短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

石鬼の呪い#1057

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お堂のなかにある石鬼の話。

自分の町はかなりの田舎で、田んぼが多くて何も娯楽施設がないところだが、鬼の姿、形をした石だけが異彩を放っていたというか、雑木林のなかにうっすらとたたずむ神社のお堂の中にその石はあった。

東大寺の金剛力士像におとらない顔の表情の迫力。

鋭い目付き、牙、爪。いまにも動き出しそうな躍動性。

石と言うよりも彫刻といったほうがしっくりくると思うが、彫刻ではないらしいのだ。

本物の鬼を石に封じたのだと。

この町のいい伝えというか昔話によると、条理にそぐわない不敬な行いをするとその者は鬼になった。

鬼は感染するらしく周りの人も鬼になってしまう。

鬼になると気狂いになり、物を壊したり、人を殺したりする。

かなり昔にまだ町が村だったとき、村人の三割が鬼になって、彼らを村総出で皆殺しにしたという。

鬼になった人達の魂を沈めるのと、もう不敬な行いをして鬼を出さないように戒めのために、最後に残った鬼を石に封じて祀ったという話だ。

では不敬な行いをするというのは何に当たるのか、まあ神さんに不敬な行いをするから罰が当たって鬼になるのは容易に想像できるがその神さんもはっきりしない。

神社に祀られている神さんは関係ないらしい。

名前を言ったりしてはいけない別の神さんがこの土地にいて、その神さんが悪さしたやつを鬼にすると内のおばあちゃんが言っていた。

この事を友人に話すと、興味津々で喰いついてきた。

彼は同じ大学の民俗、文化を専攻する学生で俺が夏休みで町に帰るとき一緒についてきて、いろいろと調べたいと言ってきた。あわよくば卒業論文のネタにもしたいとも。

俺は少し考えたあと、鬼にならないように気を付けろよと冗談を言って承諾した。

一週間、自分の家での滞在期間の間、彼は神社に行って石鬼を見たり、風土史を見たり慌ただしく動いていた。

夏休みがあけ、大学に戻ったあとも彼はちょくちょく俺の町に行っていた。

友人は、一ヶ月間で二、三回の頻度で町に調べに行き俺にいろいろと話してくれた。

分かったことは、あの土地には穢れや疫病を司る神様がいたということらしい。

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そして、彼は次第に大学に来なくなり携帯で話し合うようになった。

彼曰く、単位はもうほとんど取ったから授業に出なくても良いとのこと。

また携帯での電話のやり取りもなくなってきてもっぱらメールだけになった。

ついには、洞窟の中にある祀る石を見つけた、というメールを残して連絡が取れないようになった。

自分は胸騒ぎを覚えたが、その感覚は的中した。

この後起こった出来事を出来るだけ簡潔に書く。

夜、俺の町で古墳近くを自転車で通行していた人が彼に襲われたらしい。

交番まで逃げてきて、警察が彼を取り押さえたがとても正気ではなかったそうだ。

その間もいろいろあったが彼は精神病院に送還された。

彼は鬼になったのか?そんなわけがあるわけない。ただの迷信だと思いたい。

しかし、彼にこの話をした罪悪感が俺を強く支配する。

近々彼に会いづらいが面会にいこうと決心した。

ここからは、俺の推測だが……

もしかしてしてはいけない不敬な行いとは、彼が言っていた穢れや疫病を司る神の正体や名前を認識することではなかったのか?

認識してはならないからその神を祀る神社も建てられなかったのかもしれない。

彼が真相を知って何か祟られたのかもしれない。

今となっては闇の中だが……

(了)

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