

すると、兄は、さっきから別な方向を見ている。

その方向には案山子がある。

「あの案山子がどうしたの?」と兄に聞くと、兄は「いや、その向こうだ」と言って、ますます目を凝らして見ている。

僕も気になり、田んぼのずっと向こうをジーッと見た。

すると、確かに見える。何だ…あれは。

遠くからだからよく分からないが、人ぐらいの大きさの白い物体が、くねくねと動いている。

しかも周りには田んぼがあるだけ。近くに人がいるわけでもない。

僕は一瞬奇妙に感じたが、ひとまずこう解釈した。

「あれ、新種の案山子じゃない?きっと!今まで動く案山子なんか無かった から、農家の人か誰かが考えたんだ!多分さっきから吹いてる風で動いてるんだよ!」

兄は、僕のズバリ的確な解釈に納得した表情だったが、その表情は一瞬で消えた。風がピタリと止んだのだ。

しかし例の白い物体は相変わらずくねくねと動いている。

兄は「おい…まだ動いてるぞ…あれは一体何なんだ?」

と驚いた口調で言い、気になってしょうがなかったのか、兄は家に戻り、双眼鏡を持って再び現場にきた。

兄は、少々ワクワクした様子で、

「最初俺が見てみるから、お前は少し待ってろよー!」と、はりきって双眼鏡を覗いた。

すると、急に兄の顔に変化が生じた。

みるみる真っ青になっていき、冷や汗をだくだく流して、ついには持ってる双眼鏡を落とした。

僕は、兄の変貌ぶりを恐れながらも、兄に聞いてみた。

「何だったの?」

兄はゆっくり答えた。

「わカらナいホうガいイ……」

すでに兄の声では無かった。

兄はそのままヒタヒタと家に戻っていった。

僕は、すぐさま兄を真っ青にしたあの白い物体を見てやろうと、落ちてる双眼鏡を取ろうとしたが、兄の言葉を聞いたせいか、見る勇気が無い。

しかし気になる。

遠くから見たら、ただ白い物体が奇妙にくねくねと動いているだけだ。

少し奇妙だが、それ以上の恐怖感は起こらない。

しかし、兄は……

よし、見るしかない。どんな物が兄に 恐怖を与えたのか、自分の目で確かめてやる!僕は、落ちてる双眼鏡を取って覗こうとした。

その時、祖父がすごいあせった様子でこっちに走ってきた。

僕が「どうしたの?」と尋ねる前に、すごい勢いで祖父が、

「あの白い物体を見てはならん!見たのか!お前、その双眼鏡で見たのか!」と迫ってきた。

僕は「いや…まだ……」と少しおどおどした感じで答えたら、祖父は「よかった……」と、安心した様子でその場に泣き崩れた。

僕は、わけの分からないまま、家に戻された。

帰ると、みんな泣いている。

僕の事で……?いや、違う。

よく見ると、兄だけ狂ったように笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと乱舞している。

僕は、その兄の姿に、あの白い物体よりもすごい恐怖感を覚えた。

そして家に帰る日、祖母がこう言った。

「兄はここに置いといた方が暮らしやすいだろう。あっちだと、狭いし、世間の事を考えたら数日も持たん……うちに置いといて、何年か経ってから、田んぼに放してやるのが一番だ……」

僕はその言葉を聞き、大声で泣き叫んだ。以前の兄の姿は、もう、無い。

また来年実家に行った時に会ったとしても、それはもう兄ではない。

何でこんな事に……

ついこの前まで仲良く遊んでたのに、何で……

僕は、必死に涙を拭い、車に乗って、実家を離れた。

祖父たちが手を振ってる中で、変わり果てた兄が、一瞬、僕に手を振ったように見えた。

僕は、遠ざかってゆく中、兄の表情を見ようと、双眼鏡で覗いたら、兄は、確かに泣いていた。

表情は笑っていたが、今まで兄が一度も見せなかったような、最初で最後の悲しい笑顔だった。

そして、すぐ曲がり角を曲がったときにもう兄の姿は見えなくなったが、僕は涙を流しながらずっと双眼鏡を覗き続けた。

いつか…元に戻るよね……

そう思って、兄の元の姿を懐かしみながら、緑が一面に広がる田んぼを見晴らしていた。

そして、兄との思い出を 回想しながら、ただ双眼鏡を覗いていた。

……その時だった。

見てはいけないと分かっているものを、間近で見てしまったのだ……

(了)

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